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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

夢の底

掲載日:2026/07/20

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 先輩は最近、はっと目が覚める瞬間てないですか?

 私はけっこうありますねえ。それも夢を見ているときに。

 先輩も見たことありませんか? 足元が急に消えて、どっと千尋の谷へ落ちそうになる感覚とともに目覚める……そのような夢を。

 落ちる夢は、続く不安の象徴と占いではみなされることもあります。科学的には夢と現実のはざまにおいて、身体が本当に安全かどうかをチェックしている状態なのだとか。

 その落ちる夢は、たいていは瞬間的な警戒に意識が耐えられずに覚醒してしまいます。おそらくは落ち始めてすぐのところ。どこまで落ちるのか、どこへ落ちるのかは知らない人、多いんじゃないかと個人的には思います。

 その夢の「底」。実は最近に、目にする――というのも、夢の中ですので妙ですが――機会があったんですよ。夢のことを他人に話すのはよくないともいいますが、聞いてみませんか?


 この落ちる夢を、私は昔からよく見ていまして。この落ちた先に何があるのだろうと、ずっと疑問に思っていたんです。

 夢の中は結末にまで至らず、目覚めてしまうことが、ままあるじゃないですか。いいことにせよ、怖いことにせよ、その最終的な結果に及ぶことはなかなかない。せいぜい、「こうなるだろうなあ」と予想がつくレベルくらいでの中断です。

 でも、私はそれで満足できない。オチがつかないとどうしても納得できなくって。例の夢をどうにか最後まで見届けられないかと、頭をひねったわけです。


 いろいろ試してみた結果、落ちる夢を見るのに良いのは、布団の中で膝を折り曲げて足裏を布団にピタッとつけることでした。

 たいてい、布団の中で足を伸ばして眠るものかと思います。足の裏は開放されたものになっているでしょう。

 そこを布団にくっつけることで、地面の感覚とするわけです。身体の状態が夢の状況に影響を及ぼしうることは、先輩も聞いたことがあると思いますよ。水に関する事柄が夢の中に出てきたら、おねしょをしてしまう前触れ……とかですね。

 実際、こうして足をつけていると、落ちる夢を見る確率は高かったですよ。そして、はっと目覚めたときには、折り曲げた足がぴんと伸びている。

 おそらく寝ている間、足の裏がついている間は普通に夢を見ているんですよ。それが、何かの拍子でずるりと足が滑ると、足裏の感覚も急になくなる。

 そうすると、夢の中ではにわかに足元の感覚がなくなったように感じられて、落下する夢へ転じるんじゃないかなと。


 実際、予想はおおよそ当たっていたらしく、落ちる夢を見る確率は格段にあがりました。しかし、そこから目覚めないようにするのはものすごく大変でしたよ。

 先ほども話した、身体のチェック機能。それがどうも強制的な目覚めを怖さと一緒に促すみたいでして。何年ものあいだ、落ちると思ったら目が覚めてしまうの繰り返しでしたよ。

 起きた時は汗をたっぷりかいていますし、心臓もバクバクものです。おそらく、やばいなあというのを感じているのかもしれません。

 でも、ここで退いては望みのものは手に入らない……! と私は挑戦を続けていったわけです。


 何年が過ぎたでしょうか。

 私はそのうち、足がずるりといった瞬間に目覚めるのでなく、落下をしばし味わうことが常になりました。

 私がこのときに見る景色って、共通しているんですよね。まわりがまばらな石柱に囲まれているんです。私が落ちる時も、その柱のてっぺんらしきところから足を踏み外したような景色なんですよ。

 何本かの柱に囲まれながら、私は頭を下にしたままで谷底を見つめながら落ちていきます。これも、すぐにはできることじゃなかったんですよ?

 足元から落ち始めますから、夢の中でみずから身体を折り曲げなくちゃいけなかったんです。現実だと頭のほうが重たいから、自然と頭のほうが下を向きがちという話も聞きますがどのようなんでしょうね?


 ――今回は、けっこう深くに潜れている……!


 私はこのとき、そのように感じていました。

 夢の中は、上から差し込む明るさはありましたが、照らしてくれるのは私の周囲だけ。顔が向かう先は暗闇がうずくまっています。

 周囲の柱たちも、なおそのまま立っていていったい、どこまで続くのだろう……なんて、このときの私は考えていました。


 ですが、そのうち。服を脱いでいくような感触が、ときおり身体中を走るようになります。

 ぐいっと、服を持ち上げて頭から脱ぐような動作。それを無数に繰り返されているんです。意思が入りませんから、はぎとられているといった風が正しいでしょう。

 夢の中の私は、目を向けることができません。体中へ実際に何が起きていたかは分かりません。けれども、落下していく先にあるもの。「底」になにがあるかは分かりましたよ。

 それは、胴体だけの人間でした。

 マネキンの手足と首を取り外した状態、というのが一番違いでしょうか。それらが底へまんべんなく並べられていましてね。

 頭を向けている私は、あわやその中へまっすぐに突っ込む……という瞬間で目が覚めたんです。

 他にも底を見た人がいるかもしれない。同じ景色であるという保証もありません。

 でも、あれらはどうして夢の底にあったのか、いろいろ考えてしまうのですよね。

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