前編
ども、好きな服のブランドはユニクロの環です。
8月中に投稿する予定だったと言うのに、9月になってしまい申し訳ありませんでした。
しかも、予想外に文字数が長くなってしまったため、前後編に分けてお送りしていきます。
それでは何卒、お付き合いよろしくお願いします。
暑さが最も仕事をする8月。それは、学生にとって優美な休日となる夏休み真っ只中のことだった。
外は今年最高気温の38度を記録して灼熱地獄となっている中、私こと須藤亜由美はクーラーの利いた自室でのんびりとマンガを読んでいた。
つい先程まで、夏休みの宿題と言う名の全国の学生の敵を相手に肉薄していたのだが、流石に4時間ものこの強敵たちと死闘を繰り広げるのにも力尽き、とうとうこの禁断の書に手を出してしまった訳である。
……イヤ、禁断の書と言っても普通の少女マンガだよ? 断じて美青年同士がイチャコラしてたりするあのBLBとかウ=ス異本とか呼ばれてる魔導書ではないからね? ……って誰に向かって言ってるんだか。
そして、そんな怠惰に塗れた至福タイムを満喫していると、ドアを叩く音が規則正しいテンポで2回鳴った。
「はーい、どうぞー」
ノックを鳴らした相手が誰なのか分かっているので、ドアの向こうにいるであろう相手に返事を返す。
「お邪魔するよ」
入室許可を受け取った兄が、そんな平坦な一言と共に、ドアが開く。
入口を一目すれば、そこには私と同じように真ん中分けにした黒髪に、どこか死んだ魚の目みたいな青年が立っている。彼こそが私の兄、須藤歩その人だ。
兄さんは基本、抑揚のない平坦な声で話すんだけど、アレでもかなりフレンドリーな方なんだそうだ。
淡々としていて素っ気なく感じてしまうかもしれないけど、実際優しいからそんなには気にしていない……と言うよりも、小学生の時点で慣れた。
「どうしたの?」
「海に行ってみない?」
「……ハイ?」
要件を聞くと、それだけが平坦な声に乗って簡潔に返ってきて、思わず間の抜けた声が私の口から洩れた。
えぇ~と……あのね、兄さん? 確かに物事はストレートに進んだ方が効率いいけど、いきなり結論部分だけ言われても何の事だか分からないからね? まぁこの人とは一番付き合いの長い妹である私だったら少しは分かるんだけどさ。
「なんでいきなり海?」
苦笑い気味に詳細を求めると、兄さんは頭をガリガリと掻き毟ってから、その経緯を応えた。
「実はね、ついさっき電話で正幸さんが今度の日曜日に海に一緒に行かないかって誘ってきたんだよ。友達も何人連れてきても良いから、一緒に行こうって言われてるんだけど、どう?」
なるほど、正幸さんからの御誘いだったのか。
正幸さんと言うのは、兄さんの友人の1人で、岸辺コーポレーションの御曹司の事である。まだ20代と言う若さで会社を取り締まり、部下からの信頼も厚いカリスマ社長さんだ。
しかも、どういう訳かそんな有名な人と兄さんは知り合いらしく、時たまこんな形で何かのイベントに招待してもらえる事があるのだ。一体どんな経緯で知り合ったんだか……。
しかし、只今絶賛暇を持て余していただけあって、この招待は魅力的だ。ここでNOと言う道理はないだろう。
「いいねそれ。だったら加奈と皐月も呼んでも良いかな?」
友達も連れてきて良いって言うんだったら、私の親友である同級生の二人も呼ぼう。こういうのは人数が多い方が楽しいしね。
「良いと思うよ?」
即座に二つ返事でアッサリと了承してくれた。もう少しボキャブラリーを増やそうとか思わないのかな兄さんは……。あ、そういえば……
「兄さんは誰か誘ったりするの? 好太郎さんとかヴァンさんとか」
「一応その二人も誘うつもりだよ。あと麗奈さんや駆さん達も誘おうかと思ってる」
兄さんは一見すると、暗くてあまり友好的ではなさそうに見えるけど、大学では結構色んな友人がいるらしく、下手したら私よりも友達の数が多いかもしれない。そのため、こういったイベントに誘う人脈には事足りない。
特に兄さんは私が挙げた二人とは非常に仲が良く、大学でもよく一緒にいる事が多いのだとか。
まぁ学年が一つと二つ違うんだけどね。普通に10以上も年上の駆さんも誘う辺り、ホント、歳とかあんまり気にしないよね。
そして、駆さんというのは西方探偵事務所と言う事務所を開いている探偵さんだ。
探偵と言っても、行く先々で殺人事件に遭遇してそれらの事件を華麗に解決……みたいな事には滅多にならず、主に不正取引調査や浮気調査みたいな調べ事が主流らしい。というよりも、本来探偵ってそういう地味な仕事なんだけど、某子供探偵マンガの人気の所為で、殺人事件の解決が主軸だと勘違いされやすいそうだ。私も小さい頃はてっきり、殺人事件に何時も巻き込まれるような仕事かと思ってたし……。
「じゃあ早速加奈たちに連絡してみるね。所で何時行く予定なの?」
一応細かい時間を聞いておく。今度の日曜日って言ってたけども、今日は土曜日だし、まさか明日ってことはないだろう。
……なんて、そんな淡い期待をフリーダム精神旺盛なこの人たちにするんじゃなかった。
「明日の朝9時に、岸部コーポレーション本部前に集合だって。ちなみに日帰りらしいから着替えは最小限で良いらしいよ」
……一瞬何言ってんのか分からなかった。でも、その言葉の意味を理解した時には、思わず叫んでしまっていた。
「はやっ!? いくらなんでも急ピッチすぎないっ!? それだと水着とか水着とか水着とかの準備ができないじゃないですか!」
「水着しか言ってないね……」
もっと何か言おうとしたんだけど、必要な物の第一候補しか思い浮かばず、つい水着を三連呼してしまった。これには流石の兄さんもツッコまざるを得ず、苦笑いを浮かべている。
なんで水着しか思い浮かばない訳!? あーもう私ったらハズカシイ……。多分だけど、私すっごく顔赤くなってるよこれ。
「でも必要な物は正幸さんが一通り準備してくれるらしいから、そんなに荷物はいらないみたいだよ」
しかし、そんな私を気にした様子もなく、兄さんは相も変らぬ平坦な声で応じる。まぁあの正幸さんの事だし、準備には怠らないだろうけど、まさか水着まで準備してくるとは……。
「じゃあ用事も済んだし、僕は好太郎君達にも連絡してくるね」
それだけ言うと、兄さんは私の返事も待たずに早々に部屋から出て行ってしまった。
「……もうちょっと、一緒にいてもよかったんだけどな」
兄さんが私の部屋に来ることなんて滅多にないし、ここらで一つ暇潰しに世間話で花を咲かせてもよかったんだけど、その辺りは気が利かないらしい。
まぁあの人にそんな期待をする方が可笑しいし、私も早速、加奈たちに連絡を取るため、兄さんのケータイと同じ藍色をした自分のケータイを手に取った。
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そして翌日、正幸さんの用意したバスに乗って約3時間。奇妙な知り合いたちで構成されたメンバーは海に到着した。
青い空と青い海が広がり、大きな入道雲と足元の砂浜がこの景色の引き立て役を担ってくれている。
「着いた、海だー!」
バスから一番乗りに降りた私は、何処までも続く水平線に向かって高らかな声で宣言した。
私の大声に、先客である他の海を満喫している人たちが奇異な目を一瞬だけ視界に入れてくるけど、そんなの気にしない。
私達の住んでいる町だと、海を見る事なんて滅多にないもんだから、これくらいのハメ外しくらい問題ないよね。
「良い所ですね」
「まぁね。どう? 夏にはもってこいの場所でしょ」
後ろを向けば、兄さんが焦げ茶色の髪の男の人と談笑しているのが目に入った。彼こそが今回のイベントの招待人であり、岸辺コーポレーションの御曹司、岸辺正幸さんだ。
童顔の所為で実年齢より幼げ……というよりも子供っぽく見え、この人が一大企業の社長なんて想像もつかない。でも、仕事の腕は確からしく、殆どの業務を秘書の手伝いはあれどこなしているのだそうだ。
「おーい、荷物降ろすの手伝えや正幸。こちとら人手が足りへんねんで」
その様子に文句を着けつつ、パンクな恰好をしたエセ関西弁の狐っぽい顔の男の人が、耳に当てたヘッドホンから流れるロックな曲を聞きながら、荷物を黙々と出している長髪の髪を後ろで縛った、不愛想な顔をした男の人を指差している。
「オイ、お前も手伝えよ!」
……いや、黙々でもなかったね。でもホントに手伝ってあげたらどう? 結構な人数で来ちゃったからすごい量だよ?
おっと、紹介が遅れちゃったけど、あのパンクな恰好をした人は、三木章治さん。
正幸さんの会社の技術顧問兼第二秘書っていう随分と長い名前の役職をしてるんだけど、役職とは180度正反対の恰好をいつもしている。でも開発や企画設定の腕は確からしくって、とてもそうは見えないけど、兄さんからよく「人を見かけで判断しちゃいけない」って教えてもらってるし、その言葉を顕現したのがこの人なんだろうなぁ。
そして、さっき鋭いツッコミを入れた長髪の人が、兄さんの後輩の皆葉好太郎さんだ。
何時もキツそうな眼をしているから近寄り難い印象を受けるけど、実際に話してみればただ単純に人付き合いが苦手なだけで、本当は良い人なんだよね。この間の期末試験の時にも、兄さんと一緒に勉強教えてくれたくらいだし。ちなみに兄さんが理系担当で、好太郎さんが文系担当ね。
え、両手に花? イヤイヤそんなことないって。そもそも花って、女性の比喩表現な訳だし。しかも二人セットになると何故か押し黙ったまますっごいプレッシャーが掛かってくるし。何だったのアレ?
「あの、私もお手伝いしましょうか?」
「ム? そうか、じゃあ悪いが……」
「いえ、こう言う仕事は男にやらせればいいのですよ。私達は先に着替えておきましょう」
「なっ!?」
好太郎さんに救いの手を差し伸べるかのごとく、来栖麗奈さんが荷物を下ろすのに馳せ参じようとするも、そこへ彼女とは正反対のクールな印象を受ける、犬飼美玖さんがここで女の特権を使い、麗奈さんを連れて更衣場へと向かってしまった。
麗奈さんは私と加奈と皐月の通ってる高校に、今年新しく赴任してきた教師だ。
優しい物腰とモデル並みの容貌、そして新米故の初々しさが男子生徒にかなり人気の、もはや学内のアイドルである。
そして、美玖さんは章治さんと同じく、正幸さんの人をしている人で、生粋のビジネスウーマンだ。
社内でもその見事な容姿から、美玖さんと負けず劣らず人気が高く、一時は正幸さんと交際していたそうだが、今では章治さんと付き合ってるんだとか。一体どうしたらそうなったんだか……。
「なんだこの、上ったところを思いっきり叩き落されたような気分は……」
「まぁ今のは美玖さんの言い分が正しいと思うし、俺達だけでやろうぜ」
しょぼくれる好太郎さんの横に付いた色白の好青年が、そう言いながら荷物降ろしの手伝いを始めた。
あの人は式原祐司さん。バスに乗る前の自己紹介で初めて知ったんだけど、麗奈さんの彼氏だそうだ。
しかも好太郎さんのバイトしている店のお孫さんらしく、何時も手伝いをしていることから面識があるみたいだ。えーと、なんて言ったっけ? 確か、式原レーシング……だったかなぁ? バイクを取り扱ってたから多分そんな感じの名前。
「にしても珍しいよな、好太郎がこんなイベントに付いてくるってよ」
「あ、それは私も思った。亜由美、一体どうやって誘ったの?」
私の横に並んだ親友の2人、多々井皐月と藤原加奈が、好太郎さんが来た事に疑問を感じて私に訊ねてきた。
確かに、言われてみればそうだ。好太郎さんはあまりこう言った群れる事は好きではない筈なのに、兄さんに誘われただけで付いてくると言うのはおかしい。
「ああ、それはね……バーベキューもやるよって言ったらすんなり了承してくれたよ。最近あまり良い物食べてなかったみたいだったから、この方法なら来るかと思ってね」
「っておま! 何時の間に!?」
「兄さん、気配を消して近づくのやめて。心臓に悪い……」
「と言うか、そんな理由で付いてきてたのね、好太郎さん……」
何時の間にやら私たちのすぐ近くまで移動してきていた兄さんが、好太郎さんとの交渉裏話を暴露してきた。でもせめて普通に登場してよ。皐月ビックリしてんじゃん。
そう言えば好太郎さんって一人暮らしな上に、親からの仕送りも最小限なんだっけ。そうとなれば食べれる物も限られてくるし、久々に上質な肉(正幸さんが主催の上でコレ確定)にありつけるとなれば、たとえ火の中水の中であろうが簡単に釣れる。この辺はある意味肉食系男子だ。
「あ、それとコレ、3人の荷物。先に着替えて良いよ」
そう言いながら兄さんは担いでいた私達3人分の荷物をそれぞれに受け渡し、「僕達も後から着替えてくるからさ」と付け加えてそそくさと好太郎さん達の元へと向かった。
「意外と気が利くな、亜由美の兄貴」
「ん~そうかな? いつもあんな感じだけど……」
皐月はああいうけど、何時も一緒にいるせいか、私としてはあんまり実感ないんだよねぇ~。なんというか、こう……些細なことすぎてなかなか気付けないというか。
「あーはいはい。ノロケ話は置いといて、さっさと着替えに行くわよ」
「イエッサー」
「ちょっ、いつ私がノロケましたか!?」
加奈が手を叩いて仕切るも、今の一言は納得いかない。別に彼氏とかじゃないですから!
そう続けようとしたものの、既に二人は駆け出している最中。あぁちょっ、待ってー!
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その後、水着に着替え終えた女性陣は、バスの近くで屯している男性陣と合流した。
「おお、来たな女性陣。みんな似合ってるぞー」
私達の姿を確認して第一声を放ったのは、この中では最年長である西方駆さんだ。
黒地の紫がかった水彩的な模様が浮かんだ海パンだけを身に付けており、30代とは思えぬ引き締まった上半身をみんなの前に晒している。探偵って、そんなに身体動かすもんなの?
そんな事を考えていると、加奈が私の横をすり抜けて駆さんに近寄った。そして……
「ていっ」
「いだっ!?」
デコピンしたー!? え、なんで!? する理由が見当たらないんですけど!?
「何しやがる楓!」
……え?
「うっさい、なぁにナンパ紛いなことしてんのよ」
「意外とヤキモチ妬くわね、姉さんって」
「妬いてなんかいないわよ!」
……改めて声のした私の横を見ると、そこにはもう一人加奈がいた。と、言う事はあっちは楓さんの方か……全然分かんなかった。
西方楓。その苗字の通り、駆さんの奥さんだ。加奈のお姉さんなのだが、10も年上だと言うのにこれがまた双子と見紛うほどにそっくりなのだ。
一応加奈がツインテールにしてるから見分けが付くんだけど、今みたいに髪を下ろされると、どっちがどっちだか分かんなくなる。
しかも趣味も同じなのか、同じ柄の水着を着ているから余計に混乱する。
2人とも薄緑色で、どことなく風をイメージさせた流線が描かれた水着だ。まぁ良く見てみれば楓さんの水着はサイズが小さい……と言うよりも露出が多い気がする。着替えてる時もこの話題で「水着が小さい方が楓さん」って結論が出てきたけど、単独でいれば見分けの付けようがないから判別が困難になるね。
「せやでオッサン、嫁はんもおるのにナンパするからや。あ、美玖もうちょいこっち来て。写真撮ったるさかいうぇっへっへ」
「お前が一番自重しろ! 別に撮らなくって良い!」
章治さん、あなたも人の事言えませんよ? いくら彼氏だからって、デジカメ持って下心丸見えな顔されてちゃ、流石の美玖さんも引いちゃうって。
と言うか美玖さん、その胸を隠すポーズ、正直エロいです。黒地に赤いラインが入ったビキニで申し訳程度に抑えている豊満な胸を両腕で寄せ上げてるみたいになってるから、ただでさえ大きな胸がより強調されてます。
「おお~ええでええで! その恥ずかしそうな顔とグラマーボディ、堪らんわぁ~!」
「ねぇ章治、その写真、後で俺にも送って?」
ほら、章治さんどころか正幸さんにまで逆効果じゃん。
実はこの3人、大学時代からの仲らしく、当初は美玖さんと正幸さんが付き合っていたそうだ。
しかしその後、何があったのかよく分からないが、どう言う訳か章治さんと付き合う事になったのだとか。
もしかして略奪愛? みたいな事を考えたけど、正幸さんは気にした様子はちっともなくて、「美玖さえよければそれでいいや」なんて考えてるんだってさ。大人の恋愛事情って、なんだか複雑……。
美玖さんにも直接訊いた事があるんだけど、「お子様にはまだ早い!」って真っ赤な顔で言われて、未だに謎なままなんだよね。
アレ? そう言えばだれか足りないような……
「ねぇ、誰か足りなくない?」
「ム? そうい言われてみれば、数が合わないな……」
私の呟きを聞き取った好太郎さんが、周囲を見渡す。
全員いる筈だと思うけど、一体誰が足りないんだろう? 私でしょ? そして兄さんに加奈&皐月。
好太郎さんと祐司さんと麗奈さんに、正幸さん美玖さん章治さん。
西方夫婦もいるし、あともう一人……あっ!
「ヴァンさんがいない!」
「そうだ! アイツだけいないんだ!」
祐司さんもその事に気が付いたようで、辺りを見回す。何時からいなかったっけ? 記憶を遡ってみる。
え~と、バスに乗る時にはいたよね? 乗った直後にバスのなかで寝始めて、高速道路のサービスエリアに着いた時にもずっとバスの中で寝てたはずだ。
そして、バスから降りて以降、彼の姿を誰も見ていない。と、言う事はまさか……
「今見てきたんだけど、やっぱりバスの中で寝てたよ」
「「やっぱりかぁぁぁぁぁ!!」」
何時の間にやらバスの中の様子を見てきていた兄さんの情報に、好太郎さんと祐司さんがほぼ同時に叫んだ。同じ場所でバイトしているだけあって、息ピッタリだね。
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「ファァ~……ねっみぃ~」
その後、すぐに好太郎さんが代表してヴァンさんを叩き起こし、当の本人は長い金色の前髪下に隠れる眠たそう目で、間延びした声を漏らした。今は水着を着ることを強いらげられ、光沢のある翡翠色のスイムウェア姿になっている。
この人はヴァン・アキサメって言って、兄さんより二つ年下の大学一年。いつも眠そうにしていて、その気になれば自転車を漕ぎながらでも寝れるらしい。(本人談)
アメリカ人とのハーフの所為か、露出された祐司さんより白い肌がヤケに目立つ。
「お前、一体何しに来たんだよ……」
「んぁ~?」
「いや『んぁ~?』じゃなくて、お前ホントに何しに来たんだよ!?」
好太郎さんの言葉を聞き取れた様子もなく、眠たげな唸り声をあげながら頭をあっちこっちに振っている。この人、ちゃんと起きてるところ見たことないんだけど……。
「ま、まぁ全員そろった事ですし、ここから先は自由行動でよろしいのでは?」
今のまま放置しておくと全然話が進まないと察したためか、麗奈さんが提案を持ち出してきた。
ウン、私もそれは思い付いた。そして何より、折角の海なんだから楽しまなくちゃね。
「良いんじゃないかな? とりあえず俺はビーチバレーでもやってみようかと思うんだけど、誰かやってみたいひとー」
「あ、それウチも入るわ。美玖ももちろん入るやろ?」
「え? いや、勝手に決め……」
「はい、じゃあ美玖も参加~」
「ちょっ!?」
正幸さんがビーチバレー参加者を集おうと挙手すると、それに便乗して正幸さんも挙手。更に美玖さんも強制参加させられてるけど、何故に?
「俺は海で泳いどくかな。ついでにヴァンの眠気も取っておきたいし」
「えぇ~ダリィ~メンドイ~働きたくないでゴザ~ル」
祐司さんがヴァンさんを海へと連行しようとするけど、当の本人はすっごくイヤそうだ。と言うか最後、ボケだと分かっててもそれは問題発言!
「だったら俺も同行しよう。今ここで、コイツに引導を渡すのも悪くないしな」
好太郎さん、顔は無表情なのに目が笑ってます……。普通逆のはずなのに、むしろそれが怖いです。
「あ、そうだ。アタシ、スイカ持ってきたぜ。一緒にスイカ割りでもしねぇか?」
「良いわねそれ。麗奈先生も一緒にどうですか?」
「あ、いえ……私、そういうのは少し苦手で……」
「う~ん、私もパスで。観ている方が面白いからさ」
皐月がスイカを持ってきていたようで、加奈と私にスイカ割りを持ち出すけど、私はゲームをやって楽しむよりも、人がやっているのを観て楽しむ方だから遠慮しておこう。
それは麗奈さんも同じみたいで、申し訳なさそうにお断りしている。そういえば麗奈さんがスポーツとかしているところ、あんまり見たことないなぁ……。運動音痴だったりとかするのかな?
え、私? ……私は普通です。誰が何と言おうとも普通の運動力ですよ?
決して小学生の頃に逆上がりが何度やっても出来なくて結局あきらめたとか、そんなことはありませんよ? ホントだよ?
「う~ん、じゃあ僕はバーベキューの準備をしてくるよ」
「俺はしばらく見回っておくぜ」
「駆がそうするんなら、私もそうしようかしら。バーベキューがある訳だから集合するのは12時くらいで良いわね?」
兄さんの行動指針に追従する形で、西方夫妻もそこら中を歩いてみることに。
「それで良いと思うよ? じゃ、みんな解散ッ!」
一通り誰がどう行動するかの方針が決まり、正幸さんの号令とともにみんな和気藹々(わきあいあい)としながらこの場から離れて言った。
さぁて、まずは皐月達のスイカ割りでも観てみよっか。