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今回は魔法とかの説明回です。


 





 昨夜はマジでエライ目に遭った。


 なに?なんなの?なんでドMなの?

 どうしてドMである必要があったの?

 訳が分からないよ?


 ...そんな風に嘆いてみるものの、過去は変わらないし、何故か気に入られてしまったという事実も変わらない。


 うん、まあ、確かにオジサマって見た目はドSっぽいし、言動も基本ドSだもんね。

 中身は私だから全くもってそんな性癖無いんだけどな。

 むしろ過去の記憶の中のオーギュストさんでさえドSとは程遠い愛妻家で子煩悩だぞ、ドSなのは敵認定した相手にだけだ。


 ...もしかして似たような感じで他の変態に好かれてたりとかしないだろうな...、そういうのは止めてくれよ?マジで要らんぞ...?

 いや、前フリとかそんなんじゃない、切実な願いだ。


 いかん、ダメだ。

 そんな事考えたら真実になりそうなので考えなかった事にしよう。


 とりあえず、そんな思考をしながらも今日も頑張って再計算しております。


 昨夜の衝撃が凄過ぎてか朝食の味がさっぱり分からなかったのはめちゃくちゃ残念である。

 最早自分が何食ってたかも定かじゃないんだからよっぽどだろう。


 まあ、良いや。

 忘れる為にも再計算頑張ろう。


 つーかまた間違ってるよこれ誰だよ計算したの。

 うん、オーギュストさんだね。

 途中で力尽きたのか文字が読めない所もあるんだけど嫌がらせ?嫌がらせなの?


 とか考えていたら、不意に執事さんがやって来た。


 「旦那様、本日新たに捺印が必要な書類が届きましたが、どう致しましょう」

 「そうか、では此処へ」


 「は、どうぞ、此方で御座います」


 執事さんから恭しく手渡された書類を普通に受け取って確認する。


 「...ふむ」


 何コレ、えーと?

 ヴェルシュタイン領内における魔物の発生報告、及び領軍の派遣申請?


 うん、姪っ子ちゃんが来た時にも一回話題に上がってたし、丁度良いから、今考えよう。


 えっと、魔物ってなんぞ?


 ・魔物

 瘴気が体内に溜まり過ぎた結果、変質してしまった生き物の総称。


 いや、待って、瘴気って何。


 ・瘴気

 闇とはまた違う邪悪に澱んだ魔素。

 光属性の者にしか対処する事が出来ない。


 いやだから、なにそれ!?

 邪悪に澱んだ、ってどういう状態!?

 闇の属性とどういう風に違うの!?


 あかん、オーギュストさんの知識中途半端過ぎる。

 なるべく早急に調べに行こう。


 「アルフレード、これの真偽は分かるか」

 「...ふむ、申し訳ありません、シンザに調べさせましょう」

 「詳細が分かれば報告するように」

 「畏まりました」


 よし、後回し成功。


 で、次は、えーと、...ノルド・ロードリエス伯に対する融資、...ってまたコイツかよ。

 知らん知らん、私は関わらんよ。

 という訳でこの書類は破棄だ。


 「...旦那様」

 「なんだ、あぁ、これを捨てておけ」


 不意に、どこか緊張した面持ちの執事さんに声を掛けられたので、返事をしながらもついでに不要になった書類を渡す。


 さよなら伯爵。


 「畏まりました。

 それで、その......わたくしに、何か手伝える事はございませんか?」


 恭しく礼をしてから受け取った執事さんが、一拍置いた後に真剣な表情で私を見詰め、そう告げた。


 その表情は嘘偽り無く、正真正銘、彼が本気で有る事が伺える。


 なんというか、正直言ってそりゃもうめちゃくちゃに有難い申し出である。

 だけど、ねえ。


 「ふむ、...使えるなら、猫だろうが使いたいところではあるが、しかしアルフレード。お前には仕事が多いだろう」

 「旦那様...、わたくしの事はお気になさらず、好きに使って下さって構わないのですよ?」


 執事さんは私の返答など物ともせず、むしろ、困った人だ、とでも言いそうな、どこか微笑ましげで、そして残念そうな、なんかそんな感じの表情で私を見た。


 なんでだよ、私だって色々考えてるんだぞ!


 「...そうしたいのは山々だがな」


 「...何か問題が?」

 「いや、そういう訳では無い。お前の負担が増加してしまうのが、心苦しいだけだ」


 どう考えてもそうなるんだもん仕方ないよね。


 「旦那様にお仕えしているのですから、旦那様の手助けやサポートをするのは当たり前の事にございます」


 暗に覚悟の上だと言われてしまったら、なんかもう、余計に断りづらい訳で。


 ええー...。


 うん、仕方がないので、何か仕事を割り振る事にしようと思います。


 「そうか。...では、すまないが、済んだ書類を持って行ってくれるか」

 「それはわたくしのいつもの仕事で御座います、旦那様」


 ですよね。

 私も言いながら思ってたよ。それ。


 「そうか、ではこの次の年の書類を」

 「既に此方に」


 そっと、決して乱暴なんて言葉が当て嵌まらない位に優しく、机の上に書類を置く執事さん。


 うん、それは予想外でしたよ執事さん?

 え、もしかして、さっき書類持って来たついでに取って来てたの?


 「......世話を掛けるな」

 「旦那様の執事ですので」


 「...そうか」


 ...仕事が出来過ぎる部下って、しかも自分はめっちゃ尊敬されてるって、なんて居た堪れないんだろう。


 なんだか、自分の頭の悪さに悲しくなって来たせいでか、つい現実逃避しようとしてしまって、とにかく無理矢理踏み止まった。


 それよりも今は執事さんをどうするかなんだよ!


 「...旦那様、宜しければ、この、次の次の年の計算をわたくしにお任せ下さいませんか?」

 「......良いのか?」


 執事さんが、何かを決意した瞬間のような、とても真剣な表情でそう言ったものだから、つい聞き返してしまった。


 予想外と言えば、予想外。

 だけど、執事さんの性格を鑑みれば、何となく予想が付く申し出である。


 「はい、わたくしは旦那様の執事にございますので」


 そう言って、また恭しく礼をする執事さんは、当然だ、とでも言いそうな表情に見えた気がした。


 なんかもう、ホントに、これだけ信頼されていると裏切れない。


 執事さんが信用出来る事だけは、オーギュストさんの感覚に染み付いている。

 なら、ヤバイ資料を持って逃亡して、私が死刑確実になるような行動を、彼がする訳が無いのは分かる。


 ならば、申し訳無いけど手伝って貰おう。

 だって本人がこれだけ良いって言ってるんだもんね!オッケーでしょ!


 ...しかしなんでいきなり手伝おうとか思ったのかな?

 なんか不備でも有ったとか...?あ。


 「...そうか、お前は今までの私を、誰よりも一番間近で見ていたのだったな」


 「...はい」


 なるほど、私の計算が遅いから、年内に終わるか心配になったとか、そういう事か。


 「...ありがとう」


 これで私も少しは楽が出来るよ、感謝しか無いよ執事さん、ありがとう執事さん!


 あ、他の理由は考えないよ!

 だって精神衛生上良くないからね!


 「...っ、勿体無い、お言葉にございます...っ」


 なんか、感無量みたいな表情してるんだけど、多分コレ絶対私の考えた理由でじゃないな。

 アレでこのリアクションはありえないもん。


 だけど、まあ、良いや。


 「......ではアルフレード、任せたぞ」


 「はっ!」


 なんだか感動的な雰囲気になっちゃったんだけど、うん、これも気にしない。


 全てを受け流し、右から左へスルーだ。

 よし、オッケーオッケー。


 考えを切り替え、羽ペンを持ち直す。



 その時、不意にある事に気付いた。


 説明するのがメチャクチャ難しいんだけど、一言で言うなら、何か来る、だろうか。


 いや、何かっていうと語弊があるから、誰か、が正しいんだけど、とにかく、この感じには覚えがあった。



 「.........アルフレード、茶菓子を二人分用意しろ」

 「...旦那様?」


 「それが無理なら、何か手土産になるような物を」

 「何かあったのですか?」


 「あぁ、来るぞ」


 私が告げた次の瞬間、部屋の中央付近に光の玉が発生、そしてそれは、覚えのある目が眩むような光を発した。


 暫くして、その光が収まると、


 「来ちゃった!」


 バチコーンとウインクしながら、ジジイが登場していた。


 うん、もう呼び方ジジイで良いや。


 まあ、なんかよく分かんないけど覚えのある感覚だったからこのジジイが来る事は分かったんだけど、何故来たのか理由までは分からない訳で。


 いや、昨日の今日で何しに来たんだよジジイ。


 「先触れを出すのでは無かったのか」


 そう聞いてましたけど?

 なんで何の前触れも無く光と共に登場してんの?


 「スマンスマン!お主に渡し忘れた物があっての、今日はそれだけ渡したら帰るわい。」


 物凄く軽〜く謝罪しながら、此方が許可や促しをする前に勝手に休憩用のソファに腰掛けるジジイ。


 ...まあ、このジジイが図々しいのは前回で理解してるから気にしない。


 「ふむ、なんだ?」

 「これじゃよ!じゃじゃーん!賢人取扱説明書〜!」


 私の静かな問い掛けに対して、なんか、某未来から来た猫型だけど青タヌキにしか見えないロボみたいなノリで懐から一冊の本を取り出し、掲げるジジイ。


 「...馬鹿にしているのか?」

 「違う違う!これはワシも昔賢人になったばかりの頃、他の賢人より頂いた由緒正しき説明書じゃ」

 「......ほう」


 簡単な説明をしながら、休憩用の机の上にその本、まあ、薄いから冊子が近いだろうか。

 それをペシっと置きながら、踏ん反り返るジジイを無視して、冊子に視線を送る。


 こっちは執務机から見る事になるから地味に遠い気がするけど、まあ、見るだけなんで問題無い。


 「賢人初心者でもすぐに分かるようになっとるでな、故に今後の身の振り方の参考にもなるじゃろう」


 なんか偉そうに言ってるけど、書いたのお前じゃないよね。


 「具体的に、役に立つのか?」

 「力の制御とかそういうのは個人差がある故に記載は無いが、それ以外に共通しとる事や今まで判明しとる特徴が記載されておるぞ」


 ふふん、なんて物凄く偉そうに踏ん反り返りながら告げるジジイが地味に鬱陶しい。

 だが、そういう情報、現代日本人である私にとって物凄く有り難いです。


 やったねオーギュストさん!知識が増えるよ!

 いや、覚えるの私だけどな。


 「...ふむ、そうか、では有り難く受け取ろう」

 「次の賢人が再誕したら、そん時はオヌシがこの本をそやつに渡すが良いぞ」


 あ、そういう感じなんだ?


 でもなあ、ちょっと問題がある。


 「敵対行動を取られれば、反射的に攻撃してしまうかもしれんが、構わないのか?」


 ぶっちゃけ、こんな悪役っぽいオジサマが突然目の前に来たら、ヤバくない?


 「......あー、うん。」


 いや、なんでそんな、そういやそうかー、みたいな若干残念そうな、なんとも言えない微妙な顔してんだよ、少しは取り繕えよジジイ。


 「ならば読み終わった後、ワシに転移させると良い」


 「......転移」


 何それ、私も使えんの?


 「大丈夫じゃ、転移魔法の事について書かれた書物は山のようにある。

 オヌシなら一回読むだけで行使出来るようになるわい」


 「そうか」


 ならいいや。

 いや、良くは無いけど考えない。


 うん、と一人内心だけで納得していると、いつの間にか居なくなっていたらしい執事さんが、布の掛かったバスケットを持ってやって来た。


 「お待たせ致しました、シルヴェスト伯爵様、どうぞ此方を」


 そう言ってジジイの前にそのバスケットを置く執事さん。


 はい手土産ですね、分かります。


 「ご苦労。ではシルヴェスト老、それをやるから帰れ。」


 「ちょ、随分な物言いじゃの!別に良いけどさ!邪魔した自覚はあったから!」


 キッパリと言い放ったら、直ぐ様ブーイングみたいなツッコミをするジジイ。

 やっぱり地味に鬱陶しいなこのジイさん。


 とりあえず無視して畳み掛ける事にした。


 「そうか、帰れ」

 「か弱い年寄りになんて仕打ちじゃ!」


 そう言って頭を抱えるジジイは怒っているという訳では無く、どちらかといえば嘆くような雰囲気である。

 というか、まあ、本気でやってる訳では無いのが良く分かるボケである。

 そこはかとなく楽しそうなので、ボケで間違い無いだろう。


 なので、私も便乗しておく事にする。


 「賢人である時点で、貴殿は一欠片もか弱くないが」

 「うん!知ってる!」

 「そうか」


 私のツッコミに対して、当のジジイからなんだかとても元気な返事が返って来た結果、意表を突かれてしまった私が返せた言葉は、それだけだった。


 リアクションに困った、とも言う。


 「なんじゃいノリが悪いのう。良いもん良いもん、帰りますよーだ」


 ぷうっと頬を膨らませ、拗ねたみたいに唇を尖らせるジジイ。


 「まるで子供のようだな」


 「永遠の69歳掴まえて子供とな!」

 「知らん」

 「だよねー。」


 いや、なんで突然タメ口。

 別に良いけどやっぱりリアクションに困る。

 と言う訳で、そろそろ話を終わらせるとしよう。


 「......私も暇では無いのだよ」


 ふう、と小さく息を吐きながら言ってやれば、当のジジイはまた拗ねたみたいに唇を尖らせた。


 「ちぇっ、仕方ないのう。

 まあ、この次はキチンと先触れを出す故、安心せい。ほんじゃ、またの!」


 なんか、そんな感じで若干拗ねながらも、来た時同様光に包まれながら、ジジイは颯爽と帰って行った。


 その姿が何となく、天に召されて逝ってしまったみたいに見えてしまったんだが、まあ、仕方ないよね!



 「......行ったか」

 「嵐のようでしたね」


 ポツリと呟いた私の言葉に、執事さんのしみじみした返答が返ってくる。


 「...そうだな、...ふむ、アルフレード」

 「は、休憩に御座いますね。

 畏まりました、紅茶と茶菓子をお持ち致します、暫しお待ちを」


 「頼んだ」


 さて、指示する前に察してしまって地味に怖い執事さんの事は毎度の事なので置いておこう。


 席を立ち、ジジイが座っていた休憩用のソファに腰掛け、机の上の冊子を手に取る。


 問題はこの冊子なのだ。


 パラリと捲り、内容に目を通す。



 えーと、...............うん。


 賢人すげぇ。



 とりあえず、内容を簡単に説明しながらツッコミを入れていこうと思います。



 ・魔力、寿命、身体能力全般、思考力、記憶力、精神力、考えうる限りの能力全てが、最低でも五倍以上となる。



 これは書斎に有った本にも似たような事が書かれていたから、周知の事実、といった所か。

 問題だらけだけど、知識的にはあんまり問題無いのでスルーかな。


 次だ。



 ・魔法は、全ての魔法、及び全属性使用可能。

 再誕前の属性が一番得意、という形になる。

 なお、再誕前の魔術と、賢人となってからの魔術は形式が違う為、注意する必要がある。(以下細かい説明)



 うん、ごめん、凄いのか凄くないのか比較対象が無いから良く分からん。

 後で普通の魔法とやらを調べてからちゃんと考えようと思います。


 はい次。



 ・再誕後、一週間程で排泄の必要が無くなり、食事等で摂取した物は全て身体を維持する魔力として変換されるようになる。



 .........それってつまり、あと三日くらいでトイレ行かなくて良くなるって事?

 ヤッター!!あの地獄から開放されるよ!やったね私!


 お風呂からは逃れられない事はこの際考えない。

 今は良かった探しをしておきます。


 次。



 ・爪、髪、髭などの毛髪は、魔力で形成されるようになる為、自由自在。

 但し、外見年齢を変化させる事は不可能。



 .........つまり、勝手には伸びないし、好きに変えられるって事?散髪屋要らずか。

 うん、便利だけど面倒くさいから今は現状維持かな。


 とりあえず、これだけはツッコミたい。


 意味あんのかソレ。


 はい次。



 ・賢人は何物にも干渉を受けない為、ありとあらゆる状態異常が無効となる。

 だが、これも完全に全てが無効となるまで一週間程掛かる。

 それ以降は精神的な疲労や苦痛も殆ど感じなくなる為、睡眠すら不必要となる。



 .........いや、睡眠はしたいです。

 だって食事以外の唯一の癒しだよ?

 やだよ。


 まあ、必要無いってだけで、寝る事は出来るっぽいから絶対寝るね私。


 次!



 ・生殖機能に関しては未知数。

 過去の賢人でも、妊娠出産したという記録は今の所無いが、伝聞では伝わっている模様。



 うん、相手居ないからどうでもいい。


 次!



 ・確認されている賢人は現在、


 アビス

 グレモス

 グランツ・ラズーリト

 ティリア

 ジーニアス・シルヴェスト


 である。



 ...見事にジジイしか分からん。


 でも、どれもこれも手書きの名前だったので、ちょっとした名簿のような物なんだろう。


 ジジイの名前の下に空白が有ったので、とりあえずオジサマの名前も書き足しておいた。

 次の賢人さんに手渡すって事を考えるとこれで間違ってないと思う。


 はい!次!



 ・今の世の中に伝わる神は、一柱を除いて全て過去の賢人である。

 その一柱がこの世界を創り、賢人を生み出したと考えられる。


 ・神が何故賢人を生み出し、何を目的としているかは全くもって不明である。



 ...この二つってアレだよね。

 この世界のヒミツ的な。


 ファンタジーがさっぱりなので真面目にどうでも良いんだけど、それでも、あの腹立つ神がこの世界の創造神ってヤツだろうって事だけは、何となく理解した。


 ...でも、多分だけどあのカミサマ、完全な愉快犯だと思う。

 だって、夢枕に立ったあの野郎、半笑いだったからね。

 腹立つわマジで。


 いや、うん、まあ、今は良いや。

 とりあえず、だ。


 だからなんで私が賢人とかになってんだよ何なのこれ私が何したっていうのさ何なのこの化物具合!!


 今改めて考えても使いこなせる気が全くしないぞこんちくしょう!!!



 ......とりあえず一旦落ち着こう。



 そんで書斎から本を取ってこよう。

 魔法に関するヤツと転移魔法とか載ってるヤツ。


 「旦那様、紅茶と茶菓子をお持ち致しました。それから、此方を」


 そう言って紅茶と茶菓子を休憩用の机に置いて、そのすぐに隣に本を数冊置く執事さん。


 転移魔法について書かれた本と、転移魔法についての項目がある魔術書のようです。

 なんで分かるかって言うと、背表紙と表紙に“転移魔法について”と“第一級魔術書”とかそんなんが書いてあるから。


 うん、考えた途端に執事さんが持って来てくれたよ!察し良過ぎだよね!


 最早恐怖しか感じないよ、怖いよ。


 でも、そんな事は気にせず、他にも持って来て貰いたい本があるので、ちょっと頼んでみようと思います。


 「...アルフレード、どうやら私は全ての魔法が使えるらしい」

 「なんと!それは素晴らしい...!」


 「そうだな、...だが、基礎が疎かでは不安定となろう」


 使い方さっぱり分からんもん私。

 再計算も大事だけどこれからは執事さんが手伝ってくれるらしいから少し余裕も出来たし、何よりずっと同じ事してると訳が分からなくなってくるからね。

 あと、原理はともかく使い方くらいはいい加減ちゃんと理解するべきだと思うのよ。

 テレビだってDVDプレーヤーだって原理はよく分からんけど、使い方は分かる。

 まあ、そういう事ですね。

 使い方を理解出来るかは分からんけど、今は考えないよ!


 「なるほど、畏まりました。

 様々な魔術の、基礎となる物が書かれた本を探して参ります。今暫くお待ち下さいませ」


 「うむ、頼んだ」


 よし、その間、出来る所まで計算しておこう。

 そう判断した私は休憩用のソファから立ち上がり、執務机に戻った。




 それから暫くして、執事さんが分厚い本を10冊程持って来てくれたので、丁度良い所で切り上げ、休憩用のソファへ座ると、目の前の本を片っ端から読んでいった。

 流石は賢人と言うべきなのか、割と急いで読んだら一冊読むのに1分掛かったか分からないくらいに速読出来ました。

 しかもちゃんと知識として頭に入ってるっていう。


 うん。


 気にしないよ!


 とりあえず、得た知識を整理する為に簡単にまとめてみよう。


 まず、この世界の普通の人が普段使っている魔法と呼ばれてるソレらは、精霊に対価として自分の魔力を差し出して、属性を付けてもらって、魔法として出しているらしい。

 魔法として出した魔力が10なら、半分の5が精霊に持って行かれて、残りの5が属性の付いた魔法として出てくる仕組みだ。


 その時に、精霊の好みによって好きな魔力の質が分かれるから、属性、つまり適正が個人によって変わる。

 つまり、オジサマの家系は水の精霊に好かれる魔力の質を持っている、という事のようだ。

 そんな訳なので、他の属性の魔法が使えない、という訳では無いけど、その分魔力の消費が激しくなって、弱い魔法しか使えない、という風になってるらしい。


 さて、そんな中、賢人はというと、精霊に属性を付けてもらわなくても、自分の想像力だけで自分の魔力を使って考え得る全ての魔法を行使出来るとの事。

 ちなみにこれは、さっきの賢人取扱説明書に詳しく書いてあったから多分確実だろう。

 それにプラスして、賢人になる前の精霊に好かれていた属性の魔法も同じように使えるので、一番得意、という形になるんだとか。


 何か良く分かんないけど想像力だけで魔法が使えるっていうのは、オジサマの知識とか常識と照らし合わせると、物凄〜く、凄い事のようだ。

 現代で例えるなら、一般の人が携帯電話とか、スマホとか、何処かで買って使ってるのに対して、オジサマ達賢人は、そんなモン自分で作れる、ってくらいの。

 何が凄いって、スマホを部品から組み立てられるし、ダウンロードしなきゃいけないアプリすら全部自分で作れるっていう、程度のオカシイ凄さだ。


 現代でも沢山の人が頑張って作った叡智の結晶が、軽くほいっと作れるとか、まあそのくらいに凄い事らしい。


 .........うん。


 そんなこんなで今回、魔法に対する知識を得たら、ひとつだけ、分かった事がある。



 私、ファンタジー、アカンわ。



 知識として頭に入ってるし、どうやったら魔法が使えるのかも何となく分かった気はするんだけど、ダメだ。


 訳が分からない。


 まず、精霊って、なに?

 ただでさえ魔素が何なのかも分からないのに更に訳分かんない存在が出てきちゃったんですけど?

 しかもさも当たり前のように書いてあって精霊に関する情報なんて、各属性を司る、としか書いてないよ馬鹿なの?


 オジサマの知識でも身近過ぎてかそういうモノだ、って認識しかないし、私にはハードルが高過ぎる。


 いかん、魔法の歴史書とか、辞書とか有った方が良かったかもしれない。


 ......よし、まあ、良いや。

 スマホで考えよう。

 精霊ってのはスマホ作ってる会社みたいなモノで、アプリの種類が属性、って感じで、そんな理解しなくても良いモノと見た。

 理解しなくても使えるもんね。うん。


 なんか細かい所が違う気がするし、若干矛盾あるけど、そういう事にしとこう!分かんないし!

 はい!諦めた!

 使い方は分かったからそれで良いよもう!


 賢人取扱説明書に詳しく書いてあったから大丈夫!多分!


 大体、賢人の魔法の使い方なんて全部、魔力込めながらイメージするだけでオッケーらしいし!超簡単だよね!


 ちなみに今回読んだ本は基礎とかそんなんばっかりだったので呪文は無かったです。

 それはちょっと残念かもしれないけど、まあ、良いや。


 あ、転移魔法?某精密地図アプリみたいに頭の中で衛星写真みたいな地図が展開して、魔力と引き換えに移動が出来そうだったので多分大丈夫だと思う。

 なんで頭の中で見た事も無い筈の衛星写真みたいな地図が出たのか全く分からんけどスルーだよ!


 はい!よし!計算に戻ろう!


 そうやって理解を諦めた私は、本を纏めてから、執事さんの用意した茶菓子を口に入れ、紅茶で流し込んだ。

 分かんないモノは分かんないんだから仕方ないと思う。


 茶菓子は、美味しいマドレーヌでした。

 ただちょっとだけ甘さがキツイ気がしたけど、紅茶があるので問題なかったです。

 多分、糖分補給の為にこの甘さなんだろうな、と思いました。


 そして私は、執務机の上に置かれていた計算途中の書類を手に取って、ソファみたいな椅子のその席に腰掛けたのだった。


 

グダグダなのは、オジサマの中身の方がファンタジー音痴だからです。

ファンタジー初心者なので大目に見てあげて下さい。

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