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番外編 一目惚れ?






いつでも


貴方が傍にいる






扉がかすかに閉まる気配で目を覚ました。寒い、温もりを探して手を延ばす。ふと、心地好い暖かさを持つものに身体を引き寄せられた。ほっと安心して、再び眠りにつこうとする。が、彼女の目は逆に冴えてしまった。

目の前には引き締まった胸、安心する温もりを持っていたのは勇也の身体だった。



そうだ、昨日…………



昨夜のことを思い出し、思わず顔を赤くする。穏やかに眠りにつく彼の顔を嬉しそうに眺めて、彼女は抱き締めた。触れている所が熱く感じた。けれど、それも心地好くて。



勇也は気付いてないんだろうな


私がどれだけ救われていたか



千歳は二年前のことを思い浮かべる。まだ、勇也に出逢う前。支えがなくて、不安で仕方なかったあの孤独な時間のことを。






あの病室からいつも、空を眺めていた。流れていく雲は妙に早く感じて、目を細める。母親が隣で花瓶の水を変えていた。



「何か欲しいものがあったら言ってね。あ、今度千歳が好きな食べ物を」


「もぅ、いいよ!ご機嫌取りなんかしないでよ!」



何もかもに苛つきを見せた。個室の病室にいても医師や看護士、母親が機嫌を伺いに、具合を伺いにやってくる。

まるで、彼女がすぐに死ぬような扱い。



もう、うんざり



本当に一人になれる場所を探した。外も中も、それらしき所はどこにもなかった。諦めかけていたその時、彼女の視界に上に上がる階段を見つける。思わずそれを上っていけば、そこは屋上と繋がっていた。

期待に胸を膨らませた彼女の顔はすぐに暗くなる。見れば既に誰かいる。



やっと見つけたと思ったのに



肩を落として、帰ろうと扉に手をかける。だけど、すぐに顔は先客の者に向き直る。

千歳はあの顔を知っていた。真っ直に空を眺める彼のその目を。いつも、いつも、日常に希望を持てない人がする瞳だ。



「私と同じ」



泣きそうになった。この病院には彼女と同じように絶望しか持たない者が大勢いるのだと、わかってしまったからだ。自分だけではない。一人になりたいと思っているのは。

彼女は彼の知らない所で彼に気付かされた。

自分と同じ目をする彼は一体どんな声をしているんだろう。どんな性格なんだろう。そう、一目見ただけで興味を持った。






「もしかしたら、一目惚れだったのかな?」



思ったよりもお人好しで、びっくりしたけど

またそれが私の好みだったんだよね



「でも、他の人も放っといてくれはしないけど」



思わず半目になって、勇也の鼻をつつく。成績がよくて、運動ができて、性格がよくて、料理もできる。こんな彼を放っとく女子は少くて、バレンタインなどよくチョコを持って帰ってはその処理に困っていた。しかもそのチョコのお返しに自分の手作りクッキーなどあげるものだから更に人気がアップしている。中にはそのクッキーの美味しさに逆に自分のチョコが恥ずかしくて泣き出す子もいたらしいが。



「もぅ、どうしてそんなにモテるのよ」



理不尽なことを述べて、自分が情なく思えた。彼の胸に顔を擦り付けて、千歳は目をつぶる。

二年前までどこにも居場所がなかった彼女に暖かい所をくれたのは彼で、彼女を温めてくれたのも彼だ。いつでも勇也を見ていたいのは彼女として当然だろう。なのに、学校では自分よりも他の女子の方が彼を見ている。それは嫌だなぁ、といつも千歳は思っていた。



「勇也の全て、全部私のなのに」



言って恥ずかしくなる。そんなことありえないのにと自分で自分を嘲る。



「そんな嬉しいこと言ってどうするんだよ」


「勇也!起きてたのっ!」



いつの間にか身体はがっちりと彼に拘束され、身動きが取れなくなっていた。密着した身体は更に熱くなり、顔も同じく赤くなる。彼は意地悪い笑みを浮かべていて、彼女のおでこにキスをする。



「ちょ、ちょ、待って!」


「何で?」


「ば、馬鹿!わかってるくせに!」


「なぁにが?」


「そうだった!勇也は意地悪だったんだ」



わぁんと泣きながらじたばたする彼女を優しく抱き締めながら勇也は時計を見る。八時ニ十分。かなり遅く起きた方だ。今日は丁度大学の登校日ではないので、のんびりと家で過ごせる。たまには実家に帰って家事でもしてやらないとなぁっと心の中で考える。



「俺がモテるのは否定しないけど、お前はどうなんだよ?」


「え?」


「やっぱり気付いてないのか?お前も外出る度に誰かに好まれてるんだからな」



知らなかった



勇也は大人しくなった千歳に苦笑して身体を放した。散らばっている服をきっちりと着始める。茫然とそれを見守っていた彼女はふと自分も裸だということに気付く。慌てて服を着ようと床に手を延ばしたが、そのまま落ちる。



「いったぁい!」


「何、やってんだお前………?」



勇也は千歳の身体を持ち上げて、起こす。恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、彼女はすぐに服を着始めた。その仕種が可愛くて、つい笑みをこぼしてしまう。



「こんな所母さんに見られたら」


「多分、見られたと思う。ドアの音したから」



一気に彼の顔は青くなる。よりによって初めての朝を彼女の母親に見られる、何て哀しいんだろう。固まってしまった彼の顔の前で千歳は手を振ってみせる。瞬きもしない。頬を掻いて彼女は勇也の頬にキスをする。



「なっ!」


「だぁいじょうぶ!何も言わないよ。逆に子供催促してきそうで怖いもん」



楽観的な彼女の言葉に彼はがくっと肩を落とした。だが、千歳の母親のことは千歳が一番知っているのは当たり前で、あながち嘘じゃないかもと思い直す。



「お前、性格変わったよなぁ」


「そう?」


「うん。前はもっとふざけた振りをして本当のこと話さなかったもん」



きょとんとした顔をして、千歳は思案する。言われるまで気付かなかった。

何か思いついたのか彼女はにっこりと無邪気な笑顔を向ける。



「それはやっぱり勇也のせいだよ」


「俺?」


「うん」



だって、私にここまで深入りしてきたの………貴方が初めてだもん






「よ!元気か?」


「勇也!また来てくれたんだ」


「まぁな。お前はまだ退院できそうにないなぁ」


「うん。いつになるかわからないの」



淋しそうな顔に勇也は首を傾げる。まだ二人が付き合う前の話。勇也が学校に通い始めてしばらくしてからのことだ。いつものように彼は彼女の見舞いに来ていた。場所はもちろん全ての始まり、あの屋上。



「んな顔するなよ。更に退院延びるぞ?大丈夫。退院するまで見舞いに来てやるからさ」



軽い一言。おそらくそこまで深く考えて述べた言葉ではないだろう。それは何となくわかっていた千歳だが、何気ないその言葉が彼女の心に深く響いた。

今まで何度なく友達関係でその言葉は聞いた。けれど本当にそんなことをしてくれる者はいなくて、勇也と出逢うまではずっと一人だった。けれど、勇也なら、今までずっと来てくれたこの人なら本当に来てくれると思った。



どうしよう


本当に、好きになっちゃったよ






どんな時でも


どんな言葉も


貴方と一緒なら


何も怖くない







番外編です。千歳視点です。ここでは最終話のちょっとした続きと、彼女が勇也と違う所にいた時のお話などを書いて行きたいと思います。

次は千歳が学校に行けるようになった頃の話を書いていきます。今、二十七話目なので、丁度三十話になるように書くかもしれません。どうか、お付き合いして下さい。

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