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受験生






僕は受験生


君は二年生






春休みはあっという間に終わりを告げて、新たな学校生活が始まった。ちょっと見慣れないクラスメイトに先生、席、全てが変わる新年度。進学者、というのは勇也にとっては堅苦しくて、あまり自覚したくない事実。入りたい大学、学部、学科、就職などを自分なりに調べて進路希望調査に書き入れれば少し難しいと言われた。

勇也が言った所は今の家からあまり遠くない大学。難しい、と言われても彼はそこ以外に考える気はなかった。卒業しても千歳と変わらない生活を送るためにできる限り近い所に行きたいと思っていた。

もちろん、そのことは千歳には内緒だ。いつものように彼女を病院に送った後、勇也は勉強をするようになった。毎日夜中までそれを続けるのは流石に堪えて、授業中欠伸をよくするようになった。



やばい、これじゃぁいつかバレるな………



欠伸を噛み殺しながらも大きく溜め息をついた。季節は春から梅雨になりかけている。桜の花はもう全て散って、綺麗な緑が繁っている。湿度が多くなりかけているこの時期は普通にしていても憂鬱だ。



「大学か………」



寝言のように呟いたその言葉は何の意味もなく、彼は何も考えていなかった。だが、今一番気にしているものではある。学校推薦をもらえると言ってくれたので他の人よりも受験は早い。勇也にとっては早く終わらせて、千歳を安心させてやりたいのだ。



「あいつはどうするんだろうな」



お互いに進路の話をちゃんとしたことはなかった。おそらく、無意識のうちにこの話を避けていたのかもしれない。自分のことを考え始めると千歳のことが気にかかってしょうがない。だが、今進路の話を切り出せば彼女は勇也に大学のことを聞いてくるだろう。それは非常に困る。



「ま、俺の進路が決まったら聞いてみるか」



できることなら、その時にはもう………



儚く抱く願いは、いつ叶えられるのか。






「ねぇ、いいことあったんだよ!」



いつもよりもご機嫌な千歳に勇也は目を丸める。授業が終わった後にこんなに楽しそうなことはあまりない。友達と何かあったのかと思っていた勇也は思ったよりもいいニュースをこの後聞く。



「体重が少し増えてたの!あの二キロ増えれば手術できるんだよ!」


「本当か?って、今何キロなんだ?」


「女の子に体重聞くなんて最低!」



思いがけないブーイングに彼は口を引きつらせた。未だに彼女の身体は腕も足も全て細くて、折れそうだ。後二キロ、簡単そうに思えて決して簡単ではないその重さ。彼女が手術できるのは一体いつのことなのか。

だけど、少しでも幸せに近づけたことに勇也は破顔する。自分と同じように喜んでくれた彼が愛しくて、彼女も。



「なぁ、千歳。俺のこと好きか?」


「な、何よいきなり」



幸せだと思った時、何となく聞きたくなるのは彼女の気持ち。神妙な表情の勇也を見ると千歳ははぐらかすわけにはいかない。少し顔を赤くして、微笑む。それだけで彼女の気持ちはわかるのだが、やはり言葉が聞きたい。黙っていると、小さくだがはっきりと述べた。



「好きよ。誰よりも大好き」



二人の支えはお互いで。同じ所を見つけて、同じ所で好きになって、同じ所で関係を結んだ。偶然にしてはでき過ぎた人生に二人は少からず運命という二文字を頭に浮かべたこともある。だけど、それを信じるには重過ぎる言葉で、口に出した事はない。言葉は人の人生を左右させる戒めだから。



「うん、俺も大好き」



高校生、誰もがそれは子供の気持ちと吐き捨てるだろうか。結婚の約束もして、ふとした瞬間に愛を確かめ合う。それは確かに子供がするような可愛らしいことかもしれない。

だけど、二人にとっては今が一生に一度しかないくらい大切な時間。

お互いを大切に、お互いの時間を大切に、お互いの存在を守る。これは大人でもなかなかできはしない尊い気持ち。



「ねぇ、夏休みは遊園地に行きたい」


「もう、夏休みの話かよ。気が早いなぁ」


「だって、長い休みじゃないとデートしてくれないんでしょ?」






限られた時間の中で


一生懸命愛し合っていくかのように


僕らは互いの時間を大事にする






「あ、休みの日は午後までいなくてもいいよ」


「え?どうして?」


「最近夜遅くまで勉強してるでしょ?なら、休みの午後も使ってやらなきゃ損だよ!それで体調を悪くしちゃうと元も子もないしね!」



流石彼女と言うべきか。勇也の行動はお見通しだ。バツが悪そうに頬を掻いて視線をそらす。千歳は両手を彼の顔に添えて無理に自分の方へ向かせた。



「勉強頑張って」


「あぁ。必ず志望校に合格してやるぜ」



にっこりと形のよい笑顔を浮かべて、千歳は顔を勇也に近づけた。もう、慣れ始めた彼女とのキスはそれでもまだ心臓が高鳴る。

ゆっくりと離れていく瞳を見つめた。細過ぎる身体を引き寄せると、やんわりとした温もりが伝わって。



「じゃぁ、また明日な」


「うん。またね」



名残惜しそうに身体を放して、勇也は家に帰っていく。

こんな一日を繰り返して、二人は愛を深めていく。






そして


季節は僕らの人生を変える


夏になった







十四話です。次はシリアス………、この話もなかなかシリアスでしたね。なら、次もシリアスです。夏休みの話ですね。受験生なのに遊んでていいのかよと勇也に思うかもしれませんが、気にせずに。彼女が大事なんです!!

そして私も受験生。忙しくなる前にこの話を終わらせたいなと思います。


三亜野雪子

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