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ミナが語るところに因れば、ミナは現在大学の四年だという。とはいえ年は卓哉と同じだそうだ。それが信じられず不躾な視線でじろじろとミナを見遣ると、ミナは気分を害したらしかった。
「確かに私は童顔ではあるけど、だからって流石に五歳もサバ読めないって」
ぷぅと頬を膨らまして言うミナはやっぱり化粧の力をもってしてもまだ高校生にしか見えず同い年とは認めがたかったが、ほら、と免許証まで見せられては、卓哉は渋々ミナの年齢を受け入れた。
場所は移って駅前のデパートのレストラン街の一角。感じのいいイタリアンチェーンに卓哉を招いたミナは、クリームたっぷりのパスタを口元へ運ぶ。それを見て卓哉も己のパスタ皿の中に転がるアサリにフォークを突き立てた。口に運んだ瞬間広がる汁に、卓哉は舌鼓を打つ。
因みに、ワインを薦めたミナだったが、酒の失敗をしたばかりの卓哉なので遠慮した。
そうしてミナが面白そうに金曜の真相を語るところによると、卓哉と秀司が飲んでいた居酒屋で偶然にもミナも友人と飲んでいたらしい。友人と別れ際になって高校時代の同級生である秀司の姿を見つけ、声を掛けたのだという。
「私も相当酔ってたから遠慮とかなかったっていうか。ああ、卓哉君はその頃にはべろべろだったから覚えてないんだろうね」
ミナの指摘の通り、さっぱり卓哉にはその記憶がなかった。完全に記憶が飛んでいる。
「んで私はそこに紛れてまた飲み始めて、そしたら卓哉君とすごい意気投合したんだよね。まぁ酔っ払い特有のノリのよさなのかもしれないけど」
記憶が飛ぶので卓哉は自分では今一つ分からない。だがかなりの絡み酒らしくお前と飲むのは面倒臭いから嫌だと言う友人もいるので、そんな酔い方をする自分と意気投合というのもすごいものだと思った。
「秀司が終電だから帰るって言ったときも盛り上がってたから私達は残って、まぁ当然終電逃して。んで朝まで時間潰そうってカラオケか何かに行くはずだったんだけど、」
大学時代よくやった朝まで遊ぶ典型的なパターンを選択したらしい己に頭を抱えた。勤務先が近いから駅前には出来る限り寄らないようにしていたというのに、身についた習慣は消えないようだ。
「なんかいつの間にか愚痴の言い合いになって、そんで仕事が忙しくて異性と知り合う機会がないって卓哉君が憤慨してさ。後は生徒に対する愚痴とか」
確かに教職などしていては機会がないのは常日頃から思っているが、それについて愚痴を漏らしたようだ。
「私も塾講なんてやってるから気持ち分かるし盛り上がっちゃって、こんなに気が合うんだからもう結婚するしかない、みたいなノリ? それでアドレス交換してカラオケじゃなくラブホ行って。酔っ払いって思考が短絡的だよね、うん」
そこから先は卓哉も知っている。高校生と事に及んだと思い込み、金だけ置いてホテルから逃げ出したのだ。
あっけらかんと放たれたが、卓哉は頭を抱えた。とんでもない論理の飛躍が間にあるが、完全に同意の上の流れだった。そして、自身の酒癖の悪さとやらを卓哉は初めて自覚することが出来た。そんなノリに絡まれるのは酔っていなければとんでもなく煩わしいに違いない。
聞いているうちにいたたまれなくなり卓哉は頭を抱えて卓に突っ伏していた。
「私も朝やっちゃったなぁ、って思ったけど、卓哉君いないし遊ばれたかぁ、みたいな感じだったから気にしてないし、元気出してよ。――んで、どうする?」




