第三話 訓練
「戒斗!起きて」
「ん…」
シャっと1階の窓のカーテンが開かれ、眩しい太陽の光が差し込む。
「朝ご飯、食いっぱぐれるよ?」
モゾモゾと布団から手を伸ばし、目覚まし時計を見る。まだ朝の六時だ。
「…食堂は朝七時からって寮長が言ってなかった?」
そう言って、俺は寝返りをし、また眠りにつこうとする。
「誰だっけー?ここには何も知らずに入学したから色々教えろって言ったの」
はいはい。
俺だよ…俺ですよ、言いましたよ。紛れもなく。
俺はまだ昨日の疲れがとれてない重い身体を起こした。
「さ!早く!」
「え?!ちょっと待て!俺まだ寝間着…」
「みんなそうだから行こう」
よく見ると流衣も寝間着だった。
グイグイと流衣に勢い良く腕を引っ張られながら部屋を出る。
しかし、食堂は七時からってのに一時間前に行く必要あるのかね。
流衣君…
やっぱり君の情報は正しいよ。
俺たちが食堂に行くとすでに長蛇の列が出来ていた。
「なんじゃこりゃ!」
たかが食堂の朝ごはんにこんな列を作るか?!
何でも、流衣の話(もとい流衣の兄ちゃん情報)によるとこの学園には購買というものが無いらしい。食堂の食べ物が売り切れたらそれで終了。学園の方針らしく、何事にも早い者勝ち、弱肉強食の世界にしているようだ。学校生活くらい快適に過ごしたい気もするが、どうにもならないのだろう。
「だから言ったでしょ。今日から訓練始まるんだからしっかり食べておかないと!」
そうか…今日から訓練か。どんな訓練何だろうか。最初からハードな訓練じゃないだろうと思うが。
いくらあの鬼教師でも…。
はい。
俺が甘かったです。
「よっしゃ!いっちょ景気付けにお前ら死んでこいや」
何も武器も持たされず、何も聞かされずに大きな檻の中に俺たち10人が放り込まれる。
しかも、檻の中には魔物。
俺らと同じ数だけいる。大きさも俺ら人間と同じくらいの大きさ。
「ちょっと!何か武器とかくれないわけ?!」
シルバーのウェーブかかった髪の長い女が武良久に向かって叫ぶ。
「あ?武器があったら勝てるのか?」
武良久は女をチラリと見る。
「当たり前よ!この程度、西園寺家に伝わる剣技で楽勝よっ!」
西園寺家?
いかにも金持ちそうな名前だな。聞いたことないけど。
武良久は座ってた椅子から立ち上がり檻の外に置いてある武器の中から標準的な剣を選び女に向かって投げた。
器用に女はそれを受け取る。
手慣れてることは素人の俺が見ても分かった。
だって普通、剣をいきなり投げられて受け取れないだろう?手切れそうじゃん。俺ってこんなヘタレだっけ。
女の言葉をきっかけに次々に欲しい武器を言う者が出てきた。
おいおい!
なんでお前らそんなモノを使ったことがあるんだ?!
剣だったらまだ剣道とかフェイシングとかしてたのかなーとか思うけど、鎌とかハンマーとかどこの山奥から来たんだよ!
って他人を突っ込んでる場合じゃない!
俺はどーする?
空手とか剣道やったことはあるがこんな魔物を倒せる自信はないし、真剣をすぐ扱える自信もない!
焦る俺に関係なく魔物が目の前にくる。
「くそっ!」
大きく手を広げ、魔物は右手を振りかざしてくる。その攻撃を俺はなんとかかわす。
な、なんとかかわしたが・・・どうする。このままかわしてても倒せない。とりあえず使えるかわからないが、なにか武器を武良久から貰うか?
使える自信は無いが・・・
このまま何もやらなかったら命を落としかねない。
武良久は特に止めようとする気配もなく!椅子に座って足を組んで見ている。
「ぐあっ!」
迷っている俺の近くで、剣を持った男が魔物の攻撃を受けた。思いっきりお腹に怪我を受けたのか、血が檻の中に飛び散っていた。
その光景を見て俺の頭の中が真っ白になる。
なんだ…これ。
本当に、死ぬのか?俺の人生こんなところで終わるのか?
俺はハッと気がつき流衣を探す。
そういえば流衣は無事だろうか。
俺よりも戦いに向いていないあいつがこの魔物を倒せるとは思えない。
見てみると瑠衣は腹を裂かれた男の元に駆け寄っていた。
「だ、大丈夫?!」
瑠衣は焦りながら男の傷の上に手を当てながら何やらブツブツ言っている。
すると、瑠衣の手から光が溢れ男の傷は無くなっていた。
その状況は瑠衣自身も驚いているようだった。
「はっ…!」
流衣に気を取られていた俺は魔物が飛びかかってくることに気がつくのが遅れた。
くそっ!この距離じゃ攻撃を避けれない。
もうダメか!
そう思ったとき、急によくわからない言葉が頭にうかんできた。
なんだこれ。死ぬ瞬間って今までの思い出が走馬灯のように流れるって聞いたことあるけど違うんだな。あー!もう、なんの言葉かわかんねーけどこれにかけるしかない。
俺は頭に浮かんできた言葉を叫んだ。
「………」
武良久は今自分の目の前で起こったことに言葉を失っていた。
増田 戒斗と言う生徒が無謀にも自分の魔力を全放出してその場にいた魔物を全部倒したのだ。
他の生徒たちも何があったのか唖然としている。
まさかこの10人の中で僧侶と魔法使いが出るとはな。しかも、どちらも私が教える前に力を使うとは。
武良久は力を使い果たし倒れている戒斗と心配そうに介抱している瑠衣を見てニヤリと笑った。
「ん…っ…」
ゆっくり目を開けるとそこには心配そうに見ている瑠衣の顔があった。
「瑠衣…無事だったか?」
「何言ってんの!人の心配より自分の心配しなよ!」
「え?」
俺は身体を動かそうとしたが身体が動かない。
それに魔物に襲われそうになった後の記憶がない。なんで俺はどこのベッドで寝てるんだ?訓練はどうなった?
「まだ動くな。全然使ったことが無い魔力をいきなり使ったんだ。安静にしてろ」
近くの椅子に座っていた武良久が近寄って来た。
「あ、先生・・・何があったんですか?俺無我夢中で…途中で記憶が途切れちゃて」
そうだ。
何か訓練中に言葉が頭に浮かんできて…その言葉を言うと自分の身体が光ってれそれで意識が飛んだんだ。
「お前は自分の魔力を全放出したんだよ」
「……はい?」
全然理解が出来なかった。
魔力だって?
最近まで一般人だった俺が?
全くなんの経験の無い俺が?
「何かの間違えじゃ…」
「私を疑うのか?」
身体が動かず、角度的に武良久の顔が見えないが俺には分かる。
怒っている。そしてまた、殺人を起こしそうな顔をしている・・・と。
「いえ…そーいうわけじゃ。ただ何故そんなことがなんの経験もない俺に出来たのかなと」
「そんなん私が知るか」
うわー…
はっきり言いましたよ。
俺のこの一大事の原因を知らんの一言で片付けちゃったよ。
「まぁ、今回はそれぞれの適切な職業を見つけることが目的だったからな。思った以上の収穫はあったが」
武良久はまだ動けない俺の体をポンポンと軽く叩き、
「んじゃ、私ら教室戻るわ。しばらくしたら身体動くようになると思うからそうしたら戻って来いよ〜」
と、手をヒラヒラ振りながら瑠衣を連れて部屋を出て行った。
「なっ!」
あいつ!自分のせいで俺がこうなったとか考えねーのかよ。しかもここは…
どこなんだぁぁぁぁ~……………