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意気消沈してしまった紗耶香を追い掛けるように、美奈子も喫茶を追って出た。というよりは出ざるを得なかった。こちらに向けられる興味本位の眼差しは美奈子一人で堪えられるものではなかったからだ。そのままどこか落ちつける場所へ、と考えて紗耶香を喫茶店に連れ込んだ美奈子は正面に視線を向ける。
紗耶香は呆然としており見ていて気の毒なくらいだったが、しかし美奈子はかける言葉が見つからなかった。何しろ何度か美奈子とて見て知っているが、恋愛に関わる紗耶香の言動には目に余るものがある、と常日頃から思えてしまっていたからだ。
紗耶香は恋愛さえ絡まなければいい人間なのだが、恋愛に燃やす情熱は美奈子からすれば引いてしまうほどに凄まじい。
だからいつも以上に熱烈な紗耶香の求愛に、いい加減相手も迷惑を覚えたのだとしたら、至極自然な流れだった。寧ろはっきりと迷惑と言いきったアヤの言葉には、少し胸のすく思いすらしてしまったくらいだ。
美奈子はちらりと視線を隣にやる。相変わらず言葉を発するのすら億劫とばかりに虚ろな目でどこか遠くを見ている紗耶香の様子に、アヤからの拒絶が相当衝撃だったことが察せられる。勿論ここまで悄然としてしまった友人を見れば流石に可哀相に思いつつ、かといって全面的な味方もできず。
とうとう何もフォロー出来ずに別れた週明け。今度こそかけるべき言葉を見つけねばならず、だが下手な言葉をかけて増長させるのもよくない、と悩む美奈子を嘲笑うように、切り替えの早い紗耶香は既に次の恋の相手にターゲットをシフトさせていた。
全く学習することなく恋に燃え上がる紗耶香のバイタリティとタフさに、美奈子は何となく土日の間ひたすら悩んでしまったことにがっくりときたのだった。どうやら衆人環視の中であそこまで言われたことですぐさまアヤに幻滅したらしい紗耶香には、最早苦笑するしかない。
この数日間ひたすらに紗耶香に振り回されるだけだった美奈子は、一つ決心を新たにした。やっぱり、この友人より彼氏を優先すべきだったのだ、と。
ひとまず彼氏との次の金曜の予定を合わせるため、美奈子は携帯を開きアドレス帳の、『た』のところから目的とする名前を探し始めたのだった。
ここで美奈子と紗耶香の話はお終いです。紗耶香の話はいずれ回収するとして、続きがかけてないのでこっちの更新暫く止まります。