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高校進学をしないことになった最大の理由がドクターストップであることは間違いない。無理やり他人の術を支配下に置き対価として自分の寿命を捧げたのだから体力がない上に病気をしやすくなったらしくよく病院になっている。それだけなら別にかまわないが、急激なストレスがかかると過呼吸になったりすることがあるのだ。精神的に大丈夫だと思っていても体は拒絶反応を示すのだろうというのが主治医の先生の見解である。集団で囲まれての数の暴力が引き金になる傾向になるので、学校生活を送るのは難しいのではないか?と言われてしまえば親も納得してしまう
勉強がしたいなら家でもできるでしょ?ということで家で家事手伝いをすることが決定してしまったのは仕方がないのだろう
勉強がしたいわけでないのだ、楽しい?スクールライフを体験したいだけなんだがそれをするためにはかなりの努力が必要なのだろう。いじめられて3年間保健室登校とか言う実績も友達作りには障害であることも確かだ。保健室に常にいて勉強もまあまあできる人間がいるので勉強が苦手で逃げてきた系の人とは仲良く?できていたのだが、保健室という特別な環境でしか交流できないので教室で同じような感じで交流できるかと言えば違ってくるのだろう
ぐずぐず言っても仕方がないと朝収穫した薬草をサイズと品質の規格に合わせて仕分けていく
バラバラだった品質とサイズの規格を一族内で制定したのは兄とゆかいのな仲間たちである。規格が決まり薬草の品質もサイズもわかりやすくなったことで術者の中でも使いやすいという声が上がったし良い品質の薬草にはいい値段が付くようになって生産者もウハウハというどちらも良い思いが出来る関係が出来た。
朝摘みを出荷するのもいいが一日おいて出荷した方が安定した効果が出ることが分かったので発注が来たら採取ではなく事前に採取・仕分けて寝かせておくのが最近の常識となっている。大体時期で出る薬草の品が決まっているので特にこの方法で困ったことがないが、残ってしまったものは干しておいて冬に出荷できるようにとって置いている。ハウスとか面倒だし維持とか
急いでする作業でもないのでちまちまと収穫した薬草を仕分け作業していく。朝露がついている場合があるので、それをスポンジで吸収させて余分な水分を抜いておくのも製品化するために必要なことだ。ちなみに朝露にも効果がついているためにスポンジに吸収させた朝露は専門のバケツに絞って置く。これも製品化するかどうかは兄たちと相談することになっているが術者としてはお金を払っても欲しいものだろう
「朝露もなのか?」と朝ご飯を食べながらそのことを話しておくと少し驚いている兄たち
「なんかの本で読んだことがある。朝露を使って練るといい感じになるとかならないとか。そこら辺はきちんと確認して欲しいけど」と言えば分ったと携帯を操作している。兄の愉快な仲間たちの中にいる術者に聞いているのだろう。姉たちは制服を着てご飯を食べている。いいな学校と見ている私に
「学校に行っても疲れるだけだよ」と言っている姉たちに
「いや。それは理解してるけどさ。楽しそうだなーとね」未練たらたらの私を見て笑っている母と兄
「むしろ私たちは勉強しないでゆっくりしているあんたがうらやましい。テストとかうんざりだ」そういいながら通学の準備をしている
「ゆっくりしていないよ。商品の仕分けと梱包とかちょい面倒だし。でもテストは嫌だな」と顔をしかめている私を見て笑っていながら通学していった
朝食の片づけをしてから畑に仕事に行った母たちを見送りのんびり土間で今日の納品分を梱包し始める。納品の数や種類を確認しながら梱包して出荷分を回収する人が来る場所に持っていく。同じように素材を出荷するために集まっている家の人たちに挨拶して係りの人に渡して確認書を貰う。近所の人たちなので私が学校に通えない理由を知っているので特に気にならないようだが、納品確認をする人は私を白い目を見てくるので軽くむかつく。
納品確認書を貰ってさっさとその場を後にするのはいつもの事だが話があるから残ってくれと言われた
他の人たちと一緒に納品作業が終わった後で集められた。話というのは本家で行う行事に商品を無償で納めてほしいとのことで挙げられている素材は結構なお金がかかるものだ。普通に考えてもそんな高価な素材を大盤振る舞いするような行事はないことは他の家の人たちもわかっているらしく
「ありえない。そこまで高価なものを使って行う行事ってなんですか?年末の浄化とかでもそんな素材使わないですし」とリーダー的な人が抗議してくれる
抗議されると思っていなかったようでたじろいでいる係りの人間を見ながらそういえばと提示された素材を使う技術を思い出す
「何を召喚するのかな?」とつぶやく私に全員の視線が集まる。ヒッと驚いていると近くの人が大丈夫だからと背中をさすってくれるので一瞬止まった呼吸が正常になってくる。ゆっくり呼吸が落ち着いてから
「なんかの本で読んだんですけど」という枕詞をつけてから全員に説明すると
「なるほどね。何を召喚するかはわからないけど提示されたものを見れば結構な大物を呼び出そうとしているみたいだね」と係りの人間に睨みつけている。そんなことをしても末端の人間だろうし意味がないんではないのですか?馬鹿を考えている人間を根本から叩かないと面倒ですよ。トカゲのしっぽ切りとかされても困りますしと思っていると口に出たみたいで
「そうよね。この人を叩いても意味がないものね。というか依頼の中で召喚に使うものを水増し請求されているかもしれないという可能性もあるしね」と言い出した人がいる
「そうね。最近微妙に多く出ている製品もあるし。この製品今使わないよねっていうものも依頼されているのもあるし」と口々に言い合っているおばさまたち。結構見ていないようで見ているからな。あんまりあんまりだと本家に連絡行くこともあるのだ。最近変な依頼が多いのですけど・・・といった感じで
全員で集まって納品するようになってからどのくらいの薬草がどの程度流れているというのも生産する側でも把握できるようになってきている。邪な考えを持っている人間がいて発注の現場に手先を送り込んで水増しとかいう場合でもすぐに分かるという手法をとっている。3年前に有った事件でも同じような手段をとられて自分たちが自分たちの子供を危険にさらす術に使われるものを知らずに提供していたとかになったら笑えないという話になったそうだ。意識改革にちょうどいい感じの事件だったようだ。
無料提供の話が本家に伝わりしっかり調査されることになったのは数日後の話だが、解散するときによくそんなこと覚えていたねと呆れながら言われたので
「召喚ってドキドキしません?漫画みたいで。という感じでわくわくして読んだ本があったので記憶に有ったんですよ。兄に没収されていますけどねその本」というと
「年相応な感じなのよねあなたも」と苦笑いしている。普通に夢物語として書かれている本をもとにその技術を再現してしまう私も私だという感じなのだろうけど、巫女として修行したら誰でもできる技法だったりするんですよ。奥さんと言えないだが。今は一族に巫女としての地位に立っている人間はいない。
候補として素質がある人間は上がっているのだが決定的な守り神を使役する資質がないのでどうにも認定できないという感じなのだろう。うちに居座っているワンコなら普通に使役されてしまいますがどういう事なんでしょうか?うちの守り神たる蛟さんと今日も朝からちょっとしたバトルを繰り返していますけど・・・と遠い目をしてしまう
事件以来本家には足を運んでいない。何かあれば困るとして本家には連れて行ってもらえていないのが現状だ。全員参加の行事でも事件の被害者はフラッシュバックがという配慮から一族の経営するホテルにいると参加したとみなされるため家族が本家にいるときはホテルで過ごしている。実際、本家に行ってフラッシュバックした子もいるらしいのでこの対応は医学的には間違っていないのだが、なんだかなと思うこともある。子犬バージョンのワンコと臨戦態勢の蛟さんを連れて本家に行くのも微妙なのだが。ちなみに両親や兄姉が本家に行くときは蛟さんがついていくがワンコは私から離れていかないので本体とは交流しなくてもいいみたいだどうでもいいことを考えながら家に帰り納品依頼書を見ながら眉間にしわを寄せてしまうのは悪くない
「召喚云々というか洗脳とか何をする気なんだろうねこの人たちは」と依頼書についている薬草を見てつぶやく。普通に痛みどめとかそういう感じに使われる薬草なんだが、配合次第では麻薬よりもたちの悪い品が出来上がる。それを使って洗脳とかして使い捨ての即戦力を作っていた人間がいたのだ。この情報は機密事項だしその研究をしたのも大戦をしていた時の軍部からの命令で行っていたものなので負の遺産と言っていいものなのだが
「死兵を作るとか何をしたいのやら。というかそういう情報が流失している時点でダメだと思うんだけどなー」呆れながら言っている私の言葉が本家に伝達されているとはつゆ知らずのんびりと死兵を作る成分が皆無だが同じ種類の薬草と一緒に入れておくと効能がなくなってしまう効果があるポプリを入れて梱包する準備をしておく
「どんなに私が頑張って無効かしても無駄なこともあるが、面倒なことになってから知っていたのにとか文句言われるのも好きじゃないし。そもそも依頼を出す時の書類って二重チェックのはずなんだけどな」呟いておく。兄に薬草の依頼書がなんか変だと言っておいた方がいいのかな?おばちゃんたちが釘をどんどん刺してくれているらしいけど、末端の声じゃ潰される可能性もあるしなーできるだけ平穏でいられる方がいいのだけども。動いた方がいいかしら?と膝の上で寝ているワンコに聞いてみるとクワーッとあくびをした後に援護射撃は必要か?と聞いてくる
「術を使う資質はないし修行もしていないからそれほど大がかりなことはできないけれども。ちまちま小さなのはできるんだよね。目が曇っているなら強制的にはらしてあげることも視野が狭くなっているなら広く見ることを再教育してあげないと今後私が困るかな?」と言いながら準備をし始める
「まずは身内からだよね」と家や畑に蓄積されつつある穢れを払うことから始めることに。ちまちまと少しずつ払いの作業を行う
お風呂には禊の効果が出る入浴剤を入れたりトイレには消臭剤として同じような効果があるポプリを置いておく。いい匂いや美肌効果があるので家族には好評だし周りのおばさまたちにお願いされて作り方を教えれば各家庭でも同じように使ってくれる。そうなれば末端から浄化の作用がじわじわと広がっていくのだ。横のつながりで他の一族も同じように浄化作業が広がるとは思わなかったがいいことだし問題ないだろうと思っている。花畑を整備しながら口ずさむのは払いの祝詞
畑作業を手伝うときも作業中にちょっとしたしぐさで払いを発動したりする。ちまちま作業も半年を過ぎれば他の家々も品質が上がる我が家のやり方を真似して行うので畑にも払いが進んでくる。無意識で禊をしてきれいな体の人間が畑作業をする。質が上がるというひと手間が払いだとは思わないだろ。