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恩人

下まで降りると、霧で暗く、上から見た時とは違い遠くを見通すことはできない。

レッカは行く宛などなく、できるだけのこの霧を吸わないように奥へと進んでいくが、どこまでも同じような景色が続いていく、そして目にみるだけでは飽き足らず、そこにある建物らしきものに手を伸ばし、触れる。

するとそれはとまるで砂の城のように崩れ始め、連鎖的に建物全体が崩壊し、粉塵があたりを埋め尽くする。そして、その粉塵吸った瞬間、レッカはその場に倒れ込んだ。

かつて建物だったこの残骸はレッカ脱出ポッドと同じように宇宙空間で生成された理想の物質で出来ている。加工しやすく、一度成形を行い、固定してしまえば決して酸化や劣化はせず、耐震耐熱に優れ、半永久物質と呼ばれる理想の素材。だった。

だが、それはあくまで理屈での話。長い時間をこの星の環境下で風雨にさらされ、本来の予測を外れ、この物質は変化した。それがさらに長い年月をかけさらに微細化したものがこの霧の正体。これは霧ではなく微細に分解された半永久物質の成れの果てだ。

それは粉塵というにはあまりに凶暴で甚大な被害をもたらす災害といってもいい。

変質したこの物質は、世界の半分を死の世界へと変えた。生物の電気信号を始め、あらゆる力の伝達を阻害し吸収する、そして徐々に物質同士の結合を奪っていく。

そしてさらに長い年月をかけ、すべてを微細な粒子へと変える分解触媒へ変質したのだ。

この霧はあらゆる物質を分解し続けるは止めのきかない厄災となった。

現に、それをマスクもなく、まともに吸い込んだレッカは、脳から体への信号を遮断され、意識はしっかりしているのに体は動かせず、もはや全身麻酔のように感覚などない。

このままでは5分と立たず、肺も心臓もその機能を停止する。

「このバカ餓鬼が手間をかけさせるな。」

それが、意識を失う前に、最後に耳に聞こえた声だった。そうしてレッカは視覚も聴覚もその機能を停止し意識を失った。

次にレッカが目を覚ました時、目にしたのは桜に看病される翁の姿だった。

同じものをすい込んだはずなのに、あれだけ嫌われていたはずなのに、翁は驚くべき精神力でここまで自分を連れ帰ってくれた。

泣きそうになりながら翁を一生懸命に看病する桜は、レッカが目を覚ますと。心から喜んでくれた。無事で良かったと。

全部自分のせいなのに、大切な人を命の危険に晒させたのに、

助けてくれてありがとうございます。

それはレッカの心からの言葉だった。


次話2月1日19時

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