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cross1-2

「ようこそcrossへ」


シンプルな衣装に身を包んだウエイトレス、唯が笑みを浮かべカイを出迎えた。


「は……え…?」


ビルの厨房から裏口へ続くドアを開けたはずなのに何故喫茶店の中に居るのか。

自分に起こっている出来事についていけずカイは目を丸くして辺りを見回している。

「どうぞこちらの席へお座り下さい」

唯はそんなあからさまに動揺しているカイを気にせずカウンターの席へ促す。

カイは未だに理解できないがとりあえず店を出ようと思った。


「あ、いや…俺間違えて入った…のかな?

すんませんが出るんでいいです」


「そう言わずに、どうぞこちらへ」


カウンターの奥から聞こえた穏やかな低すぎず、高すぎず、すんなりと耳に入ってくる心地いい声。

その声につられて見てみるとカウンターの中には綺麗な銀髪をした物腰の綺麗な男が

笑みを浮かべてこちらを見ていた。

さっきから店内を見ていたはずなのに気が動転してよく見ていなかったのかもしれない。


カウンターの一席に水とおしぼりが置かれたのを見てカイは降参し、腰を落ちつけた。

落ち着いた雰囲気なのにどことなく高級感が漂う感じが庶民のカイには合わないのか所在無さげにソワソワしている。


「ようこそ、crossへ。貴方は何をお悩みですか?」


ろくに言葉を交わしてもいないのに断定で告げられるその台詞にカイは驚いた。

「え…アンタ何言って…」


「マスター、ちゃんと順序立てて話さないとダメじゃないですか。不審がりますよ」


「これは失敬」


唯がテーブルを拭きつつ横槍をいれてきた。それに対しマスターも失笑を零しつつ受け応える。

おそらくいつものやり取りなのだろうと思わせるような気安さが二人の間には感じられた。

ぼうっと二人のやり取りを見ていたカイにマスターが向き直ったので

カイは慌てて姿勢を正し座りなおした。


「ここ、crossは悩みを持つ方が来れる店です。

悩みは人によって内容も重さも様々ですが本当に悩み、苦しんでいる方にのみ扉が開かれます」


そう言ってマスターはカイの前に紅茶を出した。

湯気が上るそれはふんわりといい香りを漂わせカイの鼻をくすぐった。

「このカフェはそんな悩まれてる方の助けになるための場所です。

よければ私にどうぞお話下さい」


笑みを浮かべるマスターと動揺しているカイのやり取りを横目で見ながら

こんな感じの宗教の勧誘あったなぁ…と唯は遠い目をしつつ店内を掃除していた。



カイは言っていいものかどうかわからずとりあえず出された紅茶に手をつけた。

さっきからいい香りを放つそれが気になってしょうがなかったのだ。

一口含むと途端に広がる香りと味。その初めての感覚にカイは驚き、軽く震えた。


「……美味い」


「それはよかった。今のお客様にはその紅茶がよろしいかと思い、出させていただきました」

先ほどまでとは違う、心の底からの笑みを浮かべたマスターを見て

カイは自分の身体も心を幾分和らいだのを感じた。


本当に助けてくれるとは思っていない。だが、誰にも相談できずこのまま悶々としてるよりは

話すほうが少しは楽になるかもしれない。



そう思ったカイはポツリポツリと自分の事や、想い、悩みをマスターに話していた。




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