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誓い






彼女との


甘い誓い






あのデートから一回も外で遊ばなくなった二人は、土曜にも関わらず今日も病院で話をする。千歳の母親も今日は見舞にきていろいろと世話を焼いていた。

最近少しずつ本音を吐きながら接しているせいか、千歳も母親に対して笑顔を向けることが多かった。



「勇也君は何か部活には入らないの?」


「そういえばそうだよね。入ってなかったの?」


「部活は前にサッカー入ってたけど、だるくてやめた」


「うわぁ、根性なぁい!かっこわるぅ」


「るっさいな!あんま一つのことに集中したことないんだよ」



運動は嫌いじゃないが、何か一つのことに連続で興味を魅かれることはない。だから、勇也は長続きしないのだ。



「体育くらいで充分」


「まぁ、一通りやったら次のに変わるしね。私は好きなのにできないんだよ!やれるだけいいじゃない!」


「─────っ」



その台詞に言葉を詰まらせたの母親。千歳は背を向けているから気付かなかったが、勇也は微かに視線を上げた。



「でも、千歳運動できなそうだよな」


「失礼な!これでも中学は五段階で五取ってたもん!」


「へぇ、意外!」



雰囲気は崩れず逆に笑いが起きる二人の会話。固くした表情を元に戻して勇也を不思議そうに見つめる母親。

普通の人なら何て答えただろうか。大変だなとかそっかとか少し気遣うよう言葉を彼女にかけていただろう。だが、勇也は違った。気遣うのではなく、思ったことをただ素直に述べていた。



「治ったら勝負して勝ってやる!」


「ほぉ。男なめんなよ。返り討ちにしてやるよ」



その光景を羨ましそうに目を細めて母親は病室を後にした。






「勇也は今まで好きな子とかいなかったの?」



林檎を器用に剥いていく勇也の動きを止めたのは彼女のこの言葉。あまりにも突然で果物ナイフを落としそうになる。

期待に輝かせた瞳で見つめてくる彼女に顔を引きつらせて、林檎とナイフを置いた。



「………いないよ」


「今の間はすごい怪しいよ?」


「いないから!」


「ムキになったぁ!絶対いるよ!」



埒のあかない様子に最終手段。



「そういうお前はどうなんだよ?」


「へ?」



思いがけない返しに千歳は目を丸くする。瞬きを三回連続でやった後、首を大袈裟に振った。



「い、いない!」


「今のもかなり怪しかったぞ?」


「むぅ、何かむかつく…」



悔しそうに口を一にしていると、急に笑顔になった。



「いたよ!」


「えっ!?」


「今までに好きな子とかだよね?」



嬉しそうに頬を染める千歳に内心焦りながらも勇也は引きつった笑顔で続きを待つ。



「正確には、い・る、だけどね」



熱い視線の先にはもちろん勇也。何を言いたいのか理解して顔を真っ赤にして荒げた声を上げた。



「ずりぃ!」


「なぁによ!本当のことでしょ」



納得できない顔で仕返しを考え始めた。

最近、勇也に不安なことは全て打ち明けてるため笑顔が多い。



「好きな子とかさぁ、作る…ものではないよな」


「え?」



仕返しを考えていたはずの彼は何故か違うところで悩んで、口に出す。言いたいことがわからくて、千歳は小首を傾げた。



「よく彼女、彼氏を作りたいとか言うけど…好きになる条件て何だ?」


「うーん、選んでる子はいるけど…」


「結局それは『好き』ではないだろう?」



『好き』とは自分でもコントロールできないもの。

誰を好きになるか、わからない。



「作りたくても作れないのが『好き』で、『好き』の感情が芽生えてからその人を恋人にしようと………『作る』と言うんじゃないかな?」



好きな人はできるもの。

恋人は作るもの。



「そうだね。私も勇也を好きになるとは最初…思わなかった」


「うん。だろ?作れないから愛しくて、尊いんだ」


「うん。だけど…作りたいと思うのは一度この温もりを知ってしまった人じゃないかな?」



じっと熱っぽい視線を勇也に向けた。彼は何も言わずに見つめ返し、先を促す。



「この安心な場所を…心地よい場所を知ってしまったから…。また、求めてしまうんだと思う」


「そう、だな」


「私も…そう思うの。勇也がいなかったら私は今いなかったかもしれない。絶望に押し潰されて、諦めて、死を受け入れてた。正直、今でも不安は過ぎる」



泣き出しそうに瞳を揺らす彼女の手を強く握った。苦笑した千歳はかすれた声音で続ける。



「それでも、勇也を見る度に…自分の夢を思い出す度に、その不安は消えるけど」


「それでも、消えない不安のことが心配?」



頷く彼女に微笑して、勇也は瞳を閉じた。穏やかで包み込むような静かな声で述べる。



「なら、それすらも消せる誓いをしよう」


「え?」


「夢と誓いは違うだろ。夢はあやふやな自分の人生設計。だけど、誓いは約束された人生」



目を開ければ潤んだ彼女の瞳。ある衝動を何とか堪えて、そして誓いを。



「千歳が手術に成功したら…」






「結婚しよう?」






不安のではなく、感激の涙を流した千歳はキザと、弱々しく呟いた。






愛してる


ささやき合う僕らは


願うように切ない声音で


いつまでも







十一話目です。ここまでお付き合いさしてくれたことにとても感謝しております。少しずつ恋愛が濃くなってきました。いつこの話は終わるのでしょうか?と自分でも不安になります。

次第に会話文が増えてる気がして、焦りながらナレーションを増やしております。名前や同じ言葉が多いこの小説をどうか最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。


三亜野雪子

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