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番外編 愛しい





望みを叶えてくれたのも


温もりをくれたのも


貴方だった






「ねぇねぇ、三島さんは清水先輩とどういう関係なの?」



学校に通ってからすぐに聞かれたのはこれだった。毎日一緒に登校して下校していれば簡単に予想できる状況だ。内心でうざったく感じながらも懸命に笑顔を作る。



「ただの病院仲間」



ずきん



自分で言って胸が痛む。息が止まりそうになりながらも隣りにいる女子を一瞥する。

えーとか、うっそだぁーとか訳のわからない言葉を述べている。登校し始めてから自称親友の子達はごめんと言いながらまた千歳に近づいてきた。



「病院仲間であんなに仲良くならないよ!本当は恋人じゃないのぉ?」



そんな風に思うくらいなら、最初からそれ前提で聞いて来てよ。



「違うよ。だってどっちも告白なんかしてないもん」


「えー!勿体ないよ!早く告っちゃいな」



人の気持ちも知らないで……勝手なこと言わないでよ!



学校、それは千歳にとって勇也に会うための機会で、クラスメイトと馴れ合うためではなかった。久々にきたのもあってクラスの人達は彼女を放っておいてはくれなかった。よく二年の教室に顔を見せるのも見られて、女子達はよく勇也関係の話を持ち出して来る。



付き合うなんて、そんなことできるわけがない。



そう、その時は思っていた。彼女は心から誓っていた。

けれど、その日思いがけないことが起こる。






ご飯を運んでいた箸を止めて、千歳は思わず顔を赤くする。二年前のあの時のことを思い出して、自分の行動に恥ずかしくなったのだ。



そうだ、どうしてあの時あんなこと言っちゃったんだろう



「やぁね、ご飯食べながら赤くなるなんて」


「え?あ、へ?」


「どうせ、昨夜のことでも思い出してたんでしょ?」



母親にそう言われて更に顔を赤くする。すっかり忘れていた内容を掘り返されてしまったからだ。見れば隣りにいる勇也はむせていた。せっかく何も言わずにいた母親は千歳の反応に口を出せずにはいられなくなったのだ。



「お母さん!勇也がびっくりしてるじゃない!」


「お母さんだってびっくりよ。朝にあんな光景見ちゃって」


「あ、あれは!」


「でも、嬉しいわぁ。やっと千歳が女になったのね。赤ちゃんが楽しみね」



予感的中。やはり千歳の母親は子供を要求してきた。だが、それは無謀な願いだと誰もが思う。勇也はまだ大学生で、千歳も高校生なのだから。



「まだ数年先のことでしょ。焦らないでよ。こんな状態で子供なんか産んだら、その子が可哀相だよ」


「全く、あんたはまだ若いのにどうしてそう先のことを想定して行動するかねぇ。もう少し我がままになってもいいのに」



そう、あの時も諦めてた。


どうせ、私は死んでしまうのだからと。







「お前の誕生日っていつだ?」


「あ、何々?何かくれんの?私はね、今から二週間後かな?」


「近いなぁ。何が欲しい?」



千歳の頭の中には欲しいものは一つだけ。だけど、それは求めてはいけない。そう彼女はわかっているつもりだった。しかし、自分の意志とは関係なく口が動いていた。






「愛しいを…」






欲しかった。誰よりも、何よりも勇也が欲しいと思っていた。けれどそれを口に出してはいけないと、願ってはいけないと思っていた。自分は死んでしまう。もし勇也が千歳と一緒にいることを選んでくれても、千歳は彼を残して逝かなければならない。そんな残酷なことできないから、と。

小さく呟いたものだから何とか誤魔化そうとすぐに笑顔になる。勇也とわかれて自分の自室に戻った時、彼女は思わず泣いた。



「どうして、こんなに苦しいんだろう?」



毎日彼と顔を合わせているのに


どうして?



恋がどういったものなのか知らない彼女はどうしようもない苦しみを味わった。

自分の誕生日がきて、もし彼が本当に愛しいをプレゼントしてくれてもそれは断わるしかない。受け取ってはいけない。






でも、結局自分の願望には敵わなかったんだよねぇ。



自分の不甲斐なさに溜め息をついた。心に固く誓っても、目の前にその餌をばら撒かれたら犬よりも脆くそれに飛びついてしまう。結局、あの愛しいも聞かれていて、しかも彼は彼女にそれをプレゼントしてくれた。だから、思わず受け取ってしまった。その気持ちを。



付き合って、デートして、キスして、本当嬉しかったのに………。


あれだけ踏み出してきた人に内緒のままではいられなかった






「勇也君、いい子ね」


「え?」


「あんなに親身になってくれる子が千歳の傍にいてくれてよかった」



母親が赤くなった瞳を千歳に向けて、彼女を抱き寄せてきた。先天性心臓病、そう聞いても勇也は嫌な顔など一つもしなかった。普通彼女がそんな病気になっているとしったら絶望して泣き叫ぶか、嫌になって別れるか、その二つだけだと思っていた。ドラマなように一緒に乗り越えてくれる人なんていないと思った。



「ごめんね。いつも傍にいることができなくて」


「お母さん仕事でしょ。気にしてない」


「だけど、淋しかったでしょう?いつも一人で、いつも孤独で。いつくるかわからない発作に怯えて昼も夜もこの部屋で一人っきりで」


「───────────────っ!!」



久しぶりに感じた母親の温もりに目頭が熱くなる。ぽたぽたと涙を落として、胸に頭を擦り寄せた。

優しく撫でられる背中が心地好くて、千歳は微笑する。病気の不安が消えるわけではないが、心配されている、大事に思われている。その事実が嬉しくて、安心する。



「本当、よく千歳のことわかっているのね。彼」


「え?」


「話をしてあげてって彼に言われたの。貴方がそれを望んでいるからって」



知らない所でも


私は勇也に支えられている。






「ねぇ、勇也。いつからそんなに私のこと理解するようになった?」


「はぁ?俺今でも千歳のこと理解してないと思ってるんだけど」



返ってきた答えは意外なもので、千歳は未だに顔の赤い勇也をまじまじと見つめた。



「だって、お前ころころ性格変わるんだもん」


「どこが?」


「人のことからかって遊んだり、いきなり可愛くなったり、素直になったり、泣いたり、キレたり、見ててあきない」


「そ、そんな変わってないよ!勇也の気のせいじゃない?」


「まさか!ずっと見てるんだぞ?」


「ずっとって、たった二年じゃない!」


「おー。そうだ。たった二年だ。じゃぁ、もっと時間をかけて全部見てやる!」



売り言葉に買い言葉。なのだろうが、千歳は顔を赤くする。永遠を誓った仲だとしても、一夜を共にした仲であっても、照れるものは照れるのだ、と自分に言い聞かせる。






二年前から貴方は


ずっと私を見てくれていたんだよね?







番外編三話目です。えっと、そんなに暗い話にならなかったので一安心しています。次はやっと最後の話です。一気に話は飛んで手術前にまでいきます。そして手術。明日にでも書けるといいなぁ。

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