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勘違い行進曲  作者: 野山日夏
一目惚れに纏わる或る女の執念
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一目惚れした人に付き纏う女と、それに振り回される友の話。

友人による騒動記。

 ――ミナ、私ね。好きな人が出来たんだ。

 ありきたりな文句から始まる告白は、

 ――それでね、その人に会ってほしいの。あ、好きになっちゃダメだからね! 私が絶対手に入れるんだから。運命の人なの、私と結ばれるのがもう決まってるの。

 ――あのさ、私彼氏いるからね?

  よくぞ一息でここまで、というほどの長文だった。それを語られても美奈子が平然としていられたのは、もう長い付き合いだからある程度は耐性がついていると いうのが大きいだろう。美奈子の脳裏には、そもそも運命なら誰が手を出そうがうまくいくのでは、などという考えも過ぎったが、それを口にするような愚行を 冒さないだけの分別も美奈子にはついていた。一度それを口にしたら恐ろしい勢いで言い募られるのは目に見えている。

 その日、友人の紗耶香に呼び出され、美奈子は渋々先約をキャンセルし紗耶香に応じた。本来ならば彼氏とのデートでの待ち合わせ場所だったはずの駅前に立っているという虚しさに、美奈子は必死で気づかない振りをした。

 ここ二月、美奈子は確かに出来たばかりの彼氏との時間を優先してしまい、つい旧知の友人との時間をなおざりにしてしまっていた。何しろ最後にまともに友人と時間を過ごしたのはもう二月も前、それこそ美奈子が彼と出会う前にまで遡ってしまうのだ。

 その日以来全ての予定を美奈子は彼氏を理由に断り続けてしまったのだから、この辺りで一度紗耶香の機嫌を取った方がよかろう。そういったわけで今日は紗耶香を優先したのだが。

「おかえりなさいませ、ご主人様! お嬢様!」

 可愛らしい声と姿、そして異様なムードに出迎えられ、美奈子は心の底からその選択を後悔していた。

「今日のオススメはお日様オムライスですぅ!」

 六月ももう終わり。まだ梅雨こそ明けないが、肌寒さとは既に掛け離れ暑ささえ覚えるその頃。友人と出掛けるのなら夏休みに行くプールや海のための水着を買いに行くのだろう、と考えていた美奈子は、冒頭の台詞を言い放った紗耶香に連れられ何故かメイド喫茶に来ていた。

 平然とメイドの後ろ姿について歩く紗耶香を見ながら、美奈子は想定と丸きり違うこの訳の分からない状況を理解しようと必死に思考を巡らせていた。

「私はそれと魔女のコーヒーで。ミナは?」

「わ、私? ――ミルクティー一つ」

 その間にも状況は進んでいく。当たり前のようにオーダーさえしてしまう紗耶香に、美奈子は紗耶香がここに通い詰めていることを察して頭を抱えたくなった。メイドににこりと微笑まれ、頬を引き攣らせつつ、メニューも見ずに無難な選択を告げる。

 メイドが去っていく後ろ姿を見送りながら、美奈子は必死に考えを巡らせた。

  確か美奈子は紗耶香の好きな人を見せに来られたはずだが、それが何故メイド喫茶? 普通に考えればそこに紗耶香の好きな人がいるということになるが、だと すれば候補に上がるのはメイド喫茶に通う男、メイド喫茶で働く男、大穴でメイド喫茶で働く女。どれにしても美奈子には微妙な相手に思えた。

 やっ ぱり、彼氏を優先すべきだったのだ、と美奈子はこの場にいない彼氏に詫びた。何が悲しくて恋人とのデートが、メイド喫茶行きになってしまったのだろう。本 来ならば、毎週金曜が定休の彼氏と映画を見に行くはずだったのに。流行りのアクションものは彼氏のリクエストだったのだ。

「変に罪悪感を持ったりしなきゃよかったよ」

 はぁ、と美奈子は溜息をついて我が身の不幸を嘆いた。

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