出逢い
肌寒くなった季節に
君と僕は出会った
真っ青な空を眺める十六、七の少年。ここは市立病院の屋上。普段は人が来るような場所ではない。
だからこそこの少年はここにいる。誰にも会いたくないから。
「はぁ」
思わず溜め息をついた。何かするわけじゃない。ただ、その場にいるだけ。今日もそれで終わると思っていた。
「あ、先客?」
明るい声で屋上に上ってきたのは同い年くらいの少女。肩につくくらいの黒髪が風に揺れて、大きく綺麗な瞳を持つ人だった。
「………」
「こんにちは!互いに暇な毎日ねー!何してたの?」
陽気に話しかける彼女に何の言葉も返さず視線をそらした。それでもめげずに言葉をかける。
「私、ここに半年もいるんだ!だから、もうゲームもあきちゃって。貴方は何して暇を潰すの?」
「………」
「ねぇ、聞いてる?」
「うるさい!何だよいきなり馴れなれしく!話しかけるな!」
初めて聞いた言葉はこれだった。彼女は怯みも怒りもせずにただ微笑んだ。それが意外で彼は言葉を止める。
「私ね、神経図太いの。だからそんなことで話すのやめたりしないよ」
何でもなかったかのようににっこりと軽く、明るく笑んだ。
それから不機嫌な彼の周りに彼女はまとわりつくようになった。
夏の暑さもなくなった秋
葉は散って、積もる
「勇也」
何とか聞き出した彼の名前は清水 勇也、十六歳。ちなみに彼女は三島 千歳、十五歳だ。
毎日のように二人はこの屋上に顔を出す。勇也はしつこく話しかけてくる千歳うんざりとしていた。
「また来たのか!毎日毎日うざいな!」
「あれ?別に私は勇也に会いに来てるんじゃなくて、屋上が気に入ったから来てるだけだよ」
その言葉に思わず顔を赤くする。新鮮な反応に千歳は笑う。
少し肌寒くなったこの季節に二人は長袖一枚でここにいる。
互いに何故この病院にいるのか知らないままで、屋上という共通のステージで話しているだけの関係だった。
「ふん、どっちにしろくんな!」
「いや!私、勇也と話すの楽しみなんだもん!」
また赤面。先程の言葉と少し矛盾が生じることに彼は気付いていない。
人を煙たがる口調をするが、人付き合いが苦手なだけのようだ。千歳は面白いなぁっと内心で呟きながら彼の隣りに座る。
「ここは誰もいないね」
「だからいるんだよ。なのにお前が来るから…。台無しだ」
「だって…私もそういう所探してたんだもん」
初めて聞く彼女の真剣な呟きに目を丸くする。
病院に来る者は誰だって一回はそんなことを思う。だから不思議ではなかった。だが、あの千歳がこんなことを言うのは珍しい。
「でも、勇也と二人でいるのは楽しいよ。ね?退院するまでずっと一緒に話そう?」
「…………嫌だって言っても来るんだろ?どーせ!」
もっちろん!と叫んで立つ。人が来る場所ではないため、ここにはちゃんとした柵がない。ぎりぎりの所に立ち、街を眺める。
「綺麗…」
「お前にはそんな言葉似合わないけどな」
「うるさいなぁ!ねぇ、私夜の風景見てみたい!」
「はぁ!?」
思いきり面倒な顔をする勇也に頬を膨らませて反論する。
「なぁんでそんな態度するかなぁ!いいじゃん!夜の屋上に女の子と二人っきりだよ!どっきどきじゃん!」
「お前と二人なんて逆にしらけるだけだ!」
「ひどーい!」
ねぇねぇと勇也の袖を引っ張り喚いていれば、結局負けるのはいつも決まって…。
「あぁ、わぁかったよ!じゃぁ、今日の夜な」
「やったぁ!勇也大好き!」
感動のあまり抱き付いた。
またまた赤面。千歳よりも年上のはずの勇也はすっかり彼女のペースにハマッてしまっている。
「馬鹿!抱き付くなっ!」
「じゃぁ、今日の十二時にここでね!」
嬉しそうに微笑んで、彼女は病室に向かう。
そろそろ夕食の時間だ。姿がないと看護師に怒られてしまうのだ。
「勇也」
「あ?」
「ありがとね」
微かに聞き取れる声でお礼を言い、そのまま顔を向けずに行ってしまった。しばらくその場に残っていた勇也は大きく溜め息をついた。
空は既に暗くなりかけて星が出始めていた。
「何やってんだか…俺」
人を避けてここにいるのに
人と親しくなっている気がする
互いに人がいない場所を求めて
屋上を見つけた
一人になりたかったはずなのに
互いにいることがとても楽しいと感じてしまうことがすごく不思議だった
十二時。病院の明かりもほとんど無く、空は綺麗に星が耀いている。見回りが通りすぎた後にこっそりと抜け出してきた勇也はその景色に一瞬目を奪われる。彼はこの病院に来てから三ヶ月たとうとしている。こんな景色を眺めるのは本当に久々だったのだ。
「ある意味あいつに感謝かな?」
けれど君は
約束の場所へ
約束の時間に
来なかった
連載物です。どこまで長くなるかはわかりませんが、切なく純粋な優しい恋愛小説にするつもりでいます。もしよかったら最後までお付き合いして下さい。
少し勉強不足なところがあるかも知れませんが、突っ込まずに懐の深い心持ちで読んで下さい。