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15

※注意!

今回のお話は、15歳未満の方には相応しくない内容となっております。


15禁タグが火を吹くぜ!


書いてる作者も色々ダメージを受けました。

読む場合は自己責任でお願い致します。

気分が悪くなっても責任取れません。

悪しからず。

 



 




 前回のあらすじ。


 寝てたら突然目が覚めて、メイドさんに夜這い掛けられてました。


 .........うん、そうだね、訳が分からないね。


 とにかく、状況を詳しく確認しよう。

 今さっき、多分だけど、人の気配を察知して、起きてしまったんだと思う。

 今の時間は分からんけど、まあ、きっと夜中だろう。


 そんで、何事かと思って起き上がろうとしたら、女の子が私の上に乗っかっていました。


 なうです。


 いっそ、跨っている、って表現でも大差無いと思う。

 見る限り17とかそこら辺ぽいから、少女にしとこうか。良いよね少女で。

 あと、さっき熱い告白なんかもされちゃってましたね。

 ヤダー!オーギュストさんたらモッテモテー!流石はイケてるオジサマだよね!


 ......うん、何がどうしてこうなったんだろう。


 ていうか、一個良いかな。


 「...私と君は初対面ではないかね?」


 つまりは、どちら様ですか?っていう。

 会った事、無いよね?、私知らんよ、こんな子。


 「旦那様にとって、私なんて路傍の石と同じって事は理解してます。

 でも、一昨日、私達の前にお姿を見せて下さった時に、私は、旦那様に一目で心を奪われてしまったんです...!」


 私の問い掛けに瞳をうるうると涙で震わせながら、切々と答える地味そうな外見の眼鏡の少女。


 そんな事を語る前にとりあえず退いて欲しいんだけど、目的を考えるとそうもいかないんだろう。

 こちらとしても安易に振り払ってしまった場合、針子さんで想像した時同様に、オーギュストさんのスペックじゃもしかしたら死んじゃうかもしれない。

 ので、何も出来ない。


 あれ、また詰んでる。


 いや、うん、まあ、とりあえず置いとこう。


 ...しかし、一昨日っていうと、使用人全員集めた時か?それ以外無いよね。

 という事は、この子は使用人なんだろう。

 メイド服着てるし、きっとメイドだ。

 オーギュストさんの好きな金髪と、青い、目......うん?なんか違和感。

 眼鏡?眼鏡のせいかな...。


 それは今は良いや、置いとこう。


 しっかし、一目惚れ、ねえ...?


 「自分が一体何を言っているか、理解しているかね?」


 「...っはい、お願いです、どうか、一夜の夢を、私に...っ!」


 私の言葉に応え、懇願するようにそう言ったかと思えば、少女は胸を強調するように自分の二の腕で、服の上からでも分かる自己主張の激しいそれを押し上げ、自分の太腿を私に見せるようにとメイド服のスカートを自らの手でずらして行く。


 ...いやはや、随分と積極的ですね。

 うん、なんも思わんけど。

 どっちかって言ったら、若干気持ち悪い。


 だって私、そんな趣味無いし。


 まあ、その辺の男ならこんな状況据え膳なんとやらで、直ぐ様某怪盗3世ダイブだろうけど、なんていうか、無理。

 どうやら私は、同性愛に偏見は無いけど、自分に降りかかったら嫌だ、と感じるタイプのようです。

 他人がやる分には好きにしたら良いと思うよ!


 まあ、外見はオジサマで中身は女の子な訳だし、男女どっちに転んでも結果として同性愛になるんだよね。


 どう考えても恋愛など無理である。

 なにこれ、かなしい。


 うん、なんかもうどうしようもないのでとりあえず、亡くした妻を忘れられない設定で生きていこうと思います。

 いつか、何もかもどうでもいい、ってくらい好きな人が出来たら良いなあとは思うけど、この嫌悪感とか考えると無理っぽいわ。


 まあ、それよりもだ。


 この子どうしよう。


 自分の上に乗っかった少女をぼんやりと眺める。


 「あ、あの...?」


 色仕掛けにも無反応な私に、若干困惑気味の少女を何気無くじっと見詰めていると、彼女は頬を赤らめ、此方を伺うように私を見詰めた。


 ...うん。


 「違和感しか感じないな」


 「えっ」


 サラッと呟いた私の言葉に、少女が虚を衝かれたかのような、呟きにも似た驚きの声を発して固まる。


 いや、だって、ねえ。


 さっき私が彼女を見詰めた時に顔を赤らめたのは、素であったように感じた。


 だけど、私を頑張って誘惑している筈の目の前の少女は、私には全く、必死に見えなかった。

 イコール、違和感。


 「君は余程己の身体が自慢なんだろう。だが、それではダメだ」


 確かに胸は大きいと思うよ、メイド服着ててもデカイって分かるくらいだもん。FとDの間くらいかな?

 ちゃんとした下着(現代日本製)を着けたらFくらいかもしれない。

 太腿も程良く肉が付いてて柔らかそうだね。

 肌もきめ細やかに見えるから、とても触り心地が良さそうだ。


 だけど、それだけ。


 「えっと、あの、旦那様?」

 「地味なら地味そうに振るまいたまえ。君のような外見の少女が、こんなに堂々と夜這いに来るなどあり得ない、しかも妙に慣れているだろう」


 なんかさ、中途半端なグラビアアイドルのプロモーション映像にソックリなんだよね、行動が。

 地味っぽい女の子の行動じゃないよそれ、どう考えても。


 「地味な少女が、実はいやらしい、という予想外さを演出したかったのだろうが、それならもっと必死に誘惑して来る筈だ」


 本気かそうじゃないかくらい、現役演技派女優である私に掛かれば、すぐに分かる。


 まあ、女の子という生き物は基本的に自分以外の女の子を見る目が厳しいんだから、看破出来るのは当たり前と言えば当たり前であったりするのだが、それを差し置いても違和感が酷い。


 「襲われて当たり前、とでも思っていたのかね?その外見では無理があるな」


 若い子特有の初々しさが、無い。

 恥じらいも、戸惑いも、本来ならヒシヒシと感じている筈の背徳感も、それらがごちゃまぜになったような雰囲気も、まるで無い。


 「それに、なんだその取ってつけたような理由は。

 その地味さで、胸に秘める事もせず、たった二日でそんな考えに陥る少女が存在すると?

 あり得るとすれば、恐喝されている、結婚したくない相手が居るなど、余程切迫した状況だけだな。

 ならばやはり、もっと必死になる筈だ」


 早い話が、物凄くわざとらしいのです。


 「大体、君が強調したかったのはなんだね?胸か?それとも脚か?両方ではなくどちらかにしたまえ。

 ああ、なるほど、動揺を誘いたかったのかね?ならばやはり詰めが甘いな」


 分析してたらなんかもう、余計な痛々しさを感じて来た。

 年増が無理して若い子を演じているとか、何かを狙おうとして出来てないとか、見当違いの勘違いをしてそれを知らないまま誤魔化そうとしているとか、そういう感じのやつ。


 後は、ぶりっ子とか、養殖天然っ子とか、なんかそんなのを見てしまった時みたいな。

 なんでそんなん見てたかというと、役作りの為ですが何か。


 グラビアアイドルのプロモーション映像って、そういうよく分からない痛々しさがあるんだよね...。

 男はこういうの分からないかな?

 あ、キザったらしい行動の男だったら男も私と同じような感じ受けるんじゃないだろうか。

 知らんけど。


 ともかく、そんなこんなでこの少女には言ってやりたい事が盛り沢山な訳なので、色々と言ってる訳です。


 ふるふると肩を震わせ、俯いてしまった少女。

 眼鏡の反射と前髪のせいでか表情が読めなくなってしまったが、私は気にしなかった。

 泣くなら泣けば良いよ。


 まあ、そんな風には全く見えないんだけど。

 泣きそうな人間特有の呼吸じゃないし、力の入れ具合も違う。

 オーギュストさんのスペックなら呼吸とかそんなの容易に理解出来るし、現役演技派女優の観察眼を持ってすれば、看破も容易い。


 まあ、こんなんで泣くような女じゃなさそうだし、畳み掛けるとしよう。


 「誘惑するなら順番で魅せていくのが一番良い。何故なら、現実味を湧かせる事が出来るからだ。

 基本人間とは順序立てた行動を好む。故に一度に見せてしまえばそれ以上の効果は望めないのだよ」


 これに関してはその辺の男はあんまり気にしないかもしれないけど、この方法が男の本能を刺激する事は自明の理と言っても過言では無いと思う。

 いや、私個人の見解だから過言かもしれない。


 ところで、自明の理、ってこういう使い方で合ってるんだろうか。



 そこでふと、ある事に気付いた。



 そういやなんでこの子、これからアハーンな事に至るかもしれないってのに眼鏡掛けたままなの?


 ...見る限り(今は反射で分からんけど)、そんなに度が入っているような眼鏡には見えなかった。

 となると、無いと何も見えないから、という線は消えた。


 他に何かあるとしたら、えーと、見え過ぎて困るから、丁度良くする為に掛けてるとか?

 ......いや、なんか違うな。


 それならこの子の目が私にきちんと見えてたというのが不自然だ。


 だって、それらを可能にするのは、必要以上に度が高いか低いか、どちらかなんだから。


 どう見たって、テンパって外し忘れてる、という訳でも無い。


 物凄く不自然だ。


 初対面の女の子をなんでこんなに疑ってるのかって?

 そりゃ、突然夜這いに来るようなビッチ、これっぽっちも信用出来ないからだよ!


 こういう子は他人の恋人を欲しがったり、カップルが破局するのを見て楽しんでたり、とにかくクセがあるに決まってる。

 偏見かもしれないけど、仕方ないじゃん!この子めっちゃ怪しいんだもん!


 女の子に恥かかせるもんじゃないとかどうでもいいわ、だって私も女の子だし。


 知ったこっちゃねぇですよ。

 むしろ恥かけば良い。


 「何度でも言おう、君に対しては違和感しか感じない」


 煽るようにキッパリと言い放つと、突如として目の前の少女の雰囲気が一変した。


 「...っ...素直にワタシを襲ってくれれば楽だったのに、何?説教?自分の体をどう使おうとワタシの勝手でしょ?」


 金属とガラスが擦れたのか、カチャリと小さな音を立て、堂々とそんな事を宣いながら、眼鏡を外し、鋭い視線で私を睨み付ける少女。

 途端に、ずっと感じていた違和感の正体が判明した。


 彼女の、眼鏡を外す前までは金に見えていた血のように紅い髪がふわりと翻り、そして同じような色彩の、青に見えていた紅い瞳が、じっと見ていた私を捉えている。


 さっきまでのおどおどとした気弱そうな雰囲気は消え去り、代わりに不遜な態度の、少女というよりは女性に近くなった彼女は紅を引いたような赤い唇が印象的だった。


 はい本性出ましたー!

 なんか案の定ビッチそうだわこの子。


 ...しかし、眼鏡取ったら髪の色も瞳の色も変わるとか、一体どんな手品を、ああ、そっか、あの眼鏡、変装用の魔道具か。

 ......いやちょっと待って魔道具って何だっけ?


 疑問の中ふと湧いた直感に、やっぱり疑問が湧いてしまったのは仕方ないと思う。

 気になったのが二回目だし、知らないままってのはなんか気持ち悪いので、とりあえず知識に検索を掛けると、すぐに答えが出た。


 ・魔道具

 持ち主の魔力を使って擬似的に魔法を発動させる事が出来る道具の総称。めっちゃ高い。


 ...............なるほど、分からん。

 とりあえず高い事は分かったけどそれだけだ。


 ......うん、まあ良いや今はスルーしよう。


 変装してたし、誘惑して来たし、もうコレはクロだよね。

 とりあえず、煽るだけ煽って、情報収集と行きますか。


 「だから君は詰めが甘いのだよ、もう少し勿体ぶりたまえ。ホイホイと身体を他人に差し出すなど売女の仕事だ。

 他人には見せない、己の前でだけ、という特別感が圧倒的に足りない」


 うん、言ってて思ったんだけど私何様のつもりなんだろう。


 「っな、売女ですって...!?」

 「先程の君の振る舞いは正にソレだったが?詰めも甘ければ演技も甘いな」


 凄いねオーギュストさん、するすると相手の怒りを煽る言葉が出て来るよ。


 まあ、結局めっちゃビッチでした、ありがとうございました。


 あれ?売女ってビッチで合ってるんだろうか。

 まあどっちでも良いとは思うけど。


 「言わせておけば...!」

 「ほう?」


 魔力を身体に纏わせて、私に何かをしようとしたらしい彼女をサッと振り払い、床に叩き落とす。

 自分でも何をしたのか速過ぎてよく分からないけど、結果として退かす事が出来たから良しとしたい。

 ついでに、逃げられないように魔力を彼女に向けて放射してみた。


 ちなみにこの間、1秒にも満たない。


 なんでそんな事をしたかというと、オーギュストさんの知識から捕える為にはこの方法が一番効果的と有ったからである。

 理由とかは知らないし、よく分からない。

 なんかもう面倒なので放置です。


 「ぅあっ!」


 苦しそうな声で呻く少女を見下ろしながら、ベッドから降りた。

 俯せで床に這い蹲りながら、何処か悔しそうに、下から私を睨む紅い髪の少女。


 少女って呼んでるけど、多分この子、外見通りの年齢じゃないと思う。

 なんで分かるかって?女の勘だよ!

 外見オジサマだけどな!



 「.........なんだ、こんなものか?」


 更に煽るように暴言を吐いてみたら、少女の紅い目は更に鋭く細められた。


 「何なの、アナタ...!」


 うん、何なのって言われてもなあ、私も良く分かってないんだからどうしようもないよね。

 ホントに賢人って、何なんだろうね。


 まあ、分かんないものはどうしようもないのでスルーしとこうと思います。


 「それは此方のセリフだな。何処の手の者だ?」


 殺すのは得策じゃないから、さっさと情報を吐いて貰おう。


 殺したくないから後回し、とも言うけど、覚悟も余裕も無いんだから仕方ないよね!


 まあ、ビッチに容赦は必要無いと思うので、死なない程度に暴力は振るう予定です。

 暴力なんて子供の頃に近所のクソガキとやったケンカくらいしか経験無いけど、オーギュストさんのスペックで考えるとむしろその位が良いのかもしれない。

 手加減マシマシじゃないと多分死んじゃう。


 「...っなんで言わなきゃならないの」

 「ふむ、そうか、余り女性を傷付けたくないのだがな」


 反抗的だったので、仕方なくその華奢な背に軽く足を乗せ、ゆっくりと体重を掛けたら



 「あっ、ああぁんっ!」



 嬌声が上がった。



 ・嬌声

 喘ぎ声。または女性のなめまかしい声。


 思わず脳内知識で検索してしまったけど、うん。



 いや、待って待って待って、なんで?



 「.........何だ今の声は」

 「...っ、ハァ、ん、っ」


 なんか、アダルティな声が聞こえるんですけど何コレ。


 「痛い思いをさせている筈だが?」

 「...っ、えぇ、痛いわ...」


 ハア、なんて熱い吐息を吐き、うっとりと私を見上げる彼女は、そりゃもう扇情的なんだけどさ、でもね。


 私、踏んでるだけなんですが。


 「ならば何故艶のある声を出す?」

 「っ、アナタが、悪いのよ」


 私の動揺を誘う為の演技、という線も可能性として完全には捨て切れないので、言葉の続きを促してみる。


 「ふむ、何が言いたい?」

 「そんな、そんな冷たい目でワタシを嬲って、ああっ、もう、ヤダ、ダメっ」


 頬を上気させながら身体をくねらせ、興奮したように荒い息を吐き始める彼女。



 .........うん。



 「あっ、その蔑んだ目、イイ...っ!」


 私の視線に気付いた途端、何処か嬉しそうに、そして恍惚とし始める彼女に、ドン引きした。


 なんにも良くないと思うんだけど、彼女にとっては良い事なんだろう。


 目を逸らせば良いのに、なんか負けたみたいでそれも出来なくて、じっと見詰めてしまった。


 「あんっ!ヤダ、我慢出来なくなるっ」



 あ、ダメだやっぱこの人、本物だ。



 ドMだよこの人どうしよう気持ち悪い、露骨過ぎて凄く気持ち悪い。

 自分がそんな風に見られてるとか考えると余計に気持ち悪い。

 何コレ初めて見たよドMってこんなにキモかったんだ知りたくなかった真面目に知りたくなかった。


 「......気持ちが悪いな...」

 「ああん!その汚物を見たみたいな表情、冷たい声...っ」


 ただドン引きしながら見下ろしてるだけなのに更に興奮し始めたんですけど何コレ、やだコレ。


 あかん、今までに無いくらい帰りたい。

 実家の猫撫でたい。モフりたい。


 癒しが、欲しい。



 「あぁっ、もっと、もっとチョーダイ!ハァ、ハァっ......貴方に見下されるだけで、私の、身体の奥が熱くなるわ、......凄く、イイ...!」


 「気持ちが悪い、喋るな」


 余りのキモさに思わず足に力を入れてしまったんだけど、彼女は何故か死ぬ事も無く、そして中身が出たりする事も無く、どちらかと言えば更にヒートアップし始めた。


 「んぅっ!あっ、ハァっ、素敵、凄く痛い!こんなの初めて...!もっと、もっとワタシを嬲って!」



 う、うわぁぁあああああああ!!!



 内心で、最早思考さえままならず、ただ喚く。

 もしもこれが外面に出ていたら、ホラー漫画に出て来る、見てはいけない何かを見てしまって、恐怖で叫んでいる人みたいな顔になっていた事だろう。

 そのくらい衝撃的だった。


 表には勿論出していない。

 これは絶対出しちゃダメなヤツだ。


 なんか踏んでるのが嫌になったので、とにかく必死に感情を押し殺しながら足をどける。


 「っあ、いやっ、もっとワタシを、その冷たい目で見て、蔑んでっ!ぁあんっ、もっと、強く縛って......!」


 やめろそんな目で私を見るなマジでやめろこっち見んな。

 もう良いやコイツの事はドMって呼ぼう。


 「ハァッ...、ぁ、もっと踏んでくれても、いいのよ...?いえ!踏んでチョーダイ!ハゥッ、......その、お御足で、靴の底でワタシを思いっきり踏んで!ぅあっ、骨の一本二本、折ってもいいのよ......もっとワタシに快感をチョーダイ!」


 ハァハァと荒い息を吐きながら、血走った目で嬉しそうに懇願されて、ドン引き通り越して恐怖を感じてしまった。


 泣きたい。


 どうしよう何コレ、本気で気持ち悪いどうしたらいいのコレ鳥肌ヤバイ誰か助けて!


 余りの事に、私の魔力が暴走しているのかドMの回りだけ空気が重くなった気がした。


 その重圧でか、床からミシ、という音が聞こえ、次いでドMが嬉しそうな声を上げる。


 「ぁあああんっ、身体中がミシミシいってる...!凄くイイっ!んっ!あっ、ヤダ、ワタシったら、なんてはしたないの...濡れてきちゃった...」


 アーアーアー聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえないアーアーアー


 内心で必死に聞こえないふりするけど、耳なんて塞いでない訳だから結局聞こえてしまっていた訳で。

 もうとりあえず、聞かなかったし深く考えない事にする為に、とにかく無理矢理、右から左へ聞き流した。


 いやマジでなんなのコイツキモい、つーか女の子のドMってこんなに気持ち悪いんだね、知りたくなかった。

 いや、こいつが無駄にキモいだけかもしれんけど知らんし、あと出来れば男のドMも御免被りたい、っていうかドMという存在自体御免被りたい。

 世の中のドMさんを悪く言いたくないけどごめんこれは無理。


 もうやだ泣きたい、いやもう泣きそう、誰か、そうだ、隠密さんを呼ぼう。

 執事さんを夜中に部屋に呼ぶとか申し訳無いから出来ないし、職業的に彼が一番情報通だろう。


 「シンザ、居るか」


 「はいはーい、呼んだー?って、え?何この状況」


 呼んだら即座に来てくれた隠密さんは、顔が隠れた忍者スタイルだった。


 なんかもう恥も外聞もかなぐり捨てて泣き付きたくなったけど、とにかく必死に押し殺して、表に出さないよう、いつもの表情と態度を貼り付けながら口を開く。


 「この女はネズミだ」


 「あんっ、ネズミじゃなくて、メスブタって呼んでくれない...?」


 熱い視線と共にそんな言葉を投げ掛けられ、なんか恐怖と安堵が混ざり合った結果、今までに無いくらいめちゃくちゃイラッとした。


 「...なんだその態度は?そんなもので己の欲求が叶うとでも思っているのかね、浅はかだな。立場というものを弁えたまえ」

 「ああん!なんて良い罵倒...!そんな冷たい目で見つめられたら、ワタシ、また濡らしちゃう...!」


 うわあああああああああああ逆効果だったああああああああああああ!


 苛立ちをぶつけるみたいに考え無しに暴言を吐いてしまった結果、物凄く気持ち悪く悦ばれてしまった。


 自業自得だけどどうでもいい、ドMもうやだ、マジでヤダ。


 いかん、なんか拒否反応でか吐き気がして来た...、落ち着け私、頑張れ私。



 「え?マジ何これ」



 意味不明過ぎてか、ポカーンと立ち竦む隠密さん。


 仕方ないよね、私でもなると思うもん、こんなん。


 まあ、今は良い、それよりもだ。


 「...シンザ、この女について知っている事はあるか」

 「え?あぁ、うん、えっと、...........................えっ?」


 私の言葉に促されて傍らまで来た隠密さんが、しゃがみ込んでドMを確認すると、今まであんまり聞いた事無いような動揺した声が隠密さんの口から零れ落ちた。


 「どうした」

 「旦那サマ、コイツ、“真紅”だ」


 「ほう?」


 「紅い目、紅い髪、今まで俺に気付かれず居た実力を考えると、間違いない。王家に仕える影、“真紅”だよ」


 えーと、影っていうと、あれでしょ、時代劇で言う暗殺者とか、忍びみたいなのでしょ?


 それがコイツ?


 えっ?王家ってドM飼ってたの?


 「あん、嫌だわ、そんな呼び方。ローズって呼んでちょうだい」

 「メスブタと呼ばれたかったのではなかったか?」

 「そう呼んでイイのは、ア・ナ・タ・だ・け。」

 「鬱陶しいな」


 うふ、なんて色っぽく笑いながら、床の上で、身体をクネクネさせるドMの言葉を一蹴する。


 腹立つし気持ち悪いからそういうのやめて欲しい。


 「うわ〜、真紅ってこんなヤツだったんだ〜.........知りたくなかったな......」


 あはは...、なんて乾いた笑い声を発しながら、呆然と呟く隠密さん。


 うん、そうだね、全面的に同意するよ。


 だって確か隠密さん曰く、“真紅”って裏界隈で一番有名な実力者なんでしょ?

 それがコレとか、無いわー...。


 「...それで、一体何が目的だ。わざわざ当家にメイドとして潜り込んで居たのだろう」


 「ちょっとそこの、ワタシの事はローズって呼べって言ってんでしょ。

 あ、アナタは別よ?なんならメスブタ以外も、クズとかでも、あ、さっき言った売女とか、そう呼んでくれてもイイわ!」


 隠密さんに冷たく言い放ちながら、次の瞬間には私へ向けて甘い声を発するドM。


 うん、何コイツ気持ち悪い。


 「貴様は話を聞く気が無いのか?」

 「んふ、その呼び方も素敵だけど、ちょっと物足りない...」


 私のツッコミにドMは目を細め、頬を赤らめながら、更に色っぽく吐息を漏らし始めた。


 うええええん気持ち悪いなんなのコイツ、マジで。

 もう語彙が無くなって来たよ、そんなにバリエーション無いよ私。


 あかん、疲れた。


 「.........シンザ、どうにかしろ」

 「ごめん旦那サマ、俺には無理」

 「......そうか」


 ですよねー...。


 そりゃそうか、隠密さんがなんとか出来るようなら既にやってるよね...。


 どうやら私が頑張るしか道は無いらしい。


 とりあえず、相手の目的がハッキリしない事には対応策が取れない訳だから、情報を吐いて貰わないと。


 こういう時こそ、演技に集中だ。


 オーギュストさんなら、どうするか。

 記憶の中の彼の性格から考えると、きっと頑張るに違いない。


 ファイトだ私、頑張れ私。


 「ならばこうしよう。私に踏まれたいなら、洗い浚い吐け」

 「...えっ」


 私のドMに対する言葉に、驚愕の表情を浮かべその場に固まる隠密さん。


 私だって嫌なので、そこは察して欲しい。


 「はい...!仰せのままに」


 「...............旦那サマ」

 「何も言うな」


 嬉しそうなドMに、つい何か言いたそうな雰囲気で呼び掛けてくる隠密さんを制して、キッパリ言い放った。


 「それで、何が目的だ?」


 「まずは自己紹介させて貰うわ。

 ワタシは、ローズ。主様からはクリムゾン・ローズとの名前を賜っているわ。裏界隈では、“真紅”なんて記号を付けられてるわね」


 いや、別にお前の情報とか要らんけど。

 そうは思ったものの、そんな事を言ったら余計に喜びそうなのでスルーした。


 「今回、この屋敷にワタシが居たのは、主様の知己であるヴェルシュタイン家当主の護衛と、調査の為。ソレがワタシの主な任務」


 「護衛と、調査?」


 確かめる為に反芻すれば、ドMは床の上で這い蹲りながらも気にした様子も無く、むしろ誇らしげに堂々と言い放つ。


 「そう、主様の命よ。

 って言ってもアナタの事が心配で、なるべく無茶しないように見てて欲しいってだけ」


 「なるほど、故に、護衛と調査か」


 顎に手を当てながら、ふむ、と思案する。


 この状況で嘘を吐く意味は無いだろう。

 となれば、言っている事は真実という事か。


 その上でドMの言動から推測すると、どうやらオーギュストさんは王族と知り合いらしい。

 まあ、よく分からんけど、公爵って王家に次ぐ偉さらしいし、そんな知り合いが居ても可笑しくない。

 面倒な事に変わりは無いけど、地位的に仕方ないんだろう。


 「ええ、ちなみに毒のせいで死に掛けた時、生還出来たのはワタシのお陰よ。

 でもまさか、再誕して賢人になるなんて思ってもみなかったケド」


 色々とツッコミ所はあるけど、ドMのお陰で助かった、っていうのは真偽を定かに出来ないのでスルーだ。


 それよりも、その後の言葉の事を聞いておこう。


 「私が賢人だと良く分かったな」


 「ワタシが痛みを感じる事が出来たのが証明になるわ。

 なにせ、ワタシは吸血鬼。その辺の人間にダメージを与えられるようなヤワな造りしてないの」


 へえ、吸血鬼。

 そんなのも居るんだ、この世界。

 なるほど、コイツが外見通りの年齢じゃないっていう私の推測は当たってそうだ。


 つーか吸血鬼が忍者してるとか、ファンタジーってマジで自由だな。

 いや、忍者じゃなくて暗殺者の方かもしれんけど。


 うん、どうでもいいわ。


 「ふむ、ならば何故私を誘惑しようと?」

 「アナタの真意を探る為よ、男は基本的に(ねや)の中じゃ素直だもの。

 それにしてもイイ痛みだったわ......ねぇ、もう一度踏んで下さるんでしょう...?」


 「断る」

 「あん!ツレない人...、良いわ、そういうのも、アリよ」


 魔力はもう放ってないのにいつまで転がってんだコイツと思ってたら、もしかしなくても踏まれ待ちしてたらしい。

 気持ち悪いから消えてくれないかなマジで。


 「ああっ、イイ...!」


 私の思わず出てしまった冷たい視線に興奮してか、クネクネと身悶えるドMはやっぱり気持ち悪かったです。


 この不快感はいつまで経っても慣れそうに無い。

 いや、別に慣れたくないけど。


 「...シンザ」

 「無理です」


 呼び掛けた途端に、死んだ目で直ぐ様返事が返って来た。


 そう言わず何とかしてよ、もう疲れたよ私。


 「でも残念、バレちゃったからには主様にご報告と、一時帰還、ていう決まりなのよね。

 凄く名残惜しいけど、ワタシ、帰らなきゃ」


 「そうか、帰れ」


 優雅に立ち上がって紅い髪を掻き上げながら、残念そうに人差し指を唇へ充てがうドMに、私は容赦無くキッパリと告げる。


 とっとと帰れ。

 そして二度と来るな。


 「んふ、大丈夫よ、アナタのローズですもの、また来るわ」


 「来なくて良い」


 帰れっつってんだろ、とっとと帰れよ。


 王族の影に危害加えたとかで反逆罪とか怖いからっていうのもあるけど、一番は気持ち悪いからです。

 世の中のドMはこんなんじゃないよきっと、コイツだけだ、絶対。


 「そうだわ、いつまでもアナタ、なんて不粋よね、なんて呼んだら良いかしら」


 「..................」


 ドM打たれ強いとか以前に、あんまり話聞いてくれないんだけどなんなのコイツ


 「オーギュスト様、ヴェルシュタイン様、うーん、どれもイマイチ」


 「シンザ」

 「だから俺には無理ですって!」


 そこをなんとか。


 「お名前呼ぶのは恐れ多いし、ワタシはメスブタなんだから、そうね、ヴェル様と呼ばせて貰おうかしら」


 「シンザ」

 「無理ですってば!」


 「決まりね!それじゃあ愛しのヴェル様、また来るわ!」


 「来なくて良い」


 そんな私の言葉は虚しく部屋の中に響いただけで、ドMは全く聞く素振りも見せず、投げキッスと共に、何故か窓から颯爽と去って行った。


 勿論その投げられたらしいキッスとやらは隠密さんが叩き落としました。



 「............旦那サマ、なんか、厄介な女に好かれたね...」


 ドMが去って行った窓を呆然と眺めながら呟かれた隠密さんの発言に対して、思いっ切り盛大な溜息を吐きたかったけどそうも行かず、小さく息を吐くだけに留めながら、呟いた。


 「...何故こうなったのか微塵も理解出来ない」


 「...ですよね...、そういう性癖聞いた事あったけど、あんなに色んな意味で酷いとは思わなかったなあ...」


 そうだね。酷かったね。


 ...あ、そうだ、良い事思い付いた。


 「シンザ、私の代わりに奴を痛めつけろ」


 そしたら私から隠密さんに好意がシフトするんじゃないかな。


 「や、だから無理ですって!俺がやったって蚊に刺された程度にしかなりませんもん!」


 「...それ程実力差があるのか」

 「あっちは暗殺が本業、俺は隠密が本業。畑違いだから仕方ないんです」


 真面目な声音で、顔が隠れてるから表情は分からないけど、それでも真剣に告げる隠密さん。


 ...まあ、曲がりなりにも国の王族が所有してる影だもんなぁ。

 中途半端な実力の訳が無いか。

 つーかあんなんが暗殺者なんだ。やだわー。


 とりあえず、精神的にめっちゃ疲れたのでいい加減寝ようと思います。


 「そうか、......この事は全てアルフレードにも報告しておけ。私は寝る」

 「ん、了解っす。おやすみ旦那サマ」


 「ああ、おやすみ」


 言った途端に隠密さんが突然両手で口を塞いだかと思ったら、なんか嬉しそうにプルプル震え始めた。


 ...え?...いきなりなに?キモいんですけど。

 ...もしかして悶えてんの?

 いや、そんなん良いから出てってくれ、寝たい。


 「旦那サマの俺に対しての“おやすみ”が聞けるなんて...!」

 「喧しい、早く出て行け」

 「あっはい」


 そこでようやく私は、フカフカのベッドに戻れたのだった。


 お布団最高である。


 でも今回の事で、ドMってのがトラウマになったのは言うまでもないと思う。

 出来る事なら、もう二度とヤツには会いたくないです。


 でも、また来るって言ってたから来るんだろうなー、めっちゃやだ。


 そんな風に内心で嘆きながら、私は静かに目を閉じたのだった。




 平穏早く来い、なんて事も切々と考えながら。



ドM視点の話は、色々ダメージ受けそうなので書く予定はありません!無理です!


ちなみに神様は、今回の様子を見て転げまわりながら爆笑していたりします。


ドMって、こわい。

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