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番外編 会いたい






初めて


一緒にいたい人と出逢った






ひどい


勇也にとってあそこは他の人が来ても何とも思わないんだ



勇也が千歳の見舞いに来始めて、彼が屋上に他の女生徒を連れて来た日のこと。千歳は自分の病室に入り、その場に崩れた。自分でもわからないくらい心が痛かった。頬に温かい滴がこぼれ落ちる。

発作の痛みにも泣かない彼女が、勇也のその行動にだけに涙した。



「どうしよう」



彼ともっと一緒にいたい



自分から逃げて来たというのにすぐに彼に会いたくなる。今まで一人になりたいと、誰とも会いたくないと思ってきたのに、何故ここまで勇也を求めてしまうのか。

次の日も、その次の日も勇也が屋上に来ていたことを千歳は知っていた。けれど出て行くことはできなくて、顔を出すことができなくて、その度に彼女自身も胸を締めつけられたいた。



あぁ、やっぱり私


勇也が好きなんだ



この時初めて自覚をした。友達も恋人も本物だと思える存在なんて誰もいなくて、いつもどこか孤独だった。けれど、あの屋上に足を踏み入れてから、勇也と出逢ってからその孤独さがなくなった。話ができなくても彼の顔を見ただけで一日を乗り越えられる気がするほどだった。

だけどその気持ちを伝えることはおそらくないだろう。自分はいつ消えてしまうかわからない存在だから。



どくん



心臓が揺れる。いつか、そんな風に自分で思うほど淋しさで息が詰まった。もうすぐ勇也の誕生日。千歳は彼にびっくりをプレゼントすると言った。けれどまだそれをするには準備が足りない。



明日、お母さんが来る。

話をしなきゃ。



目を閉じればそこには鮮明に浮かび上がる彼の笑顔。冷たくなった身体はほんのりと熱をおびる。

長いまつげは微かに震えてじわりと湿っていく。



どうして

勇也と出逢ってしまったんだろうか



神という存在を信じるわけではないが、彼に出逢ったことが偶然とは思えない。感謝すべき出逢いに彼女は逆に辛さを覚える。彼に会わなければ、恋をしなければ、ここまで病気について臆病になることはなかったのにと。勇也のあの笑顔も、あの温かさも知らずに済んだのに。



「好き」



届くことがない気持ちを小さく呟いて彼女はその場に泣き崩れた。






「千歳?」


「へっ?」



いきなり勇也の顔がアップで目に映って彼女は驚く。二年前とは顔つきが全く違う彼は、それでもやっぱり優しそうな表情を彼女に向けている。二年前と変わらない、二年前と違う笑顔。

千歳は微笑んで、首を振る。



「ごめんごめん、何でもないよ」


「もぅ、千歳も考えてくれよ」


「まだお母さんと会う時のこと考えてるの?どうせ同じ家なんだから考えても無駄だよ」



すっぱりと言われて彼は確かにと頷く。けれどやはり部屋から出る勇気が持てない。

二年前では想像もできなかったこんな幸せな日々。こんな日を考えることができるのでさえ、ありえないと思っていた。だけど、彼はそれを簡単に彼女にやらせた。

誕生日プレゼントとして勇也が彼女に『愛しい』をプレゼントしてから。



「ねぇ、勇也。愛しいはまだ健在だよね?」


「あ?何言ってるんだ?まだとかもっととかじゃないだろ?」



勇也は千歳の肩を抱き寄せて、耳元で囁く。






愛しいは


永遠に






「お母さん、私学校に行きたい」



病院に入ってからしばらくはそんなことを口にしていたのを彼女は覚えている。買って来た花を花瓶に飾っていた母親は久々に聞くその言葉に手を止めた。驚愕で彼女の顔も見れなかった。

夏が過ぎるところくらいから彼女はそんなことを言わなくなった。学校、それは彼女が求める場所ではないと気付いたからだ。偽りの関係、偽りの感情、偽りの想い、それらが渦巻く所に行きたいと思えなくなってしまった。



「な、にいってるの?駄目に決まってるじゃない!少しでも安静にしていないと」


「少しでも生き延びられるために何もしないでこんな所に閉じ籠もっているよりも、私は私のしたいことをやる!私のことを思うのならもっとたくさんの思い出を作らせてよ!」



恋という気持ちを持っても彼女の心に余裕というものはなくて、感情を偽ることもできなかった。千歳は残酷なほど嫌味な笑顔を母親に向けて、低い声音で呟いた。



「死ぬ前に、やっておきたいことがあるの。やらせてくれるよね?」



全てが彼女にとってもどかしいものだった。心臓病、そんなもののために生活を制限されて、一人で外を羨ましそうに眺める。それなら、リスクを負ってでもやりたいことをやりたい。

けれど、思っても本当に実行するには勇気が必要だった。母親とはまた違う意味で千歳も外に出るのは怖かった。病室でも孤独だった自分が外に出て誰かと笑っていられるのか、と。

勇也、勇也、勇也。

そう頭の中で思い浮かべる度にそんな不安は彼女の中から姿を消した。彼女はまだパリっとしたシャツを着て、懐しい学校への道のりを歩く。



会いたい


会いたい


早く貴方に会いたい



足は次第に早くなって、いつの間にか学校に到着していた。まだ学校に入っていないことを祈って、千歳は門で勇也を待つ。

しばらくして彼の顔を見つけた時、広がる熱を感じた。






千歳は思い出し笑いを浮かべて部屋の扉に手をかけた。案の定それを慌てて勇也が止める。何をそこまで気にすることがあるのだろうか、と彼女は半目にして溜め息をついた。



「ほら、さっさと覚悟を決める!」


「だ、だって千歳!」



有無を言わさずに彼女は扉を放った。スタスタと歩く彼女の後を仕方なく勇也もついて行く。

男が後ろに隠れている姿は、何とも情ないものだが、理由が理由なだけに千歳は思わず噴き出してしまう。



「ねぇ、勇也。あの屋上覚えてる?」


「あぁ。もちろん」


「…………………………私との出逢いをどう思った?」



怖くて聞けなかったそれを懸命に言葉にした。勇也は微かに震える小さな背中を抱き締める。

伝わってくる温もりに千歳はほっと身体に入っていた力を抜いた。



「感謝してるよ。あの出逢いに、君の病気にも」



聞きたかったその言葉。千歳は嬉しそうに笑って、涙した。






あの出逢いに


あの病気に


今は感謝できる


それは手に入れた


幸せが存在するから







番外編二話目です。やっぱりあと二話ほど書くと思います。次は何ですかねぇ、付き合うところかな?付き合って彼女が自分の病気について語るところを書きたいと思います。ほとんどが孤独の時間を書いていくので、暗いですが頑張って読んで下さい。

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