ニチアサと宅急便
「栞〜荷物きたよー。」
日曜日なのに朝からご苦労様です。
私はニチアサを見ながら荷物を受け取った。
ニチアサはよい。水戸黄門ばりの安定感で休日の朝を彩ってくれる。
荷物の差し出し人は担当氏。ついにきた。
袋を丁寧に開ける。
「わぁ。もしかして栞の漫画?かぁさんにも見せて!」
母の可愛さがハンパない。頷きながら包装を解いた。
表紙は本誌の人気連載作家さんのカラーイラストだ。
相変わらずの素敵クオリティ。うっとりしながら表紙を堪能する。
表紙の右端、《期待の新人!デビュー作!!》のアオリとともに私の名前が載っていた。
ドキドキして。なんだか気持ち悪い。
「お母さん。先に見ていいよ。」
気持ちを落ち着けたい。
「え??だめよ。栞が先!」
「なんで?」
「栞の漫画よ。栞がさいしょに見てあげなさい。」
「栞がちゃんと見届けてあげるまではかぁさんは見ないわ。」
母は相変わらずよくわからないことをいうなぁ。私の漫画は私の子供か。
「わかった。ちょっと待ってね。」
部屋に戻って、ニチアサを最後までみる。
うん。いつもの日曜日だ。
分厚いチェリー増刊号を手に取る。
チェリー増刊号は、主に私のような新人や、連載が終わったベテラン作家さんが読み切りを載せたりする月刊チェリーの増刊号で、隔月で発行されていた。
昔はチェリーも色々な増刊号があったけど、発行部数の落ちこみからどんどん増刊号が減っていって、いまはチェリー増刊号だけになっている。
ここまではWikipediaに載ってる情報。私がこれからチェリーの漫画家として掲載されるにはまずこの増刊号に載せてもらうのが目標になってくる。
自分の漫画がチェリーで通用するのだろうか。
ほかの漫画家さんの作品をみるのが怖い。
何度も、何度も読み返した自分の漫画から見てしまうくらい、私はせっかくここにいられるチャンスをもらったのに、まだ実感できずにいた。
ページをめくる手が震える。
真ん中よりちょっと前。センターカラーの前に私の漫画はあった。
もしヒーローがここに居たら、多分こんなにビクビクページをめくる私をみて、またちょっとつまらなそうに、貸して。なんて言って、先に見ちゃうのかもしれない。それから、面白いじゃん。とか、なんとか、私に勇気をくれるのかもしれない。
母が私に教えてくれたのは、現実をみる覚悟を持つこと。
後から考えればそうなんだけど、臆病で甘ったれな私は、今ここにヒーローがいてくれればな。って思ってた。
ニチアサみたいに私を安定させてくれるヒーロー。
私は目の前にヒールがいるわけでもないのに、怯えてることが若干バカバカしくなって、いつものようにページをめくった。