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討伐師  作者: 夏目 涼
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第四話 基本

やっと動くようになった体を起こし、ベッドから起き上がる。

俺が寝ていたベッドはカーテンで仕切ってある。




普通に考えたらここは保健室か?



カーテンを開けると、なにやらそこは薄暗い部屋で薬の匂いがプンと漂ってくる。ベッドがあった場所は明るかったが一歩歩くだけで別世界のようだ。

部屋に備え付けてある棚の中には所狭しと何か分からない薬や薬品のビンが入っていて、机の上には試験管やフラスコなど理科の実験で見たことのある用具が置いてあった。



俺はゆっくりと歩きながら部屋を見渡す。



すると、足元に何かがぶつかった。



「うわぁ?!」

「いっ・・・・!」




ガン!と勢い良く机に何かがぶつかる音がした。




モゾモゾと何か動いているのは分かるが、人か???中々起き上がってこない。




「す、すみません!大丈夫ですか?」



すぐに俺は手を差し伸べた。

俺の手を取り、起き上がった人物は長身で白衣を身に纏った金髪の美青年だった。


美青年はぶつけたであろう頭をさすりながら俺の顔をマジマジと見る。


「あれ?君、起きちゃったの?なんだつまらないなぁ・・・」



つまらない?

俺が動けるようになったことが?



まさか



俺の身体を使って実験しようとか考えてたり?!




俺は咄嗟にパッと男から距離をとる。




「えーっと眼鏡・・・眼鏡。あった」



机の上に無造作に放置されていた眼鏡を取り、男は俺に向かいにっこりと微笑んだ。

すごく眼鏡が良く似合う好青年だ。



「そんなに警戒しないでよ。僕はこの学園の魔法専門教師のアースベル。よろしくね」



・・・・・アースベル。

外国の人・・・・なのか?

髪も金髪だし。



「増田 戒斗です。初めまして」



俺はペコリとアースベルに向かってお辞儀をする。



「よかった、いい子で。ブラークから君をお願いされているんだ」

「ブラーク?」



ブラークって誰だ?

新しい先生か?



「何でも、訓練中に魔力全放出で倒れたんだろう?」

「え・・あ・・そうみたいです」


アースベルは聞こえていないのか、構わず話を続ける。



「まったくあの女は・・・・初心者を魔物と戦わせるやり方は止めろと何度も言っているんだが」


ブラークとは話の流れから予想すると武良久のことのようだ。外国の人だから発音が違うのか・・・と、あえて突っ込まなかった。


「え?(やっぱり)そうなんですか」

「あぁ。死者が出たり、戦いに恐怖を覚えて討伐師ハンターとして使いモノにならなくなったりするからな。普通はある程度技を覚えてから実践をするんだ」


やっぱり正攻法じゃないじゃないか。

あの鬼教師・・・・。



「まぁ、その人の眠っている能力を呼び起こす為にはその方法が一番なのは分かっているんだが」

「眠っている・・・・能力?」

「そう。死に近くなれば自分の眠る能力に誰もが頼る。ある程度技術を持っていたら弱い魔物だと倒せてしまう。かといって強い魔物と戦わせると即死んでしまう」


だからって・・・・あれはないと思う。さすがにやりすぎだ。俺も、あの腹切られたやつも死にそうになったし。流衣がいなかったらどうなってたか。


「そのおかげで大きな怪我をするものは多発しているが、優秀な能力者を多く見つけているのはあの女なんだ。僧侶と魔法使いはなりたくてすぐになれるような職業じゃないからな」

「そう・・・・なんですか?」


なんだか複雑な心境だな。

あの女のおかげで俺の魔法使いの能力が開花されたわけか・・・・。



「しかし、使い方を知らないから仕方ないが、いきなり全魔力放出を使うとは・・・下手したら死んでたぞ」



アースベルは俺に近づき顎を持ち上げると俺の顔をじっと見る。


顔が近い。

キスが出来そうな位置にアースベルの顔がある。

見惚れるほど美形だが相手は男だ。

俺は決してそんな趣味はない!



俺は苦笑しながら、顎にあったアースベルの手を外し少し離れた。



「あ・・・無我夢中だったので俺、良く分からないです。その~・・・俺!教室に戻らないといけないのでっ・・・失礼します」



必要以上に至近距離にあったアースベルの身体を避け、逃げるように部屋のドアから廊下に出る。



「またね」



アースベルに爽やかな笑顔を向けられ、俺は戸惑いながら一礼してドアを閉めた。























俺はまったく分からない校舎の中を歩き回り、やっとの思いで教室に戻ってきた。


「戒斗~!!!」


教室に入ると、流衣が飛びついてきた。



「良かった!無事で。心配したんだよ」

「はは・・・教室に戻ってくる方が苦労したよ」



そう言って、俺は自分の席に着いた。


回りを見ると、空席がある。


「あれ?他の奴もどっか行ってるのか?」



俺の言葉に瑠衣は沈んだ顔をした。



「下級クラスに行っちゃった」

「は?」

「さっきの特訓で。上級クラス、僕ら含めて5人になっちゃった」



ただでさえガラガラで広かった教室がもっと広く感じた。



「そういえば武良久先生はいないのか?」

「うーん・・・・何か準備してくるって言って教室を出たきり戻ってこないんだ」



準備・・・・。

またとんでもないことさせられるんじゃないだろうな。



俺の中には不安しかなかった。




そう思っていると、一人の男が俺たち二人に近づいてきた。



「よぅ。・・・・さっきはありがとな」


その言葉で男の顔を見ると、流衣が傷を治した男だった。



こいつは怪我して死にそうになったのに残ったんだな。

度胸あるな。



「いいよ。無事でよかった」


流衣はにっこり微笑んで男に答える。


「お前も・・・ありがとな」

「え?」


俺・・・・・こいつに何かしたっけ?


そう思っていると、流衣がコッソリ耳打ちしてきた。


「残っていた魔物、戒斗が全部倒したからみんな命拾いしたんだよ」

「あ・・・・あぁ。いいよ、気にしないで。俺もよく分かってないから。でもみんな無事でよかったよ」


俺はにっこりと微笑み男に答えた。


本当に自分自身でも何したかわかんねーから、お礼言われても困るだけだし。



「俺、小倉おぐら じゅん。剣士、目指してるんだ」


そういえば、さっきの特訓のときに剣を持ってたな。



流衣と俺は潤に自己紹介すると、潤は俺の前の席に座った。


潤は一目見た感じ、自分の感情を悟られないように身を据えた男らしい雰囲気を感じる。そして鍛えられたいい体つきをしていた。男の俺が見ても惚れ惚れする。

侍がこの時代にいたらこんな感じなんだろうなと思う。


「二人ともここに入学する前にどこかで特訓していたのか?」

「いや、全然」

「僕も全く」


その言葉に潤は目を見開いて驚いた。


「嘘だろ?血がにじむような努力をしないと僧侶と魔法使いにはなれないって聞いたんだが」


俺と瑠衣は顔を見合わせた。



そんな情報があったのか。

俺も意識して魔法を使ったわけじゃないから偶然なような気もするが。



「気に食わないわ」


いきなりそんな事を言われ、俺は声の主に視線を向ける。

特訓の時に『西園寺』と名乗っていたあの生意気な女だった。


こいつも残ったのか。


「世の中にはそういう天才の奴もいるよ。美衣奈、君みたいに」


潤がにっこりと答えると、顔を真っ赤にして焦ったように


「当たり前でしょ!」


と言って、フイッと顔を背けた。



気がつえー女。




「美衣奈は剣豪一族の西園寺家のお嬢様なんだ。俺も近所に住んでてよく西園寺家に遊びに行って剣の稽古をつけてもらったんだ」

「へぇ~」


そういう家系もあるんだな。

いわゆるエリート組ってやつ?

俺からしたら美衣奈とかいう女のほうが気に食わないが。



俺はふとあと一人のクラスメイトが気になった。

見てみると端の席に水色の髪の毛と瞳をした子が座っている。

とても同じ年齢には見えない、少女と言ってもおかしくない感じだ。

その子は心が無いみたいにジッと一点を見て座っている。


俺がその子を見ていると気付き、潤は困ったように言う。


「あの子は何を話しかけても答えてくれないんだ」

「そうなんだ・・・・」


俺は改めてクラスを見渡す。

たった5人のクラス。

3年間共に頑張っていく仲間・・・か。



バンッと勢い良く教室のドアが開き、武良久が入ってきた。



「お前ら!次の準備出来たぞ~。お!増田、帰ってきてたか」

「はい・・・・おかげさまで」




なんでこんなにも普通で居られるんだよ。この女。

二人死にそうになって、5人下級クラスに移ったんだぞ?なんとも思わないのか。

やっぱり鬼だ、いや悪魔だ。



「じゃ、こっから本格的な特訓に入る。部屋を移るぞ」



そう言って武良久は教室を出て行った。

俺たちは戸惑いながらも武良久について行く。















「な!?」


武良久に続いて教室を出るとそこは廊下でなく、何やらボクシングで使うサンドバッグのようなモノが人数分ぶら下がっている大きな部屋に出た。

サンドバッグが部屋の隅から隅へ移動できるように天井にローラーで吊るしてある。



「何よ・・・・これ」


美衣奈が呆然としながらつぶやく。

みんな言葉には出していないが、同じ思いだろう。



「ここで格闘家の特訓をする」


武良久はきっぱりと答える。


「は?何言ってるの!私は剣士希望よ!なんで格闘家なんかの特訓を受けないといけないのよっ!!!」


その言葉に武良久は何のためらいも無く、美衣奈の顔面に拳を突きつけた。

顔に当たるか当たらないか寸前のところで止める。


美衣奈は一瞬の事で何が起こったのか分からないが目の前で武良久の拳が止まっているのを見て、安心と恐怖でガクッと腰を落とした。



「ちっ、格闘家を舐めんなよ。特別な武器が何もいらない、身体一つが自分の武器。今が実践だったらお前ら全滅だぞ。得意不得意があると思うが、拳で攻撃を一撃でも敵に食らわせれたら逃げる隙も作れる。実践には必要不可欠だ。だから格闘家の基本は全員学んでもらう。分かったか」


武良久は、初めて特訓の趣旨を説明してくれた。



なるほどね。

確かに、そういう場面は少なからずあると思う。

実践で戦っている最中に武器が壊れたとか、遠くまで飛んでいったとかで使えないときに必要になってくるだろう。


俺は初めて武良久をすごい人なんだと思った。

訳分からん横暴な女だと思っていたが、かなり先のこと・・・討伐師ハンターになった時のことを考えて教えてくれているのだ。



「分かったら、各自サンドバックの前に立て」



俺たちはそれぞれ一つのサンドバッグの前に立つ。


でかっ。

これはでかい。

サンドバッグを実際見るのは初めてだがこんに大きい物をボクシング選手は叩いているのか?!


「これは通常のサンドバッグの3倍の大きさだ。重量も3倍。そして特殊な魔法をこのサンドバッグには施してある」


スッと武良久は拳を握り、気を集中させた。

すると、武良久の拳が青白く光るのが見える。


「これが魔力だ。人によっては容量に差はあるがこれくらいなら誰にでも出来る量だ。この技はどの職業についても使えるから真剣にやれよ」


武良久はチラリと美衣奈を見た。

美衣奈はビクッと身体を強張らせ思いっきりうなずく。


黙っていれば美人なんだがな。この子も武良久も。


そう思っていると、バン!っと大きな音がした。


驚いて武良久を見るとサンドバッグが部屋の反対側にあった。

この部屋の距離はざっと50mはある。

普通のサンドバッグなら50mくらいなんとかなると思うかもしれないが、その3倍の大きさと重量だ。

想像がつかない。



「こんな風にサンドバッグが移動するまで特訓してもらう。ただし、魔力がこもった拳じゃないとどんな怪力で殴っても動かないようになっているから注意しろよ」



ニヤリと武良久は笑った。




俺は唖然としながら武良久の拳で向こうに一瞬にして移動したサンドバッグをしばらく見つめていた。






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