永遠
そして僕と君の関係は
変化を告げる
冷たい空気が吹く。
たった二ヶ月で外の風景はがらりと変わる。紅葉が美しかった木々は枝だけを残して寂しく立ち、あれだけ明るかった太陽も心なしか元気がない。暖かかった風も身体を冷やす冷たいものに。
季節は冬を示している。
ちらりと授業中に窓の外を見やるとそこには千歳の姿。ぼーと体操着姿の同級生を見つめている。
やっぱり体育は見学だよな。と確認する。高校に入ってすぐに入院してしまった千歳はなんとか親と医師に許可をもらい、学校に登校してきた。
「まさか…俺のため?」
まさかな。と苦笑して黒板の方へ向き直る。並べられた文字はこれからどのくらい役に立つものなのか。
漢文、古文、現代文、足算、引算、関数、世界史、日本史、公民、生物、物理、化学…。
やりたいのかも使うのかもわからないものをただただ無心に学ぶ。増えていくのは書き溜めしたノートと印象に残った知識。
「どれもピンとこないんだよな」
勉強をしても、進路を考えても、どれもピンとこない。それはどれにも興味が起きていないから。授業とは別のことを頭に浮かべて、誰にも聞こえない声を出した。
「あと、二日」
登下校を一緒にするようになった二人は今日も一緒に下校する。千歳が入院している病院に向かって。
「勉強追いついてるか?」
「うーん…微妙かなぁ。でも、赤点にはならないくらいにはできるよ!」
病院まで行ったらそこで別れず二人はそのまま屋上に行く。どちらも部活はやっていないため、まだ時間に余裕はあった。まだ四時くらいだと言うのに陽は沈みかけている。
「友達できたのか?」
「見くびらないでよ!勇也と違って私は愛想がいいんですぅ!」
「うっわ!めっちゃ憎たらしいなぁ」
上手くいっている。それが自分のことのように嬉しかった。彼女が学校に来て、自分の話して、友達と遊んで、授業に出て、普通の暮らしが少しでもできている。
それは勇也も味わったことのあるからわかった。本当にとても嬉しいこと。
「二日後…」
「え?」
「楽しみにしてろよ。お前に負けないくらいのプレゼントやるよ!」
鞄を担いで、言い捨てた。
彼女の顔を最後まで見ずに。
そしてその日
「勇也!いつになったらくれるの!」
「屋上行ったらだよ!」
「もぉ!勿体ぶらないでよ!」
待ち切れないという様子で急かす千歳の頬を撫でて、微笑する。思いがけない行動に千歳は口を止めた。
「一番の場所で一番のプレゼントを…やりたいだろ?」
「…………うん」
珍しく今日は勇也が千歳より一枚上手だ。握られた手は温かさを感じて、千歳の顔がほんのりと赤く染まる。そんなことに何も気付かない勇也はせっせと屋上に向かった。
既に陽は半分ほど沈んでいる。冷たい風を感じて、勇也は自分のコートを彼女に羽織らせた。
「まさかこれが…?」
「んなわけねーだろ!」
「だよね!あー、びっくりしたぁ!」
突拍子もない彼女の言葉に呆れながらも屋上の中心に歩む。白い床は足音を奏でて、白い建物は今日は舞台。高鳴る心臓は何故か心地好い。
「お前に関係をプレゼントだ」
「関係…………?」
くるりと身体をひるがえして彼女を見つめる。きょとんとした顔はとても可愛くて。
「永遠の関係を…。どっちがいい?親友と恋人」
それはどちらでもいいということ。
永遠の関係。
変わることのない。
永遠の絆。
「俺は…どっちでもいい」
初めて見た。彼女が顔を赤く染めるのを。勇也は何か言うまでじっと待った。
彼女は少し迷い、今までで一番可愛い笑顔を勇也に向けて…。
「なら、私は永遠の恋人がいい!」
友達でも親友でも恋人でもない
二人の関係
細い彼女の身体を優しく抱き締めて、勇也は同じくらい顔を赤くして呟いた。
「受け取ったか?愛しいを」
「な、聞こえてたの!」
「俺の耳なめんなよ!」
苦笑にも似た顔で千歳は頷いた。
「うん!本当に一番嬉しいプレゼントをもらったよ!」
「なら、よかった!」
そして二人はその日、陽が完全に沈むまで抱き合っていた。
翌日、朝の時間に二人はいつも通り話していた。
「千歳ちゃん!おはよう!」
「おはようございます」
「今日も元気だね!時には俺達と話そうよ!」
軽いノリに千歳は愛想笑いして、流した。勇也も苦笑してその男子を手で制止した。
「言い忘れたけど、俺ら付き合いだしたから」
「えー!」
「だからもう構うなよ!」
「え?でも、ここの人勇也みたいに楽しいから構ってもらって嬉しいよ」
「お前なぁ」
付き合っても変わらない二人。だからこそ永遠を約束できる。
僕らは互いを求めて
永遠を誓った
第六話です。やっと付き合いました。長かったですねぇ。これから少し暗い話になります。一応中間地点くらいにきたのかな?できる限り読みやすく書いていきたいと思います。
最後までお付き合いして下さったら光栄です。
三亜野雪子