表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

月子

一方、外では少女が背中に身の丈程の籠を背負って、翁の家の前の坂道を登っていた。彼女の名前は月子。翁の家から1里ほど離れた場所に住んでいる隣家の農家の一人娘。

翁がいるおかげで役人が徴収を恐れ、年貢が軽く済んでいる礼にと、こうして定期的に様子見がてら家の作物も持ってくる。

「久しぶりやけど、じさまに桜さん、元気にしとるかね。今日の大根はばり太かけん、驚きんしゃろう。ばってん、じさまはたくさん食べるけんな。これで足りるかね。味もよかろうけん。これば食べて、もっと大きくなって家の屋根突き破ってドーンと!」

その時だ、爆音とともに、翁の家の屋根が壊れ、何かが飛び出してきた。

月子は驚き、足を止めると、その飛び出してきた何かは、回転をしながら、月子の方に転がってくる。避けようとした時には既に遅く、その何かは月子ぶつかってしまう。

「っきゃ!」

その転がってきたものはレッカ、受身を取り、落下の衝撃を逃すために転がって彼女にぶつかってしまった。彼女の声に反応し、レッカは転びそうになる彼女の手を取り立たせようとするが、彼女の背負った荷物予想以上に重く、結果、彼女の上に倒れ込んでしまった。

「すみません、大丈夫ですか」

レッカは月子に覆いかぶさったまま、身を案じるが、月子は無言でレッカを見つめる。

「あの、大丈夫ですか?もしかして怪我を……あの僕の言っていることわかりますか」

「イケメンたい。」

「は?」

「もう!パパ入口壊さないで開けてって!」

レッカを追って翁は家の扉を吹き飛ばし、近づいてくる。

「どういうことだ、リミッターが解除できない。」

翁の襲来にとりあえず、月子を立たせたレッカは彼女から距離をとり、翁の様子を伺う。

その間に、レッカは何度も自身に機能制限を解除しようと試みるが、故障しているのか一切受け付けない。体の修復はこの短期間完了したで能力は戻ったと考えていたが、修復機能も戻ったのではなく、本当にあの怪しげな薬草の影響か?いくらなんでも非科学的だ。

「どうした小僧?その程度か?」

「冗談じゃないこの化物、さっきの衝撃、この星の環境下で生じる生物の能力外だぞ。」

元々リミッターはその星の環境に適合する機能も含めている。

データを入力しなくとも、自動でその星の標準に合わせ身体機能を適合させ、感覚、筋力、呼吸器、視覚などを、拡張、制限を行い、円滑に任務を行えるようにする。

とは言え、レッカは戦闘タイプ、それもレッカは彼の所属する組織でも指折りの実力者。制限を行っても、通常のその星の住民よりは遥か上の身体能力を発揮する。

そのレッカが、力で押されていることは理解しがたい状況であった。

翁が地面を蹴ると、地面は凹み、走るのでなく、瞬時にレッカの眼前に飛んでくる。この質量が生身の身体能力でこの速度、ありえない、不可能だ。

防御を試みるが、やはりそれを無にするかのような衝撃が再度レッカを吹き飛ばす。

かろうじて吹き飛ぶことで多少の力の軽減を行えているが、彼が地面や壁に挟まれれば力を逃がしきれない。そうなればおそらく一撃で意識を持っていかれる。

「じさま!やめんね!なんばしよっと」

「あ?おお、月子か、すまん、すまん。驚かせてしもうたな。」

翁は月子を見ると急に大人しくなり、優しい顔つきになる。

「どげんしたと?家ば、壊して桜さんが、また悲しもうが、何でもかんでもすぐに暴力振る男ば好かん。いいね、桜さんはじさまの強かとこ好いとうけど、そうやってすぐに怒ったらいかんけんね。何があったか知らんけど、ほんとに強か男ばじっと堪えんね。そのほうがかっこよかよ!それにさっきのイケメン誰ね。イケメンに悪か人ばおらんとよ。」

「イケメンか!つまりはわしか!」

翁は再び上着を脱ぎ、筋肉を見せつける

「違うと!もう、そこでじっとしとき!」

月子はレッカに駆け寄る。

「大丈夫ね!」

「えぇ、大丈夫です。それより危ないですから離れていてください。」

再びレッカは翁に向かっていき、全身全霊を込めて拳を翁の顔面に叩き込む。翁はそれを避けようともせず、顔面でモロに受け、レッカの腕から全身に激痛が走る。

「なんで避けなかった?」

「月子がじっとしとけ言うたからじゃ、それにこんなもん突きにもなっとらんわい。」

防御力も攻撃力も圧倒的、まともにやりやっても、いや何をしても今のままでは勝てない。

その事実がレッカの頭に登った血を引かせ、拳を収めさせた。

「どうしても行くのか?」

「当たり前です。俺にはやることがある。こんなところで時間を無駄にはできない。無粋な物言い、すみませんでした。さくらさんの言う通り、冷静ではありませんでした。」

「そうか、だったらもう好きにせい。お主は犬以下じゃ殴ってもわからんようじゃ。

じゃが、その前に少しだけ付いてこんか、ヴァルシシアの小僧。」

ヴァルシア、それはレッカの所属する帝国の名前だ。

「!どうしてヴァルシアを、やはり、ここはヴァルシアの管轄内なのか!」

「ついてくればわかる。」

翁はそういい、上着を拾い。壊した扉と屋根に応急処置をし、桜に、明後日には帰ってくると言い残し、レッカがついてきていることなど確認せずに山の方へと歩いていく。

レッカはこのまま無視しようとも考えたが、手がかりのない状況では、これが最善の策と、仕方なしについてく。レッカは道中、翁に対し、質問を次々に浴びせるが、どうせ何を言ったところで信用する気はないだろ、黙ってついてこい。

ただ現実を受け入れるだけの覚悟をしておけと返すだけ。

結局、その日はそのまま何もわからないまま、山中の洞窟で夜を明かした。


次話1月31日12時

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ