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「…そうですか」


カイが全てを話し終えた後、マスターがぽつりと呟いた。

今思えば何故見ず知らずの初対面の人間にこんな事話したのか。

カイは自分の行動に戸惑いと羞恥を感じ少し身体を縮こませて冷めてしまった紅茶を一口含んだ。


「甘いですね」


「……は?」


突然出たマスターの台詞に思わず間抜けな声を出すカイ。

店の片隅で茶器を片付けていた唯も驚いてそっちのほうへ目をやった。


「親の為を思うなら人を雇うなりなんなりすればどうですか。

店番だけだったら数時間、それこそその辺の主婦にでもできるでしょう。

そこから少しづつ変わっていくきっかけは生まれる、なのに貴方は何も行動せず一人で悩んでいるだけ。

それはただの甘ったれです。若い身空でご両親のお手伝いをされるのは大変素敵ですが

将来お店を継ぐ気があるのでしたらもっと考えて行動することが大切ですよ」


「はぁ…」


突然のマスターの物言いにカイはただただ唖然とするばかりで情けない返事をするしかなかった。

「ちょっとマスター。いきなりそんな事言われても混乱するだけですよ。

一応今出会ったばかりなんですしそこまでガッツリつっこんで自論唱えて説教してると

最近の若い子は逆切れしてくるから殴られますよ」

「いや、そんなことはしないっス。驚いただけで…」

フォローに入ったはずの唯の台詞も大概酷い内容なのだがカイには内容を租借するまでの余裕がなく

自分への内容に異論を唱えることしかできなかった。


「これは失礼。私としたことがつい取り乱してしまいました。

その様に傷を負っているにも拘らず真っ直ぐに正しく成長している少年だとお見受けしましたので

もっと自分に自信をお持ちいただければと思いまして」


「自信…」


マスターに言われたその一言はカイの心を揺さぶった。

今まで何も考えず、ただ両親の為や自分の住む村の為を思って動いてきた。

だが大人に比べれば自分の力量などしれていると思っていた…そう思い込んでいた。


でも今自分に向けて放たれた言葉は賛辞であり激励でもあった。

きっと今まで回りに居た人達も同じ言葉をかけていてくれていたのに

素直に受け止められなかった自分をカイは恥じた。


「そうっスね…俺、自分を卑下するような事してたのかもしれない…

自信持って一度やってみます。親にも一回相談してみます」


顔を上げたカイの目は凛々しく希望に満ちた、いい目をしていた。

マスターはそんなカイを見て目を細め一つ頷いた。


「頑張ってください。応援しています」









「…あんなに自分の意見喋るマスター見たの久しぶりでした」


カイが帰った後、また誰も居なくなった店内で唯がぽつりと零した。

「そうですね。真面目で誠実なのに甘ったれて回りが見えてなさそうでしたので

つい老婆心が出てしまいました。すみません」

へにょっと眉根をよせて謝るマスター。だが口元は笑みを絶やさないのでどこか空々しく感じる。


「ま、私は別に面白かったからいいんですけど…

あの子どうなりますかね……?」

モップの柄に軽く顎を乗せ唯はドアを見つめた。


「さぁ、どうでしょうねぇ」


マスターもドアを見つめ軽く呟いた。



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