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討伐師  作者: 夏目 涼
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第七話 仲間

俺は元の世界に戻ってもう一つ驚いたことがあった。

裏世界から戻ってきたのだが元の世界の時間が全然進んでいないのだ。


裏世界に行ったのは、こっちの世界の夕方3時くらいだったはずだ。

俺とアースベルは裏世界で、かなりの時間特訓していた。実際の経過時間は分からないが、最低でも3時間はしていたと思う。

しかし、元の世界に戻ってきたらどうだろうか。

アースベルの薄暗い部屋では分からなかったが、部屋から出ると廊下の窓からまだ太陽が顔を覗かせている。

てっきりもう夜の6時を過ぎていると思っていた俺は呆然としてしまった。


「ちょっと!ドア閉めてよ。眩しいから」


不機嫌そうにアースベルが言う。


「あの・・・今何時ですか?」

「は?そんなの聞いてどうすんの。3時半過ぎたころだよ」

「俺たちが特訓に裏世界に行ったのは3時くらいでしたよね?」

「あ~?そうだったかな?まぁ、時間の経過が向こうとこっちでは全然違うからね。こっちの10分が向こうの1時間だから」


そんなこともあるのか。


俺は太陽の光りでなぜか不機嫌になっているアースベルにお礼をいい、寮に戻った。








寮に戻ると、瑠衣が階段から降りて来た。


「おかえり。美衣奈ちゃん、意識戻ったって!」

「そうか・・・」


俺はホッと胸を撫で下ろす。


「じゃ、美衣奈のところに行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」



男部屋がある3階から、女子部屋がある2階に向かう。


俺は歩きながらすごく不安になっていた。美衣奈から拒絶されるんじゃないか、潤から罵られるんじゃないか・・・。頭の中に悪い考えがたくさん浮かんでくる。今までのところ俺の人生では味わったことのないことだった。正直なところ努力すればなんでも人以上のことが出来た俺はこんなに苦戦することなんてなかった。ましてや他人に迷惑なんて・・・。


考えがまとまらないまま、美衣奈の部屋についた。深呼吸を複数回して、コンコンと入り口のドアを叩いた。

すると、ガチャっとドアが開き潤が出てきた。

美衣奈の看病の為にいるのだろう。



「・・・・戒斗」

「美衣奈目覚ましたって聞いたから・・・美衣奈と話せる?」



そういうと、潤は何も言わず部屋に通してくれた。

中に入ると部屋の作りは男部屋と一緒で美衣奈は上の部屋みたいだった。下の部屋にはベッドに座って本を読んでいる蘭がいた。



「お邪魔します」



蘭に一言声をかけて部屋に入る。

蘭はチラリと俺を見たが、また本へと視線を戻した。



階段を登り、ベッドに視線を向けると美衣奈が寝ているのが見えた。



「美衣奈」


俺は小さな声で呼ぶ。


「・・・・なによ」


少し間隔をあけて美衣奈が返事をする。

そして美衣奈は俺とは反対の方向に寝返りをうった。


「・・・・今日はごめん。まさかこんなことになるなんておもってなくてーー」

「謝らないでよっ!」


美衣奈が俺の言葉を遮って大声を出す。


「え・・・?」

「・・・・・勝負に怪我はつきものよ。特訓とはいえ、あれは勝負だった。私があなたに及ばなかっただけよ。謝られたら・・・・・私の方が情けないわ」


美衣奈はそう言うとバサッと布団を頭まで被った。


美衣奈は凄い。

本当の闘いの心得を分かっている。

これも小さいときからの教えなのか。

とてもお嬢様とは思えない。

俺とは全然闘いの気持ちが違う。

箱入り娘に育てられたのかと思っていたが俺の偏見だった。人を見た目で判断していた自分が恥ずかしい。



「分かった。早く良くなってまた相手してくれよ」

「・・・望むところよっ。次は負けないんだから」


俺は、「おう」と少し小さく返事をした。

美衣奈の部屋から降りると、蘭の部屋で気を使うように隅に立っている潤がいた。


「じゃ、俺はこれで・・・美衣奈もまだ万全じゃないだろうし」

「うん、また明日」


そういって潤は、美衣奈の部屋に上がっていった。

俺も自分の部屋に戻ろうと玄関に向かうと蘭が玄関の前に立っていた。


「あ、ありがとう、部屋に入れてもらって。もう帰るよ」


俺はニッコリ笑って蘭に言う・・・・が、どいてくれる気配はない。


なんだ?俺、何か失礼なことしたか?


不思議に思って蘭を見ていると、


「・・・・なんで謝るの」


初めて蘭の声を聞いた。

小さくか細い声だった。


「え?」


急に話しかけられた驚きでつい聞き返してしまった。


「なんで自分が悪くないのに謝るの」


あ、もしかしてさっき美衣奈に謝ってたやつか?


「あぁ、それはやっぱりクラスメイトに怪我をさせたんだから謝るよ」

「・・・・・クラスメイト?」

「うん。毎日一緒に頑張って特訓してるだろう?」

「一緒になんて特訓していない。みんな自分のためだけにしている。討伐師ハンターになるために」


すごく決意のこもった視線で見られる。

いつもどこか遠くを見ている視線の蘭ではない。


「あなたは自分の力を制御しないとこの世界では暮らしていけない。私と一緒・・・かわいそう」

「かわいそう?」


初めて言われたな。かわいそうって。

いつもいいな、うらやましい、すごいばっかりだったから。俺の努力も知らずに・・・。


「俺は自分をかわいそうとは思っていないよ。一緒に同じ目的を持って頑張る仲間がいる。だから蘭も一人で頑張るんじゃなくてみんなと一緒に頑張ろう!君も含めて仲間なんだから」

「・・・・・なかま」


蘭は俺をじっと見る。

さっきの決意のこもった強い視線ではなく、ちょっと探るような戸惑ったような視線。


「蘭?」

「・・・・・じゃ、これからはその仲間の証見せて」

「え?」


そう言ってまた自分のベッドに座り、本を手にした。


どういうことだ?仲間の証拠ってどうやって見せたらいいんだ。


頭を捻りながら


「じゃ、また明日」


と蘭に言って部屋を出た。















寮に戻り、俺は自分のベッドに座り瑠衣に美衣奈たちの部屋であったことを話す。


「よかったねぇ~。まぁ、美衣奈ちゃんらしいっちゃらしいけど」


瑠衣は俺の部屋のソファーに座り、笑いながら言う。


「でも、蘭の言葉が気になるんだよな」

「ん~・・・ってか不思議ちゃんだよね、蘭ちゃんって。見た目も日本人っぽくないし、海外の国の人っぽくもないし・・・・この世界で見たことない外見というか・・・。なんて言ったらいいのか分かんないけど。もしかして裏世界の人だったりして?」

「そんなわけ・・・・・」


そう言いかけた時、俺は特訓で行った裏世界の村のことを思い出していた。


そういえば、こっちの世界には見ない緑とか青とかの髪の人がたくさんいたな。それに、顔もどことなく蘭と同じ雰囲気だった様な気がする。


まさか・・・・ね。












次の日、美衣奈も復活し防御の特訓は再開となった。



「では、相手は増田と小倉、甲斐田と西園寺、私と蘭だ。始めっ!」


また武良久の掛け声で始まる。


「行くぞ!潤」

「おう、お手柔らかにな」


俺は昨日特訓した30%の魔力でパンチを向ける。

潤も防御できているようだ。

特訓してくれたアースベルと特訓の手配をしてくれた武良久に感謝だな。


しかし、昨日も注意されていたが潤は中々パンチを繰り出さない。


「おい、攻撃してこないとまた怒られるぞ?」

「あ・・・あぁ」



何だかこの訓練になると潤の様子がおかしい気がする。

何かあったのだろうか?



「はいっ!終了。次!」


武良久のその言葉で、俺と蘭、瑠衣と美衣奈、潤と武良久のペアになる。


「・・・・・」


蘭との訓練は苦手だ。

顔は無表情で感情が読めない。しかも動きが俊敏で目で追いかけるのがやっとだ。


「・・・・っ!」


蘭が攻撃を仕掛けてくる。

俺は防御する。バチっと音が鳴る。

俺の腕はビリビリと痺れた。


「くっ!」


俺の防御魔力よりも蘭の攻撃魔力の方が強いみたいだ。

もっと魔力を込めて防御しないと。


俺は体制を立て直し、今度は40%の力で蘭に攻撃を仕掛けた。

しかし、蘭の防御の前ではカスのように撥ねられる。


くそっ。40%じゃ少なすぎるのか・・・・。


そして次は50%で攻撃してみる。


今度はバチっと音を立てる。

しかし、蘭はケロッとした顔だ。


これくらいの力で対等くらいか。


そう思っていると、蘭のパンチが目の前に来ていた。

しかも思いっきり魔力のこもったパンチだ。



早いッ!避けきれない!



俺はとっさに顔の前を腕でガードし100%魔力で防御した。


すると、パン!と大きい音が部屋中に響く。


「くっ!」

「うぁっ!」



ドサッと俺と蘭は跳ね飛ばされた。


「うぅ・・・」


俺は自分の身体を見るが何とか無傷だ。

ハッと蘭を見る。

蘭も飛ばされたが、身体を起こしている。意識はあるみたいだし、怪我もしていないようだ。良かった。

ホッとしていると武良久が鬼の形相で近づいてきた。


「お前らはっ!これは防御の特訓だ!本気の闘いなら他でしろっ!」


武良久が大声で叫ぶ。

唖然としている蘭。


「まったく・・・何度言えば分かるんだ」

「すみません」


俺はペコリと謝る。

蘭は呆然として座ったままだ。

俺は蘭のもとに近づき、手を差し出す。


「大丈夫?蘭も武良久に謝った方がいいよ」


武良久に聞こえないようにコッソリと言う。

蘭はキョトンとしながら


「あやまる?」


と言っている。

俺はとりあえず蘭の手を持ち、グイッと引っ張った。


「キャッ!」

「はい。じゃ、今俺がしてたようにしてみようか?」


コクリとゆっくりと蘭はうなずいた。

なんだか素直だな。


「ブラーク・・・・ごめんなさい」

「?!」


武良久は蘭のその姿にかなり驚いているようだ。

確かに、喋らず無表情だった蘭が謝っているのだ。

そりゃ驚くだろう。


「あ・・・・あぁ、次から気をつけるんだぞ」


そう言って武良久はチラリと俺を見た。


え?俺まずいことしたか・・・・?

また説教されるのか?!


サッと身体を強張らせていると、武良久から意外な言葉が返ってきた。


「・・・・ありがとうな」


ボソッと俺にだけ聞こえるような声で。


武良久はそう言うと他の3人の所へ行った。



「なんだ?」


俺は武良久の方を見ながら不思議に思っていると、グイッと服を思いっきり引っ張られた。


「カイト・・・」


引っ張る先には蘭がいた。

何だかその姿はまるで母親に甘えてくるような感じだった。


「みんなのところに行こうか」


俺は蘭の手を引き、みんなの元へ向かった。








なんとか防御の特訓も終え、夜ご飯を食べるために食堂へ行く。


「俺今日はAコース!」

「僕はBコース!」


食事はAコース、Bコースと日替わりのものとあとはカレーライスやラーメンなどが揃っている。

食堂だけが唯一下級クラスと上級クラスが一緒になる場所だった。


俺と瑠衣はそれぞれ自分のご飯を受けとり、席を探していると、潤が一人で座っている姿が見えた。


「よっ!ひとり?隣いいか?」

「あ、戒斗と瑠衣・・・・おう」


そう言って俺は潤の隣、瑠衣は俺の前に座った。


「あのさ、今日気になったんだけどさ、なんで攻撃しないの?」

「あ、それ僕も思った!」

「・・・・・」


その問いかけに潤は黙る。


「いや、特に理由が無いんだったらいいんだけどさ・・・・すごく辛そうだからほっとけなくて」


俺は潤の顔を見て言う。

今も潤の顔は辛そうに見える。


「あ~・・・・まっ!人には話したくないこともあるからな!ごめんごめん!・・・・しっかし、このAコースの豚の生姜焼き旨いぞ!瑠衣のBコースのハンバーグはどうだ?」

「え?!あ、・・・・モグ、うん!美味しい!潤のカツカレーはどう?あ、ハンバーグ一口食べる?」


俺と瑠衣は重くなりそうだった空気を変えようと、話題を変えるが、潤はスプーンを持ったまま動かなかった。


聞いてはいけないことを聞いてしまったかな。

どうしようか・・・。

瑠衣と目を合わせて困っていると、潤が静かに口を開いた。



「・・・・・・・俺、昔特訓中に相手に大怪我をさせたことがあるんだ」

「え?」

「俺のお袋が美衣奈の家の家政婦でさ。片親だからって住み込みで働かせてもらってたんだ。それで小さい頃から美衣奈の家で遊び感覚で一緒に剣術を受けてたんだ」

「そうなんだ」

「確か美衣奈ちゃんの家って、剣豪の家、西園寺家だったよね?」

「そうだ」



ポツポツと潤は過去を話し出した。



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