腕輪
男は仕事場まで信号に引っ掛かることなく到着する。もっとも、そんな事は男からすれば些細な事で、とくに珍しくもなかった。
数年前、男は神社の前で銀色の腕輪を拾った。その腕輪に、男は言葉に出来ない不思議な魅力を感じ、手に取り腕にはめてみる事にした。
「なかなか良いじゃないか。」
持ち主には悪いと思ったが、こんな所に捨ててあるのだ、どうせいらなかったのだろうと腕輪を自分の物とした。
男の身に不思議な事が起こり始めたのはそれからだった。
ある日、仕事で向かった営業先での事。
「丁度良かった、お宅の取り扱ってる様な製品が必要だったのだ。是非話を聞かせてくれ。」
あれよあれよと話は纏まり、仕事で成果を残す。
また別のある日、気にかけていた女性から、
「実はずっとあなたの事が…。」
と愛の告白を受けた。
何気なく買った宝くじに高額当選した事もあったし、病気というものには無縁となった…。
そんな幸運が度々に起こったのである。
自分の身に起きた幸運は、間違いなく腕輪のお陰であると、男には不思議とそんな確信があるのだった。
「この腕輪がある限り、俺は幸せに恵まれ続けるのだ。」
と。
やがて、男は美しい女性と結婚して子供を授かる。幸せ、いつまでもこの時が続けば良い、全てが順風満帆
…のはずだった。
突然子供が高熱を出し、急いで病院に連れていく。検査の結果、医者の話では、現在の医学では施しようのない大病との事だった。
愕然と帰路へつく。自宅の電話が鳴り、出ると警察。
「お宅の奥さんが事故に遭いまして、病院に運ばれ…」
何かを言っているようだったが、それ以上は聞こえてこなかった。
男には、まるで今まで自分の身に降りかかるはずだった全ての不幸が、自分を避けて周りの人間に降りかかり始めた…、そんな気がしてならないのだった。
ふと、銀色の腕輪に目をやる。
腕輪はどこか妖しく光り輝いていた。