表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

婚約






今度は


相手側






「勇也!早く早く!」



手を振る彼女に勇也は緊張を隠せずに近寄る。今日は千歳の家に向かっている。理由は結婚について千歳の親に話をしに行くためである。彼女の家に上がったことがないのも事実だが、結婚する話をしなければいけないということに極限まで緊張していた。



「大丈夫?顔青いよ?」


「自分の親に話すよりも緊張することがあるとは思わなかった」



肩を落とす彼の背中をさすって、千歳は元気づける。その手には指輪の感触があり、自然に口元が緩んだ。プロポーズしてから彼女は明るい。それが嬉しくてプロポーズしてよかったと心から思った。



「大丈夫だよ。絶対に結婚できるから」


微笑んで見せると彼女は顔を赤くして頷いた。正直、ここまで信頼されて近寄られると時々困ることがある。そんなこと彼女は気付いていないんだろうなぁと溜め息をつきながら彼は千歳の家に向かう。



「千歳の両親て」


「お父さんはいないよ。勇也見たことないでしょ?」


「え?いないの?そういえば千歳が発作起こしても来るのはおばさんだけだったなぁ」


「うん。私が小さい時に病気で死んだの。だから、お母さんは私を女手一つで育ててくれたの」



だから、ほとんど見舞いに来れないのか。



父親がいないということに多少緊張がほぐれたが、根本的な緊張はなくならないため、気が重いのは変わらない。

覚悟を決めて、勇也は表情を変える。真剣な眼差しを千歳の家に向けた。千歳は思わず微笑んで、同じように自分の家を見つめる。



「勇也は、逆境に強いよね」


「何だよ、いきなり」


「すごいなぁって思って。私の病気のことを聞いた時も、意を決して私に話してくれたし」


「それは病気を持つ本人じゃないしな」


「それでも、多分私にはできなかった」



恋人が、大切な人が今年中に手術しなければ死ぬと聞かされれば。どんな人でも迷って、哀しんで、判断をにぶらせる。それなのに、勇也は戸惑いながらもはっきりと彼女に告白した。それが嬉しくて、強い意志を羨ましく思う。

いつの間にか彼女の家の前まで来ていた。今千歳は病院にいるから、母親一人でこの一軒屋に住んでいるのかと思うと淋しく思うくらい立派な家だ。勇也は千歳に視線を送る。彼女は家の扉に手をかけて開けた。



「でも、いくら支えがあっても俺はお前みたいに病気に立ち向かうことなんてできなかったかもしれないとは思うよ」


「え?」



ぼそりと耳打ちされた言葉に目を瞠る。だが、会話は家の奥から現われた母親によって中断される。軽く挨拶を済ませて二人は家の中に入った。



「突然すみません。お邪魔して」


「いいのよ。勇也君なら大歓迎」


「お母さんいつからそんなに勇也と仲良くなったの?」


「あら、妬いてるの?」


「ち、ちがっ!もぅ、変なこと言わないで!」



和やかな会話をしばらく続けていたが、勇也は真剣な表情を出して、話を変えた。



「それで、今回話したかったことは」


「あぁ、そうだったわね。一体どうしたの?」



一回千歳の顔を覗いて、母親に視線を戻す。言いづらくても自分が言わなければならない。そう、何度も自分を叱咤して勇也はやっと口を開いた。



「千歳を…………。千歳と結婚させて下さい」


「いいわよ」



あっさり過ぎる返答に二人の目が点になった。今何と言った?自分の耳を疑ってしまうくらい呆気なくて、拍子抜けをしてしまった。にこにこと無邪気な笑顔を向ける母親を信じられないという顔で見つめる千歳。無意味に瞬きを繰り返す勇也。



「へ?あ、あれ?」


「いいわよ。思うようにしなさい。貴方達のことだからちゃんと覚悟も理由も揃ってるんでしょう?それなら私が口出すことは何もないわ」


「本当にいいの?お母さん」


「貴方は結婚したいんでしょ?」


「う、うん」



暖かい笑みを浮かべて千歳の頬を手で包む。一人の娘を思う母親の顔で、優しく頬を撫でていく。小さな彼女の頭を胸に押し付けて、風のような声音で言った。



「私は貴方が幸せならそれでいいの」


「お母さん、ありがとう」



母子のやりとりに勇也が瞳を潤ませて、感動していた。

あっさり過ぎるほど簡単に決まったが、おそらく母親はずっと前から覚悟していたのだろう。勇也が現われた時から、恋人になった時から、ずっと。

風が冷たくなり始めたこの時期、二人の結婚が決まった。






ひらひらと落ちて来る枯葉を手で受け止めて、千歳は勇也に笑顔を向ける。



「これで、私達婚約者なんだよね?」


「あぁ、そうなるな」


「私の誕生日に籍をいれるんだよね?結婚式………………は自立してからにしようね」


「あぁ」



少し残念そうに呟いた彼女に思わず噴き出して、勇也は彼女の頭を撫でる。柔らかい髮は彼の鼻を心地好くくすぐる。細過ぎる身体は今も昔も変わらなくて、だけど彼にとってはこれがもう基準となっていた。



「愛してる」


「ふ、キザ。私も愛してるよ。勇也」






誰よりも


何よりも


君が大切だから


君が






好きだから







二十四話目です。三十話で終わるのか危うくなり始めました(汗)いや、頑張って終わらせます!次は結婚になるかな?その次が………。

この調子なら予告通りG.W中に終わりそうです。頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>恋愛シリアス部門>「限られた時間の中で」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ