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からりとした天候はまさに五月晴れ。雲一つなく快適な清々しい朝に、子供達だけでなく職員室に集まる教員達も明日から始まる大型連休にどことなく浮かれるのがこの時期には当然見られる様子だった。
それは、普段どことなく疲れた顔を見せる教師達が週初めにも拘わらず明るい顔を見せることからも明らかだったし、中には真面目に職務に取り組む余り大型連休に向けて生徒に宿題を出そうと液晶画面の前に張り付く者もおり周囲の教師の苦笑を誘ったものだ。
そんな時期の職員室の一角に、しかし今日は浮ついた空気とは無縁の重苦しい空気を纏って頭を抱えて唸る男の姿がある。普段どちらかといえば早く来る方では ない男だが、今日はこの中の誰よりも早く来ていた。そして誰とも話すことなくこの状態では、当然他の教師の興味を引いた。
余りの落ち込み具合 は、下手に声をかけるのすら躊躇われるほどだ。結局同僚達はその異様な光景に何をやらかしたのと、土日の間に彼の経験しただろうことを心配と好奇心を半々 に織り交ぜて想像しつつ遠巻きにするしか出来ない。男に気遣い、今日は連休の予定を話すのを皆控えている。
「山田先生、どうしたんですか?」
とうとう耐え兼ねたのか、男の同期が声をかけた。彼等は新卒同士それなりに有効関係が気づけている二人で、知り合ってから一月とは思えないほどに仲が良く、時々からかわれるほどの仲だ。
「あの佐々木先生が……」
「あんだけ美人な佐々木先生に問い詰められたら、俺なら何でも言っちまいそうですよ」
「やだ保坂先生、それ奥さんが聞いたら怒りますって」
勇気あるその行動に周囲の教師はざわめき、思い思いのことを口にする。普段ならばそれなりに話をする相手であるから何かしらの反応はあると踏んでいた周囲の予想に反し、男は机から視線を離さない。完全に自分の世界の住人だ。これはどうやら重症らしい。
まぁ、まだ若いし何かしらの失敗は当然だ。そのうち立ち直るだろう。
そう結論づけ、周囲はそろそろ始まる始業時間に向けて準備をし始めた。