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プロローグ1

序章 宇宙開拓歴1300年8月31日ラグナロク号最終通信記録

「OSS-14式」

艦内の通路で突然の呼び声に、ぴしっと軍服着こなした黒髪短髪の女性は足を止め、

不機嫌そうな顔で振り返ると、呼び止めた本人を通路の死角に引きずり込む。

「他の人がいないところで、形式番号で呼ばないで、嫌いだって何度言えばわかるの!」

「しかし今は任務中だ。通常任務では、個人的な呼唱の使用は望ましくない」

「そう、だったら話しかけないで、IFS-13式」

「……分かったよ、サクヤ。これで満足か」

「えぇ、それでいいわ。レッカ、」

「呼び方なんて、個体が識別できればそれで十分だろ、何でそこに拘るんだ?」

「型番で呼ぶことを良しとするなんて、自分から、自分は物ですと言っているような物じゃない。私たちロイドにも任務下における行動の制限と、生命権利の劣位以外は普通の人間と変わらない権利が認められている。名前を持つことも何の問題もないわ。」

「理解できないな」

「堅物、そんなことだから小型戦闘フレーム言われて馬鹿にされるのよ。それで何?

そんなあなたのことだから世間話や私を気遣って話しかけてきたわけじゃないんでしょ?」

「あぁ、君がこのレベル4に来ることを不審に思って話しかけた。」

「今、この監獄区のここにいる対象者は一人。興味があるならついてくる?」

大型宇宙戦艦ラグナロク。

帝国でも指折りのこの大型艦が現在遂行中の任務は、先日確保されたある男の護送。

通常であれば、これほどの艦を使って一人の人間の護送などはあり得ない。

「ドクターハルカワ、取り調べは本星についてからのはずだが?」

「本星についたら、任務は終わり、私たちでは接触もできなくなるでしょ。本星まで1時間ちょっとのこの注意機なら敵襲の危険性もない。落ち着いて話せる絶好のチャンスよ。大丈夫、ほら艦長許可はもらってある、それよりレッカも興味はない?私たちロイドの生みの親にして、進化の求道者、もとい、薬による抑制も効かない本物の狂人に、」

「艦長はあいも変わらず甘い、規律の敵だな。ちなみに彼には興味はない、すでに俺は一度会っているし、そもそも確かに僕たちのオリジナルを作ったのは彼だが、厳密には僕たちそのものを作ったわけじゃない。それに今や彼は帝国に反旗を翻した、犯罪者だ。」

「そう、分かった。」

「だけど、サクヤ一人を生かせるわけにはいかない。形式上だけでも女の子だしな」

「男女差別発言、それに不器用な言い方、素直に心配だって言いなさいよ。でも嫌いじゃないわよ、そういうところ。過保護ね」

「君は俺が守る、いつもそう言っているだろ」

「射撃の能力は私のほうが上でしょ。」

「だからこそ、サクヤは攻撃の要だ。接近戦用に作られている俺そんなサクヤを守る」

「それだけ?」

「それだけだけど?」

「そう、ほんとつまんないわね。いい加減、お人形は卒業しなさい。さ、行くわよ」

いくつもの無人のセキュリティロックを抜け、白で統一された特別独房に隣接するモニタ室にやってきた2人は画面越越しにハルカワの様子を伺う。

ハルカワは生粋の科学者で、ロイドの2人からしてみれば戦闘能力は0、脱獄の可能性も皆無に等しい。だが、それでもなお、この船一番の堅牢さを誇る独房に囚われているのは、彼の潜在的な危険性を警戒してのこと。

しばらくモニタ室から様子を伺うと、サクヤはマイクごしに話しかける。

「気分はどうかしらハルカワ。」

その声に反応し、一瞬監視カメラを見つめるが、すぐに視線を下の中に戻し、答える

「退屈だね、本の一つでも欲しいところだね。」

「世界最高の頭脳が本だなんて、いまさら何を学ぶの?」

「書いてあること以上を読み取れないのは馬鹿か君のようなロイドの場合だ。僕のような天才であれば、同じ物のくり返し読み解く中にも常に新しい発見があり、創造性がある。」

「!どうして私がロイドだと」

「声のイントネーション、他の人にはわからないだろうけどね。……嘘、適当言っただけ、冗談、怒るなよ、いや怒りもしないか、所詮は人形だからね」

「残念だけどハルカワ、私たちはあなたの知っているロイドじゃない。思考も創造性もそれに感情だってあるのよ。私は今、あなたのせいで不機嫌よ」

「そうか、それは失礼をした。本人がそう思うならそうなんだろ。」

「申し訳ないけどあなたの無駄話に付き合っている暇はない。質問にだけ答えなさい。」

面会が許された時間は30分、自分がロイドであることを受け入れられないサクヤは次々に質問を投げかかける。自分の存在意義、人との違い、今までの疑問の全てをハルカワに質問をしていく、だがハルカワは馬鹿にするように何一つまともに答えようとしない。

その様子に次第にサクヤは苛立ち、感情的に質問から彼の態度を叱責する言葉に変わっていく。するとその変化を感じ取ったハルカワは馬鹿にするように、しかし初めてまともに反応する。それは笑い。人形が感情的になるなよ。人形でも一応女か、と

「サクヤ、やはりこの接触は危険だ。さっきから君の精神への負荷が高い」

「分かってる、でももう少しだけ。」

サクヤは、レッカに切られた再びマイクをオンにする

「ハルカワ、感情的になったことには謝るは、だから一つだけ答えて、どうして、」

「私たちを作ったか?君たちは必ずそれを口にする。結局それだろ、」

「……」

「理由なんてない。ただの過程だ。何もないよ。あえて言えば興味本位の副産物」

何もない、その言葉にサクヤはさらに苛立つ。

「しかし、申し合わせたように君たちの疑問は結局そこに行き着く。それは千度目の同じ質問だ。それが創造性のなさの所以か。いや、あるいはもしかしたら、それは正しい質問なのかもしれない。だとしたら僕たち人は、創造主たる神(笑)にあったらまずは、同じようにどうして人を作り給うたと尋ねるべきなんだね。ありがとう参考になったよ。」

「ふざけないで!」

「ふざけてなんかいないさ。ロイドを開発した理由はそれだけだ。まぁ、納得のいく都合のいい理由が欲しいななら、教えてよ、それを言ってあげるから。でもそんなことをしなくても、君たち自身の存在意義は明確だろ。艦の運航は完全にコンピューターが制御するようになった戦艦に乗っているという事は、君は明らかに戦闘要員つまりは、人を殺し、権力者の力となることが君たちの存在意義だろ。」

「馬鹿にするな!」

「それはこっちのセリフだ。人の生み出した芸術を、そんなものに転用して、国家というものはつくづく度し難い。戦うなら自分で血を流せというのに、一つ勘違いをするな、僕は君たちのような殺すための道具なんか作ってはいない。想定外だ。それなのに、僕に君たちの存在理由を求めるのはお門違いだ。僕は君たちの親じゃない。わかったか?」

「な、私は、」

「そこまでだ、サクヤ、君の精神汚染濃度が上昇している」

感情に任せその思いを口にしようとするサクヤのマイクを切り、レッカは彼女に警告する。

「でも、」

「許可されているとはいえ、ここはモニタリングされている。これ以上は君の経歴に傷をつけることになる。ここまでだ。レンゲのようにあそこで調整は受けたくないだろ」

「……分かった。」

かつての友の名が、悲劇の記憶を呼び起こしサクヤはゆっくりとマイクから手を放す。

「余計なことを考えるな、任務に集中しろ、お前は人と同じになろうとしすぎる。僕たちは世界の秩序の、法そのものだ、余計なことを考えるな。後片付けは僕がしておく。」

サクヤは仕方なしに、部屋を後にする。この任務の初期段階で、サクヤのメンタルパラメーターに微小な異常が見られた理由が理解できた。

「どうしたんだい?言いたいことはそれだけかい。お嬢ちゃん」

突然会話が終わってしまったことに疑問を持ったハルカワが馬鹿にするように問いかける。


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