ラグナロク
「!その声、ハルカワ、」
「君は誰だ。この船の乗組員は全員死亡を確認して捨てたはずだが。いやまてIFS-13となのっていたな。名前ではないということはロイドか、あぁ、そうかお前か」
「どうしてお前がそこにいる!」
「答えの決まった質問をするんだな、」
「皆を!サクヤは!」
「ははは、怒るなよ。そうか、お前がサクヤの、心配するなよ。彼女は無事だ。今も僕の横で寝ている綺麗な寝顔だよ。」
「サクヤ!聞こえるかサクヤ!」
「冗談だよ、どなるなよ。外部通信が可能な部屋で寝ているとどうして思う。
どうした?前の時とは見る影もない冷静さの欠片もない。」
「当たり前だ。前のお前は檻の中、どこの世界に凶悪な犯罪者に世界最強の船を乗っ取られて冷静でいられる。」
「あぁ、確かにそうだ。その通りだ。」
「全てか理解できた。」
「は?」
「この世界も、フレームの襲撃も、エタニティドライブを奪ったことも理解できる。」
「なるほど、この間フレームが帰還しないことがあったが、あれは君のせいか、見つけたよ、君のパーソナルデータ。IFS-13、なるほど優秀な成績だ。だが、フレームを撃破できるほどの戦闘能力を有しているとは、君の戦闘機は無事だったのかい?
いや、無事だとするなら今はそうやって地を這っているわけがない。」
「少々仕様の変更があってね。フレームごとき今の俺の敵じゃない」
「ふーんまぁどうでもいいことさ、今の僕にとってはね。あぁ、あと全部僕のせいにすれば君は楽なのだろうけど、今の状況も、君の身に起こったことも別に僕のせいじゃない。」
「ラグナロクで、何をするつもりだ」
「簡単で、情けない話だ。君に語った新しい種の創造。僕はあれに失敗した。
僕は新しい人類を創造した、争うこともなく、深層心理でつながることで相互理解が可能な完全な生命体。言葉による誤解も、行動の矛盾もなく、人という種が成し得なかった心の成長。僕は彼らに希望を持っていた。そしてその希望は確かに芽吹いていた。
だからさ、君たちに捕まっても後悔なんてなかった。遠い未来、世界を守り維持するのは人類ではなく、彼らだ。彼らにはその進化の可能性を遺伝子に刻み込んだ。
僕は成し遂げたつもりだった。でも事実は違った。僕が君と同じように次元の歪みに飲み込まれている数千年の間に、僕の作った新しい人類はウイルスによる堕天とも言うべき遺伝構造で変質してしまった。毒された彼らは個性やエゴという間違った方向で独自の進化を始めた。そしてあろう事か人と交わり、その本質さえも歪めてしまった。それは僕の予定において想定外の事態だ。人の上位種という立場を忘れ、人に感化され、愛を知り、憎しみを覚えた。さらには本来あるべき力を歪め、己の中のつながるお互いにつながる力を、異次元から力を引き出すために使い始めた。
そしてその中に、全人類の脅威となる程の力を持ったものたちが生まれ始めた。
力を人類は戦争のために利用した。その圧倒的な物理法則を歪める力の行使により彼らは更に力を増大させていった。でも、彼らだって奴隷じゃない。次第に自らの権利拡大。戦争へのちからの利用を拒絶し始めた。そして一人の英雄が生まれた。
彼女は自分たちの同胞を守るために立ち上がった。彼女たちの力を恐れた人類は、自らの母星を放棄。同宙域に次元断層を作り上げた。そして彼らを追い込むために緑の星を砂の星に変えようとした。」
レッカは翁に聞いた伝説を思い出していた。
神々に抗おうとした天技の王がいたと、彼女は神に戦いを挑み神々の時代を終わらせた。しかしその戦いで、彼女は死にその子供たちがいくつもの国を作ったと、そしてその力を使い、命を削り、不毛の土地を人が生きられる世界に変えていったと。」
「もうわかるだろう、君の周りにいるものはかつて僕が生み出した過ちの成れの果てだ。
知らなければどうということはない、僕の物語はそれで終わりでもよかった。
でも、想定外のタイムワープ全く、理解の外だ。まるで神が僕に自らの無能を知らしめるために与えた罰のようだよ。いや違う、僕に与えられた使命だよ、これは、自ら生み出した罪は自らで償う。そのためのラグナロクの修復さ」
「まさか、」
「当然だ、やがて彼らはこの星を渡る術を手に入れる。そうなる前に手を打つべきだ。」
「ふざけるな、みんなを皆殺しにするつもりか」
「人類との戦いの必要がなくなり、力の弱まっている今、僕が目覚めたのはそういう神の思し召しさ。それにどうせ、彼らが宇宙に出れば結局同じことさ、また戦争が始まる。」
「さっきから聞いていれば、神神と、いつからそんなに信心深くなったんだ?」
「気がつけば数千年後の世界に飛ばされれば気もおかしくなるさ、僕の傑作も結局は失敗、全部なくなって、全部むちゃくちゃだ。自分の全てを否定され、正気で居続けるほうがどうかしている。全部終わらせて償うだけさ。それだけが僕の全て」
「この破滅願望が、」
「あぁ、それに巻き込まれて死んでもらうよ。それになんなら、今すぐにエタニティドライブを6基搭載したこのラグナロクの主砲を撃って街ごと消し飛ばして構わないんだよ。」
馬鹿な6基、考えられないそんなケタ外れの出力で主砲を撃たれれば、手の打ち様がない。
「嘘だよ、そんなエネルギーのムダをしないさ、やる時は星まるごと、いや宇宙ごとさ。
もうすぐだ、もうすぐ僕はすべてを終わらせる。それまで余生を楽しむといい。」
「そんなことはさせない、覚悟していろ、お前を捕まえに行く」
「だったら玄関を開けて待っているよ。その時の続きを話そう。最も、来られればだけど」
通信を終えるとラグナロクは月夜の空に消えていった。




