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【書籍化】ヴェルシュタイン公爵の再誕〜オジサマとか聞いてない。〜【Web版】  作者: 藤 都斗


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 今日だけで泣きすぎなんじゃないか、と思う程泣いてしまった気がするけど、感情ってのはなかなか上手く制御出来ない訳で。

 これは多分だけど、今まで溜め込んでた全部が今日発散されちゃったんじゃないだろうか。

 そうでないとあんなに泣けないと思う。


 賢人じゃなかったらきっと物凄く酷い顔になってしまってるんだろう。

 これからオーギュストさんのお母さんの主治医の先生と会う予定もあるので、ヤバい顔にならなかった事は本当に有難いです。

 賢人ボディってマジ便利。


 結果として、シンザさんとアルフレードさんに全部打ち明けてしまったので、心はめちゃくちゃ軽くなった。


 本当に随分と、ストレスを溜め込んでしまっていたらしい。

 無自覚だった訳じゃないけど、どれだけ溜めていたのかはちゃんと把握してなかったから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。


 「......取り乱して、申し訳ない」

 「いえ、構いません」

 「そうそう、気にしないでいいよー」


 あれだけ泣いてる所を見せてしまったのにも関わらず、シンザさんもアルフレードさんも、全く気にしている様子が無い。

 困らせてしまったと思うんだけど、なんか少し嬉しそうにすら見えてしまって、なんだこれ、何が起きたの二人の中で。


 いや、うん、まあ、気にしないけどね?


 それよりも二人に心労を掛けてしまう事になりそうなのが、申し訳ない。


 結局の所、シンザさんにとっての私も、わたしも、どちらも同じ感覚らしいから、問題はわたしが入る前の、本来のオーギュストさんを知る人達だろう。

 知らせないままで済むならそれでいいけど、あの兄弟に説明しない訳にもいかないだろうし。


 「一つ、確認がしたい」


 アルフレードさんに問うように声を掛けると、彼は当たり前だとばかりに私を見た。


 「なんでしょうか」

 「シェルブール兄弟の事だが、彼等にはわたしの事を打ち明けるべきだと思うか?」


 なんか面倒臭いからとっとと言っちゃおうかな、と思っての言葉である。


 彼等兄弟が信用出来るのか、って部分を考えると、お兄さんの方は多分問題無い気がする。

 ただ、弟さんにはちょっとした不安がある。

 あの人、アルフレードさんよりはマシだけど、オーギュストさんが大好きだから。


 「......口調が旦那様になっておりますが、宜しいのですか?」

 「実を言うと、わたしの口調では気分が悪くなるのだよ。

 どうやらこの口調が身体に染み付いているらしいが、不愉快ならば止めよう」


 ちゃんとわたしとして話したい所ではあるんだけど、喋ろうと口を開くと鳥肌が立つようなゾワゾワした違和感でしんどくなってきたので、仕方なく口調は戻しました。


 女口調アカン。


 素敵なオジサマがおネエとか生理的に無理。

 いや、おネエな人を否定してる訳じゃなくて、自分がそれに該当してしまうのが美的感覚的に無理。許せない。無理。

 大事な事なのでもう一度言おう。


 わたしはわたしとして、素敵なオジサマでおネエなのが、自分、というのが許せないだけです。


 自分じゃなければそれはそれで否定はしないし、そういう生き方してる人だから逆に尊敬すらするよ!


 「いえ、正直な所、わたくしも違和感が酷く、むしろ有難く思います」

 「同じくー」


 困ったように笑う二人に、心から納得してしまった。


 ですよね!無理だよね!見てて辛いよね!


 「それで、あの二人の兄弟の件だが......」

 「そうですね......、アーネストは旦那様の変化に気付いていたようですので、彼には説明しても何ら問題は無いかと」


 「ふむ、ではパウルの方は」

 「言わなければ言わないで、きっと拗ねますね」


 「面倒だな」


 思わず言ってしまった言葉に、アルフレードさんはその柔和な笑顔を苦笑に変えた。


 「彼はそれだけ、旦那様の事が好きなのです」


 「......そうか」


 うん、なんかごめんなさい。


 「呼びましょうか?」

 「いや、そろそろ次の予定だろう」


 オーギュストさんのスペックが凄すぎるので、時間の感覚もバッチリ把握出来ています。凄いよね。


 「......確かに、もう昼食の時間を過ぎてしまっていますね...、早目に伝えたいとお考えでしょうが、本日はシュレイグ医師との面会もありますし...」


 「それは確か、15時、だったか」


 アルフレードさんがポケットから取り出した懐中時計で時刻を確認している横から、こちらも確認の為にと予定時刻を口に出す。

 するとアルフレードさんは素直に頷いてくれた。


 「はい、昼食は大奥様と摂られるご予定となっておりますので、兄弟と話せるのは一時間半程かと」

 「分かった、まずは母上との昼食を終え次第、彼らと会おう」

 「かしこまりました、そのように手配致します」


 恭しく礼をする彼とは対照的に、隠密であるシンザさんがどちゃクソ軽く手を挙げる。


 「はーい!んじゃあ、俺はまず手始めにこの国で隣国の情報集めてみるよ、伝手(つて)を探す事から始めないとだからね」

 「すまないが、頼んだ」

 「旦那サマからの信用を勝ち取る為だし、気にしないで良いよ!」


 物凄いドヤ顔で親指を立てて来たんだけど、なんか腹立つ顔してるのでシバキたくなってしまった。

 しかも言動も地味に気持ち悪いしね。このオッサン。

 だけどツッコんだら負けな気がしたのでスルーしようと思います。


 「では、何か分かれば報告を」

 「はいはーい、任されました! んじゃ、いってきまーす」


 シンザさんが音も無く消えるのとほぼ同時に、アルフレードさんが口を開いた。


 「では、わたくし達は食堂へ向かいましょう。ご案内させて頂きます」

 「分かった」


 そして私達はシンザさんを見送ることなくスルーして、いつもと殆ど同じように、執事であるアルフレードさんの案内で食堂へと向かったのだった。





 その後、何事もなく到着した食堂では、既にオーギュストさんのお母さんが席に着いていた。

 私が来るのを待っていたのか、食事に手を付ける事もなく、にこにこと笑いながら。


 昼食に遅れてしまった謝罪をしたけれど、彼女は余り理解していないようだった。

 やっぱり、主治医の先生のお話を聞いておきたい所である。


 私をオーギュストさんのお父さんだと思い込んだまま無邪気に笑う彼女は、なんというか、見てて悲しくなる。


 それから、心に地味なダメージを喰らいながらも恙無く昼食を終えた私は、オーギュストさんの執務室にて、シェルブール兄弟との面会をしていた。

 わたしの口から、わたしの口調で説明した。


 違和感がヤバかったけど頑張りました誰か褒めてくれ。


 「なるほどな、なァんか妙に心が強くなってるから変だとは思ってたんだよ」


 兄のアーネストさんが豪快に笑ったあと、何でもない事のように言った。

 

 「しっかし、まさか女の子たぁ思わなかったわ! 坊ちゃんの外見で女口調とかクソ笑えるんだが!!」

 「兄さん失礼です」


 バシバシと膝と叩きながら、爆笑までし始めた彼の頭を、弟のパウルさんが後ろからスパァンと叩く。


 そして問題のパウルさんなんだが、彼はというと、少しだけ懐疑的な視線をわたしに向けたあと、少しの逡巡の内に口を開いた。


 「つまり、亡くなった旦那様のお身体に、たまたま別の場所で亡くなった別人の魂が入り、そのまま神によって賢人とされてしまった、という事で間違いはございませんか?」


 確かめるように問い掛けるそれに頷いて肯定を示すと、彼は複雑そうな、なんとも言えない微妙な表情ながら、それでも理解はしてくれたらしかった。

 消え入りそうな小さな声で、そうですか、とだけ呟いて、彼は下を向いた。


 「こうなっちまったもんは仕方ねェやな、今更どうこう出来るもんでもなし、変えられるんならとっくにやってんだろうさ」


 「...でも兄さん」

 

 「勘違いすんなよパウル、俺ァまだこの嬢ちゃんの事を信用出来てる訳じゃねェ」


 その点に関しては、こちらも彼等を信用出来てるかと言えば完璧にはそうじゃないので、お互い様だと思う。


 しばしの沈黙があって、それから、パウルさんは俯いたまま呟いた。


 「すみません、少し、席を外します」


 それだけを言って、彼は扉を開けて部屋から出て行った。

 バタン、という音が響く中、アルフレードさんが彼の後を追おうとしたその時、アーネストさんが手を挙げて静止する。

 

 「ほっとけ、今は一人で考えたいんだろ。

 アイツはそんなに頭の硬い奴じゃねェ、ちゃんと納得してから、戻ってくる」


 兄弟だからこそ彼の気質を理解しているのだろう。

 アーネストさんは、そう言って、愛用しているらしい煙管を取り出した。


 それから暫く待ってみたけど、彼は帰って来なかった。


 凄く不完全燃焼だけど次の予定の時間が来てしまったので、仕方なく解散。

 これが終わればきっとちゃんと話せる筈だと自分に言い聞かせながら、オーギュストさんのお母さんの主治医の先生、シュレイグ医師を待つ。


 医者っていうと、オーギュストさんの雇ってたあの意思の弱そうなあの人はどうなったんだろう。

 なんだかんだですっかり忘れてたんだけど、解雇しちゃったんだろうか。

 アルフレードさんに丸投げしてたからすっかり忘れてた。


 ちゃんと生活出来てると良いけど、雇い主に毒盛る手伝いしてた医者とか今後生きてくの大変だろうからなぁ。

 もしヤバい事になってたら助けてあげたいよね、手の届く範囲だろうし。

 よし、後でアルフレードさんに聞いてみよう。


 そんな事をつらつらと考えていると、いつの間にか出て行っていたらしいアルフレードさんがノックと共に医師の到着を呼び掛けてくれたので、許可を出す。


 執務室の扉を開けたアルフレードさんを眺めながら思ったんだけど、なんか考えてると意識どっか行くのオーギュストさんの癖かなんかなんだろうか。


 「旦那様、シュレイグ医師をお連れ致しました」

 「ご苦労、下がっていい」

 「は、かしこまりました」


 恭しく礼をするアルフレードさんに、鷹揚に言葉を返す。

 なんかこの偉そうな口調がとても楽過ぎて楽なんだけどなんでこんなに楽なんだろう、とか凄くどうでもいい事を考えてしまった。


 わたし個人がアホなので言葉が全然出て来てくれない事がとても残念です。


 そんな事を考えながらもアルフレードさんが連れて来たシュレイグ医師を見たんだけど、ちょっとびっくりしてしまった。

 一言で説明するなら、今まで見てた女の人とは違うタイプの美女だろうか。


 垂れ目でボンキュッボンな、正しくお色気お姉さん。

 フェロモンみたいなものがムンムン出てそうな、マリリン・モンローが髪の毛を長くしてポニーテールにしたような、そんな美女。

 口元のホクロの色気がヤバいやつ。


 王家の影であるあの変態は、どちらかと言えばフェロモンより怪しさの方が強くて、色気よりもなんか別のヤバさがあったけど、この人は単純に色気特化の美女である。


 医者だから白衣とか着てるのかと思いきや、めちゃくちゃ際どい装備で、なんていうか目のやり場に困る服なんだけど、説明出来るかなこれ。


 鼠色したハイネックなのに臍と下乳が出てる。

 なんか、長袖なのにそんなに露出してると、ハイネックのシャツを変な位置でぶった切ってしまったのかと思えてしまう異様な服だ。


 疑問があるとすれば、なんで乳零れてないん?だろうか。


 なお、下は黒のホットパンツに、何故か網タイツと同色のニーハイ編み上げブーツである。


 太腿がムチムチで、男が見たら興奮して診察どころじゃないんじゃないかなコレ。


 なんかこれの呼び名があった気がするんだけど何だっけ。

 ぜ、ぜ......前提条件、いやこれは絶対違う。

 あ、絶対は付いてた気がするぞ?

 何だっけか、絶対、絶対......絶対無理しか出て来ないちくしょう。

 もういいや知らん。


 「ほほう、珍しいな、小生(しょうせい)を見ても興奮しないとは」


 お色気ムンムンな外見の割に、なんとも不可思議な喋り方で、ちょっと拍子抜けしてしまった。

 声音自体は色気のあるハスキーボイスなので、合ってると言えば合ってるんだけど、なんでこんな古風で中性的な喋り方なんだろうか。


 そう思うけど、それを口に出す訳にもいかないので、当たり障りのない言葉を返す事にした。


 「ふむ、それはすまないね、私には既に心に決めた者が居る故だとご理解頂けると嬉しい」


 「知っているさ、枯木病で死んだ妻だろう?」


 「......知っているのか」


 予想外の返答に、動揺して声がひっくり返らなかった私を誰か褒めて欲しい。

 今喉が引き攣ったから本気でヤバかったんですけど。


 いや、なんで知ってんだよって思ったけども、これはオーギュストさんの噂かもしれんね。

 もしかしなくても結構広がってるのかな?

 知らんけど。


 「それはそうだろう、小生が診ていたのだから」


 「ふむ?」


 なんかもっと予想外な所から来たぞ?どゆこと?


 「覚えがないと?、いやはや酷い男だ、あんなにも激論を交わした仲だというのに」


 わざとらしく大袈裟に落ち込んだ様子を見せながら、どこから取り出したのか分からないハンカチで、出てもいない涙を拭う彼女を正面に見ながら記憶を探すが、該当するのは一人だった。


 「ジュリアの主治医は白髪の男だったが?」


 激論を交わした記憶は確かにあるが、確実に目の前の美女では無いと断言出来る程には、全く外見にも口調にも類似点が見えない。

 だがしかし、目の前の美女は全く気にした様子もなく、うっそりと笑う。


 「それが小生だよ」


 「............どういう事だね?」


 何にも分からないんですけど?


 冷静に分析を始める脳が、置いてけぼりの心を放置して様々な可能性を模索する。

 淡々と進むそれを頭の片隅で眺めながら、目の前の美女を見詰めていると、当の本人が更なる爆弾発言を投下した。


 「実を言うと、(けい)の家庭教師もしていたよ?」


 いや待って本当にどういう事なの?

 なんなの?何が言いたいの?


 「......家庭教師は複数人居た」


 礼儀作法から剣術に魔法まで、バラバラの人が見ていてくれていた記憶しかないんですけど?

 しかもどの人ともカブってないよ?1mmも誰にも似てないよ?


 「いいや?小生一人だよ」


 「...............ふむ」


 だんだんかんがえるのがめんどくさくなってきたんですけど。


 頭のおかしい人って事でスルーしていいかな?いいよね?


 「小生は先代公爵と知己でね、家庭教師として住み込みで卿の全ての教育を見ていたよ、覚えがないかね?これならどうだ?」


 にこにこと笑ってそう告げた美女の姿が、ぐんにゃりと歪む。

 オーギュストさんの凄すぎるスペックから分かる範囲で、説明すると。


 それは幻覚でも魔法でもなく、物理的に(・・・・)歪んでいた。

 不定形で、様々な色をした人型の何かは、次々に、オーギュストさんにとって見覚えのある人々へと姿を変えていく。

 ジュリアさんを診ていた白髪の医者、剣術指南の頬に傷のある男、礼儀作法の女史、魔法の老師。

 一通りに変化を終えた人型の何かは、あの美女の姿へと戻った。


 「なるほど、そうかね」


 「驚かないのかい?」


 「驚いてはいるさ、だがしかし、把握したよ」


 原理は全く分からないし、むしろ訳が分からないけども、何者かは把握した。

 こんな事が出来るのは、世界でもきっとこの人達だけだ。


 「先生、あなたは賢人なのだな」


 「そうとも!卿が賢人となってからは、いつ会えるのかと楽しみにしていたよ!」


 あっはっは!と勢い良く笑いながら、彼女か彼かも分からないその人は両手を広げた。


 「ようやく会えたな、我が弟子にして新たな仲間、オーギュスト・ヴェルシュタイン!

 小生は卿の母の主治医シュレイグであり、卿の最愛の妻ジュリアの主治医であり、家庭教師その他諸々でもある、名をアビス!宜しく頼むよ!」


 ............うん、一個良いかな。



 濃いわー......。



 

【お知らせ】


第一回アース・スター大賞にて入選しました。


つまり、書籍化します。


_人人 人人_

> 書籍化! <

 ̄Y^Y^Y^Y ̄

_人人 人人_

> します! <

 ̄Y^Y^Y^Y ̄


( 。∀ ゜)ホントかなこれ

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[一言] 書籍化おめでとうございます。
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