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球技大会






過ぎ去る


楽しい日々






「勇也!帰ろう?」



二年の教室に顔を出したのは千歳。友達と話していた勇也はそれを止めて教室を出る。



「あぁ。じゃぁな!」


「話してたなら別に終わってからでもよかったのに」


「別に大した話じゃねぇよ。あ、今日おばさん来るんだっけ?」


「うん。何かお土産持ってくるって」


「何気にいい果物多いよなぁ。全部甘くて美味いし」


「私的にはどうして勇也がそんなに包丁慣れしてるかが気になる」



微妙なところを問われて勇也は眉を寄せる。両親が共働きの勇也の家では時々彼が食事を作る。そのため、包丁が自然に扱えるほど慣れてしまった。



「あ、そういえば今度いつちゃんとしたデートできるの?」


「あ?んなもん春休みに決まってんだろ?」


「えぇ!一ヶ月以上あるじゃん!」


「仕方ないだろ。お前、また発作起きたら当分病院だぞ?」



納得いかなそうに顔を膨らませる彼女に一瞬許しそうになるが、勇也は何とか堪える。病気のことに関して甘くするわけにはいかないのだ。



「困らせんなよ。心配してるんだ」


「わかってるけど…。じゃぁ、もし発作起きなかったら春休み何回もデートしてくれるの?」


「もちろん。疲れないくらいにな」



その言葉で機嫌を直した。

付き合い始めて早三ヶ月。変わらない二人のやり取りと思っていたが、恋人になってから千歳はよく勇也に甘えるようになっていた。



「次のデートはお花見かな?」


「お、いーな。それ」


「もちろん勇也が弁当作ってね」


「え?マジか?何か普通逆な気がする」


「私、したくても病院だから」



しょんぼりと肩を落とした。苦笑して溜め息をついて彼女の頭を優しく叩く。



「わぁかった。好きなもの作ってやるよ」


「本当?じゃぁ、桜餅とお団子とようかん!」


「全部菓子かよ!ってかちょい無理あるし!」



突っ込むと笑いが込み上げて。互いに笑う。何でもない会話が二人の心を和ます。

病院に行くまでの道のりは二人のちょっとしたデート。



「じゃぁ、千歳また明日な」


「うん。気をつけて帰ってね」



病院で数時間過ごした後、勇也はいつも通り帰っていく。






僕らは


過ぎ去る一日を


大切に






「球技大会?」



二月の行事を聞いた勇也は少し嫌そうに顔をしかめた。

この学校の球技大会は夏と冬で一年に二回ある。勇也は運動は好きだが、行事系はあまり好きではない。



「面倒だなぁ」


「何言ってんだよ。お前確実に三つ出てもらうからな!」


「おま、それ全部じゃねぇか!」



男子の種目は野球、サッカー、バスケ。全て時間がずれているため掛け持ち可能なのだ。



「だってお前運動神経いいじゃねぇか」


「あのなぁ…。はぁ」



どう言っても結果は変わらないと理解した勇也はただ受け入れるだけだった。






「三つ?すごいじゃん!頑張ってね」


「やだよ。面倒」


「えー?駄目だよ。頑張んないと」



説得する千歳になおも反抗する勇也。だが、ちらりと彼女を見て伺うように聞いた。



「なら、頑張ったらご褒美くれる?」


「え?」



子供のような顔を向ける彼だが、彼女は何故か顔を赤くする。



「な、何言ってんの!」


「ご褒美って言っただけど…何考えたの?」



しまったというように口を手で押さえて彼女はじとっと勇也を睨む。その顔が面白くて失笑した。



「もう!意地悪!」


「ははは!じゃぁ、楽しみにしてる。ご褒美」


「て、勇也!?もう!」



勝手に約束して、勇也は球技大会を面倒な行事から楽しみの日としてインプットした。






そして、球技大会。

体操着に着替えてギブスをつけた。



「仕方ねぇ、やるなら優勝するか」



まず最初は野球だ。ファーストを守る勇也はボールが何もしなくてもやってくる。お手持ちの反射神経でグローブでボールを包み、ランナーをタッチする。



「アウト!」



あっという間にスリーアウトを取り、攻撃に移る。面倒そうに頭を掻いてバットを握る。ボールを簡単に見分けて、ストレートボールを打つ。



「すげーホームランだ!」



小走りでホームを回り、見事点を取る。



「野球優勝!」



楽々野球の優勝を取った。

次はバスケだ。体育館に移動して、勇也はボールをついた。



「大丈夫なの?そんなすぐに」



見学していた千歳が心配して話しかけてきた。それが嬉しかったのか、勇也はにっこりと笑ってボールを放った。

思わず受け取って千歳は首を傾げた。



「見てろ!惚れ直させてやる!」



張り切って宣言した通り彼はバスケでも点を入れ、見事勝利した。



「すごいすごい!」



千歳は勇也に飛び付いて大喜びだ。楽しそうな彼女に勇也も満足そうに笑う。



「次はサッカーだ。それで勝ったらご褒美な!」


「な、それしか頭にないの?」


「たりめーだろ!そのために頑張ってんだ」



笑って彼はまた運動場に戻る。白と黒のボールを足で操って転がす。

部活した時を思い出しながら彼はリフティングをやって見せた。



「サッカー部ってのは本当なんだね」


「んな嘘ついてどうするんだよ」


「確かに…。まぁ、でも、頑張ってね」



彼女の声援に親指を立てて勇也は仲間と共に試合を開始した。


もちろん結果は優勝。






「はぁ、疲れた」


「本当に優勝しちゃうんだもん。すごいね」



いくら勇也が運動神経がいいと言っても三つの種目を優勝させるには無理がある。勇也のクラスのチームがよっかたのも一応勝因だろう。



「惚れ直したか?」


「………うん」



素直な返答に思わず戸惑った。優しく笑う彼女はやはり自分も出来ないことが哀しいのか、淋しそうで。

勇也は彼女の身体を包み込んで耳元でささやいた。



「ご褒美は?」


「しょうがないなぁ」



愛のある溜め息をついて、彼女は甘いキスを勇也にあげた。






甘くて


切ない


大切な日々を


僕らは今


歩んでいる







十二話です。三話くらいで少し季節を早く過ぎさせたいと思います。次はおそらくお花見くらいにいきますかね。私の方もお花見の季節のはずですが、もう散り始めているから遅いかな?

しばらくこんな平穏で柔らかい話が続くと思います。

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