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プロポーズ






誕生日


だけど貰うんじゃなくて


受け取ってほしい


この言葉を






身体を冷やすような冷たい風が吹く。久々に屋上に来た気がした。二人は上着を来た姿でその場に出た。

既に木の葉はほとんど落ちてしまい、風景は淋しいものになってしまった。勇也は千歳に手を差し延べる。彼女はそれを素直に受け取って、手を繋いだ。



「本当によかったのか?」


「修学旅行のこと?うん、私は勇也と一緒にいる方がいいし。それに発作が起きるのは怖い」



修学旅行は結局止めて、今休暇をとってしまっている。発作は最近それほど起きてはいない。そのため、いつ起きるか起きたらどうなるのかがとても怖い。

もうすぐ十二月。つまり今年が終わる。医者が言った言葉を思い出して勇也は瞳を曇らせる。



「このまま何もしないで今年を終えるのか?」


「その方が、長生きできるかもしれないじゃない」



語尾が小さくなる。勇也の手をきつく握り締めて、千歳は顔を伏せる。

何もしない方が長生きできる。それは確かにそうなのかもしれない。だが、諦めたような呟きに勇也は胸が痛かった。この言葉は彼女の精一杯の気持ち。少しでも長く、少しでも幸せの時が続くようにという祈り。



「そんなことよりも誕生日プレゼント何がいい?前みたく行動をプレゼントしようと思ったんだけど、全く考えられなくてさぁ。よければこれから買いに行こう?」



話をそらして、彼女は明るく言った。今日は勇也の誕生日。屋上から下りようと急かす千歳を勇也は手を引いて静止させた。

彼はゆっくりと首を振って、彼女を元の場所に戻させた。



「物じゃなくて、行動の方がいい」


「何がいいの?」


「手術、してよ」



手術、それは心臓病を治すということ。千歳は自分の耳を疑った。だが、彼の瞳は疑わせてはくれなかった。真っ直で、純粋な瞳。決して冗談を言う時の顔ではない。そもそも勇也は病気に関して冗談を言う人ではない。

一瞬、沈黙がその場を支配する。喉が張りついて上手く声が発せられない。



「このまま何もしないで死を待つよりも、俺はこれから先千歳といる可能性を選びたい」


「でも、……………。体重が」


「わかってる。だけど、やってほしいんだ。今年中に、どうしても」



目線が外せない。痛いほど感じる彼の視線が怖かった。優しく握られているはずの手も何故が痛かった。

乾いた唇はまだ動かない。硬直した身体を風が容赦なく吹き付ける。冷えていく中でその手だけが暖かい。

しばらくたって、やっと彼女は重い口を開いた。



「何をしてくれる?」


「え?」


「勇也の誕生日プレゼントとして手術するとして、それ相応のこと私の誕生日にしてくれるんでしょ?」



見返りが欲しいわけではない。ただ、手術する時に安心できる物が欲しかった。

儚く笑って、勇也は握っている手を持ち上げた。ポケットから何かを取り出したかと思えば、それを千歳の指にはめた。キラリと輝く小さな宝石がついた綺麗な指輪だった。それごと彼はキスをする。






「手術する前に、俺と結婚して下さい」






彼女は口元を手で押さえる。溢れ出す涙は止めることなどできず、そのまま膝を折って崩れてしまった。

小さく肩を震わせる。涙は決して哀しみのものではない。幸せ過ぎることが起きてしまったから流れたのだ。勇也は彼女の肩を抱き、嗚咽を漏らさないようにした。



「ありがとう………………」


「それはいいってことなのか?」



微妙な返事に眉を寄せる。千歳は思わず笑って、泣きながら頷いた。



「はい。喜んで」


「よし、これでいいだろ?」



屋上で二人は出逢い。

屋上で恋人となり。

屋上で将来を誓った。


二人は高校を卒業の前に夫婦になることを決意してしまった。しかし、それは本当に可能なのか。この時そんな不安も感じることなく、ただ結婚という互いの支えに喜んだ。

早過ぎる決意におそらく誰もが反対するだろう。だけど、二人は揺るがない。誰よりも大切で誰よりも想う互いのために周囲の声など聞かないだろう。






君は約束してくれた


最後の希望にすがってくれると







二十二話目です。高校卒業の前に二人は結婚しちゃうそうです。何だそりゃ。と私は自分で打ちながら思ってしまいました。はは。

現実ではあまりないですよね。高校生夫婦なんて。この二人の場合まだそれが実現するとは限りませんが。

そろそろクライマックスに入ります。続きも読んで頂けると光栄です。

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