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文化祭






恋人同士なら欠かせない


学校イベント






体育祭が終わってから早一ヶ月。あの行事が終わったら今度は文化祭。生徒達は勉強に追われながらも空いた時間で懸命に準備を進めていった。委員会、クラス活動、部活動などでそれぞれに行う店の準備を時間を裂いて行っていく。

そして、待ちに待ったその日、彼らの気持ちを察してかとてもよい青空に。



「ねぇ、勇也のクラスは何を出すの?」



朝からはしゃぎモードとなっている彼女は明るい声音で問う。勇也達のクラスは運動神経のいい者が多いだけでなく、多趣味の者も多かったため、文化祭で出す店をあーだこーだともめ事となった。結局、何の案が残ったかというと。



「逆転喫茶」


「何それ……………」


「男女の服装が逆転してるんだ。女はウェイター男はスカート」


「ぷっ、あははははははは!!!もしかして勇也も着るの?」


「残念だったな、俺は料理作る係だから着なくてすむんだ」



冷や汗をかきながら答える彼に対して千歳は残念そうに頬をふくらませる。多趣味の者が多いはずのあのクラスにも料理を得意としている者が四人ほどしかいなかった。そのため、もめることなどせずすんなりと料理役が決まったのだ。



「そういうお前のクラスは?」


「私?私の所はねぇ、お化け屋敷!結構頑張って作ったから迫力あるよぉ!後で一緒に行こうね」


「そうだな。千歳は午前が店番だろ?」


「うん。ちゃんと勇也に合わせておいたよ。午後から自由。丁度行きたかったところがあるんだぁ」



うきうきの千歳と教室の前でわかれて、勇也は自分のクラスに入る。女子は着替えに更衣室に行ってしまったため男子しかそこにはいなかった。店の装飾に忙しそうに動き回る彼らとは違う所で料理の下ごしらえに入る。後から三人も参加して、その場にはたくさんのお菓子の元となるものができた。



「あと焼くだけだな」


「うん。時間がかかりそうなものからオーブン借りて焼いてこよう」



借りられたオーブンは二台。少し心許ないが、仕方なく地道に焼いていく。

女子は着替えが終わり交代で今男子が着替えに行っていた。料理役でも一応衣装はあるため、勇也も着替えに出る。

文化祭開始時間は今から一時間後の十時。ケーキならぎりぎり四つか五つくらいはできるだろう。そう考えながら彼は衣装に腕を通す。



「ってか、何で燕尾なんだ?」



妙にこった服に思わず眉をひそめる。

とりあえず、服をきっちりと着こなして教室に戻り準備を再開した。






そして、文化祭開始。最初はイマイチだったお客の流れも今は行列ができるほど大繁盛だ。最初に作っておいたケーキがなければ今頃間に合っていなかっただろうなぁと思いながらも盛りつけていく。

午前の店番はあっという間に過ぎて、いつの間にか十二時を回っていた。



「勇也。頑張ってるぅ?」



調理場に顔を出した千歳に気付いて、勇也は手を止めた。お昼はご飯が食べれる店に行くためか、少しばかりお客の数は減っている。代わりの店番が丁度よく顔を出したので勇也はエプロンは取った。



「昼食べてないだろ?」


「うん、にしても何か気合の入った衣装だよね」


「衣装作りに凝っている奴がいたからなぁ。これ全てそいつが作ったらしいぞ?」


「えっ?クラス全員分?」


「おう」



細部までこだわって作られたこんな衣装を一人で作れるものだろうか、と千歳は疑いたくなった。二人はそのままお昼を食べに他の店に行く。焼きそば、ホットドック、アメリカンドック、フランクフルト、うどん、焼鳥など様々なものがそこら中から売り出している。どこもお客がいっぱいで手が付けられない。



「どうする?」


「うーん、困ったなぁ」



二人ともお腹はぺこぺこなのだが、同じくらいお客が入っているのを見るとどこにも入りたいとは思えない。勇也はふとその客の中にクラスメイトの木之下を見つけて近づいた。



「よ、ホットドック食べるのか?」


「あぁ。結構こんでるよなぁ」


「なぁ、俺達の分も買ってくれないか?お前の分おごるからさぁ」


「マジ?いーぜ。二つでいいのか?」


「あぁ。サンキューな」



そんなこんなでご飯を入手して二人は食べる。文化祭、といってもありきたりな店が並ぶだけでそこまで魅力は感じない。人がここまで楽しみにできるのは一緒にいる人達との会話を楽しめるからだ。

二人は無意味に校内を回って様々な所を見た。そして、そのうちに千歳の教室の前に辿り着く。



「そういえばまだ入ってなかったな」


「うん!丁度すいてるし、早く入ろう?」



勇也の手を引っ張って千歳は教室の中に入る。暗幕を上手く使って真っ暗になった教室を道を確かめながらゆっくりと歩いていく。何も見えないが、手にはしっかりと彼女の温もりを感じる。



「ねぇ、勇也」


「ん?」


「もし、こんな所で私が発作起こしたら………どうする?」



それは正直笑えない、悪寒が走るような質問。勇也は一瞬その姿を想像してしまい、足元が凍りついた。だが、歩くことは止めない。千歳の肩を自分の身体に引き寄せて勇也は唸るように呟いた。



「お前を抱えて、教室の出口を必死に探すさ。俺は………そんなことしかできないからな」



自分では千歳を救えない。そう思っている彼は悔しそうに表情を歪ませる。

自分の無力さに自嘲している彼に気配で気付いたのか千歳は慌てて言葉を放つ。



「ごめん。そんな思いつめないで。ただ、助けてくれるって言う言葉を聞きたかっただけ」



助け。彼女はその言葉を彼の口から聞きたかった。勇也は出口まで連れて行くだけで助けたことになるのかと、それに驚きを示していた。

そして、もう一度彼女に口を開きかけたその時。



「一枚…二枚…三枚…四枚…」



小さく、か細い女性の声音が響く。あぁ、これかと一瞬びくついてしまった自分を情なく思った。



「五枚…六枚…七枚…八枚…九枚…」



うっすらと見える白い着物を着た髮の長い女性はゆっくりと二人の方へ向いた。



「おはしがなければ何もできないのよぉぉぉおおおお!!!」


「何だそれはぁ!!」



言った時の顔の恐怖か、それともノリでか二人は走り出す。途中定番なこんにゃくや白いお化け、火の玉などがあったが全てスルー。光を見つけて教室の出口から廊下に出た。

ムキになって走ったのがおかしくて、二人は一緒に笑い出す。






イベント


それは二人の気持ちを


確かめるものかもしれない







二十話です。文化祭ですね。だけど何か前置が長くて微妙な話になりました。次からやっと本題に入ってきます。そろそろ終わりに近づいてきてちょっと安心しています。

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