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退院






彼女があの夜来れなかった


どうしてその時気付かなかったんだろう






あの約束の夜から既に三日。そして、千歳が屋上に来なくなってから三日。勇也は少し気になり始めた。あの夜来なれなかったことを気にしているのかもしれない。それか、もしかしたら…。



「一体どうしたんだよ」



病室を調べようと思えばできる。だが、そんなことして彼女の病気を知ってしまうことはいけないような気がした。

今まで一緒に話していて一度も病気について触れなかったわけではない。



「あの時…突っ込まれたくない顔してたからなぁ」



いつも笑顔でいる千歳があの時だけ異なった雰囲気を出していた。それがわかって何も言えなくなったのだ。そして、今もそれによって動けないでいる。



「………大丈夫なのかな?」



毎日毎日顔を出していた彼女。それが突然なくなるとなんだか淋しさが残る。深く溜め息をついて、入口に視線を送る。



「…………ん?」


「久々ぁ…勇也」



恐る恐るそこから顔を覗かせていたのは三日ぶりの千歳。そろそろとそこから彼の所に近付いた。

やはり約束のことを気にしているのか、すごく泣きそうな顔をしている。目の前まで歩いて来たらその場に座り込み、頭を下げた。



「ごめん!約束破って!」


「別に…。何か事情があったんだろ?そんなに怒ってないよ」


「嘘だぁ!だっていつもはそんなに優しい言葉言ってくれないもん!」


「それどういう意味だよ!許してもらう気ないなてめー!」


「きゃー!ごめんなさぁい!」



いつものようなやり取りにやっと安心したのか、彼女の顔に笑顔が戻る。勇也も内心で安堵した。別に体調が悪そうではないから。



「ね?じゃぁ、今度こそ二人で星見よう?」


「え?」


「私…勇也と二人で見たいの」



必死に頼む彼女の姿に結局勇也は顔を縦に振るしかなかった。



「しょうがないなぁ。今度は絶対だぞ?」


「本当!ありがとう!」



そして、やっぱり彼女は抱き付く。未だに彼女の行動に慣れない勇也はいつもいつも戸惑い、顔を赤くする。



「へへ、勇也は可愛いなぁ」


「う、うるさい!早く離れろよ!」



仕方なく身体を離して、千歳はつまんなそうに首を傾げる。彼女の最大の楽しみをもう少しやりたかったようだ。



「意地悪…」


「それはお前の行動だろっ!」



力いっぱい否定。

二人はまた元の関係に戻った。






友達、仲間、恋人…


そのどれでもない


関係






十二時。勇也は屋上に登ると先に来ていた千歳が笑顔で出迎えた。今日も幸い天気はよく、星がくっきりと見えた。



「綺麗…」


「だからお前には似合わないって」


「何よぉ!本当に綺麗なんだからいいじゃん!」



やっぱり二人は夜でもこんな調子。

ふと、何を思ったか黙る。じっと勇也を見つめる。



「勇也はそろそろ退院かな?」


「あ?何だよいきなり!」


「だって初めに会った時よりもすごく元気そうだから…」



確かにそろそろ医者が言った時期だけどと思案する。



「ねぇ、どっちが早く退院できるか勝負しよう!」


「はぁ!?何なんだよいきなり!」


「早く退院した方の言うことを一つ聞くっていうのは?」



楽しそうに提案する千歳の言葉に反応は変わる。この様子だと勇也の方が普通に退院しそうだと思ったからである。別に千歳に何かやらせたいわけではないが、そんな特権を持つのも悪くはないと思った。



「よし、その賭けのった!」


「やった!」



散らばった小さな輝き。黒く支配された夜の世界には人々が感動する淡い輝きがある。それが見たくて千歳は勇也とここにいる。だが、本当にそれだけなのかはわからない。



「くしゅん!」



冬に入る前とは言え、夜はかなり冷える。千歳は薄着で出てきてしまったために、身体を冷やした。嘆息して勇也は自分が羽織っていた上着を差し出す。



「お前病人だろ?ちゃんと着とけって」


「へへ、ありがとう」



素直に受け取り服を着るとそれはやはりぶかぶか。長い袖を面白そうに振ってみる。



「うーん、やっぱり男の子だなぁ。大きい」


「それでお前にぴったりだったら俺泣くぞ」


「ははは!そうだね!」



二人はしばらく静かな夜の世界で会話を楽しんだ。






自分がいる病室よりも小さな空間。勇也はそこがあまり好きではなかった。母親と二人でそこに腰掛け、軽く横になるための細いベットやカルテが置かれた机などを眺める。



「どうですか?先生」


「そうですね。もういいでしょう。もう二日ほど入院してもらって、様子を見た

ら退院してもらっても大丈夫ですよ」


「え?」


「本当ですか!良かったわねぇ、勇也」


「あ、うん」



あっけない退院。突然そう言われると彼は複雑な心情となった。自分でもどうしてそう思うのかわからなかった。早く学校に行きたいと毎日思っていたのに。



「俺…明後日退院できるらしい」



またいつものように屋上に来ていた千歳に言った。彼女は勇也の退院に素直に喜んだ。



「そうなの?おめでとう!ってことは、私負けちゃったのか…」



少し残念というように溜め息をつく。



「何がお望みですか?御主人様」


「キモい…」


「やっぱ?」


「んー、まだ考えてないから思い付いたら言うよ」


「退院してもお見舞い来てくれる?」


「どうしよっかなぁ」



いじけて頬を膨らませる。その姿をもう毎日は見れないのだなぁっと何となく思う。



「気が向いたらその不細工な顔見に来てやるよ」


「ひどーい!馬鹿!」






そして僕は彼女をここに残して


屋上から姿を消した







二話目です。ここで勇也が一体何のために入院していたのかが気になると思いますが、あまり気にするようなものではありません。おそらく怪我で入院してました。

次では勇也の学校生活です。千歳の見舞いシーンなどで終わると思います。

励ましのお言葉、感想などをお待ちしております。

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