そして2年。都へ
そして2年後、
「じさま、準備はまだね?」
「いいよ、放って先に行こう。」
「ダメ、じさまじゃないとこの木をどこに持って行っていいかわからんけん。それに都はじさまが一番詳しかと、私も一回しか行った事ないし、レッカくんもなかっちゃろ」
「まぁ、いつも芝刈り、もとい巨木伐採運搬はミスター翁ひとりでやってるからな。それにしても、いつ見てもすごいね。それ、ミスター翁以上」
レッカは身の長さは丈の数倍、太さも月子の上半身はあろうかという木を月子は鷲掴みにし、軽々持ち上げている。
「っ!恥ずかしか!そげんみらんで、私そげん力持ちじゃなかとよ!」
月子は恥ずかしさを紛らわすために振った手から思わず巨木はすっぽ抜け翁の家に一直線。
「月子!!」
巨木がまるで小石を投げるが如くの速度で飛んでいき、レッカの位置からは間に合わない。
「なにしちょるか月子!ふん!」
家から出てきた翁が手にした鉄アレイをハンマーのようにし粉々に砕く
「あー、せっかくの木材がもったいなか。」
「ごめんなさい、じじさま、ついすっぽぬけちゃって、せっかくの木が」
「ははは、よかよか、大事になっとりゃせん。しかし月子は抜けとるのう。わしがおるところならいいがおらんところでは気をつけちょけよ。」
「うん、了っ解。」
「いや、ちょっとってあれ、下手したら死人が」
「男がグダグダ言うな、レッカお主もちゃんと手伝え。」
「いや、手伝いのもなにもリミッター解除できない以上、持てないから、」
「はぁ、使えんのうじゃあこれでももっとれ、」
そう言って翁は翁に弁当の重箱を渡す。とはいえそれも翁用かなりの重量でふらつく。
「大丈夫ね、レッカくん私が持とうか?私なら重くないけん」
月子は、積まれた木々を一纏めにし、総重量数百キロはあろうかという鎖で結ばれた巨木の束を片手で持ち上げている。
「いや、大丈夫、」
「でも、」
「気持ちの問題だよ。特殊な力があるとは言え、女の子におんぶに抱っこじゃカッコつかないからね。これくらいはもつよ。気を使ってくれてありがとう」
レッカがそう答えると、月子は顔を赤くして目をそらす。
この星がかつて自分たちの本星だと知って2年。
初めは絶望の中で、生きる意味を失い、何度も、悪夢と不安から自暴自棄になり自己破壊衝動に敗北を繰り返すレッカであったが翁の暴力的で厳しい手助けや、桜の優しさ、そしてなにより月子が生きてて欲しいと言ってくれた事で、徐々にではあるが、元いた世界に戻る方法を探す事を諦め、この場所で生きていくという覚悟ができていた。
目的を持って生み出され、そのためだけ生きて来た。
だが、その目的を失い、自らの役割も失った。すべてを切り替えて、などということはできないが、それでも、今はここで新しい生きる目的を探していきたいと思っている。
「ところでお主、腰のそれはまだ持っていくのか?未練がましいのう。」
「KB弾Ver.5のことですか?一応念のためです。」
「わしらの世界では役に立たないものじゃ。」
「それでもですよ。この1年で分かったことがあります。リミッターがかかった状態だといくら鍛えたところでミスター翁ようにはならない。今のこれが限界。かと言って翁のその物質にエネルギーを譲渡し、その物質の硬度を上げ特性を強化したり、月子のように触れた物質の質量を0にしたりするような天技と呼ばれる力は作られた古い人間の僕には使える可能性がない。
全く非常識な力ですよ。血縁関係で近いとはいえ、みんなバラバラの自然、物理法則を無視した力。どこで人はそんなに便利に進化したのか」
「わしらが知るわけないじゃろ、」
「それと同じように、自分だけの力が欲しいんです。一種のお守りのようなものですが、これは過去から来た僕しか持っていない力、使う場所がなくても、万事に備えよ、何かに使える可能性はゼロじゃないかもしれないですよ。」
レッカが身につけているのは空間拡散型のコンピューターウイルスを内蔵した手榴弾。
脱出用ポッドの中に残っていた唯一使える武器にしてかつての世界でも最上位の兵器だ。
レッカは今でも心のどこかで自分と、この世界の人との間に距離を置きたがるところがある。それは自分がこの世界のとって不要な存在であるという劣等感と、今より高度な文明で合理的な文化や高度な知識を有しているという優越感。この二つの面がそうさせている。
そしてそのことが月子の好意に対する自制や、こうして過去の遺物を常に持ち歩くという行為に繋がっている。この残された過去の遺物と、今まで自分が学び教わった生き方、考え方をアイデンティティにこの世界で生きる意味を模索している。
次話2月2日17時