異世界転移してみた
1話
ため息を吐く。
東京にある、とある普通の高校。
なんの変哲もないただの教室で一人の青年『月城 ツバキ』は頬杖をついて自身に向けられている視線に嫌気を感じていた。
興味深そうな視線。蔑まれている視線。心配そうな視線。
それらの好奇な視線がたった一人に向けられていた。
(…やっぱり来るべきじゃなかった)
たくさんの視線に晒されて、嫌なトラウマを刺激されて後悔する。
学期末のテストがあるからと教師に長い期間説得され折れたツバキは学校に来たが、こんな気分になるんだったらやはり来なければよかったと思う。
なんとかそれらを無視して窓の外を見る。
やはりなんの変わりもないただの青空。
強いて言うなら、今日は雲一つない快晴で太陽の光があたたかいくらいだろう。
その光と窓から吹き込むそよ風が心地よくてこのまま寝てしまおうと目を瞑る。
「よ、ツバキ」
そんなツバキに近寄る影が三つ。
影は三つとも、抑えているようだがその顔からは醜悪さが隠せておらず声も嘲りが混ざっている。
「はぁ…せっかく呼ばれたんだからこっち見ろっての」
「いたっ」
頬杖をついていた腕を無理矢理引っ張られてガクンと体勢が崩れたことで痛みが走る。痛みで顔を歪めるツバキを見て、愉悦で顔を歪める三人。
「で、今日はよく来れたな」
「もうお前の顔も忘れかけてた頃だし、見れて良かったよ」
「こんな女々しい名前通りの女らしい顔がな!」
三人の馬鹿にする笑い声がクラス中に伝播して教室が笑いで包まれる。
もはや、ツバキには抵抗する気力なんてない。どれだけ嘲笑されたり、尊厳を踏みにじられたとしても口を開くことはしない。
どれだけ抵抗しても無駄だと理解しているからだ。
だから、ツバキはただただ俯いて悔しい表情すら浮かべず無だけ。
そんな様子が面白いのか、笑い声はより一層大きくなる。
「最近流行りの男の娘ってやつ?ま、ここではそんなのキモいだけだっての」
「今度、夜に街で立ってろよ。もしかたら釣れるかもよ?」
「っ!」
下世話な話に流石に怒りが募り、歯を食いしばり拳を振るわせて睨みつける。
それが、彼らの態度を悪化させる。
あぁ、もういっそこのまま死んでしまいたい…そう人生が嫌になった。
そんな時だった。
クラスメイトが面白おかしく笑っていたせいで、それに気づいていたのはツバキたった一人だった。
(なにあれ?)
なんの変哲もないはずの教室にまったく似合わない、まるでアニメや漫画の魔法陣のようなものが天井に浮かび上がっていた。
その魔法陣らしきものは淡く光を放っていて、次の瞬間には強い光が教室内に広がる。
ーーーーー
「たいっへん!申し訳ありません!!」
「へ?」
光が晴れてようやく目が見えるようになったとき、目の前でダイビング土下座を決める白い少女が一人。
まるで教会のような綺麗な空間に大理石の床。
絵に描いたような豪華で神聖な空間で似合わない態勢の女の子が一人。
「ほんとぉに!私の世界の人間がご迷惑をおかけしてごめんなさい!!」
「いやいやいや、話が見えないんだけど!?」
「えっと…実は、世界を管理する神達の間で別世界から召喚する禁止協定を私の世界のクソ人間が勝手に破りやがりまして、あなた達がこっちの世界に呼ばれてしまったのです…本当に申し訳ありません…」
「えっと…それが事実だとして、俺以外はどこに?」
「…えっと…魂の色を見てあなた以外は黒かったので謝罪はスルーさせていただきました。だってこっちのクソ人間と同じレベルの人間でしたので」
「こわ」
「あなたは綺麗な魂でしたのでこうして直接謝罪させていただきました。重ね重ね申し訳ありません」
白い少女は再び頭を下げる。その勢いが強いせいで床に頭をぶつける。
宥めながら頭を上げるように言うと、本当に申し訳なさそうな表情をしていて額が赤くなっていた。
「別にいいんだけど…俺を元の世界に返すことってできない?」
「それは出来ません…神でも世界と世界を繋げて生き物の移動は難しいですから…」
「そっか…うーん、配信が出来ないのは困るなぁ。リスナーも楽しみにしてるだろうし」
「その配信?のことはよくわからないんですが、特別に元の世界に干渉できるように出来ますがどうされますか?」
「ほんと!?」
「はい。以前までの生活ができるように力をお与えしましょう」
「ありがとう!」
「いえ、これはお詫びですから」
実はツバキは配信者として活動をしている。おまけに登録者六桁以上の。だから急に配信が出来ないのは好きなことだったのもあってちょっと嫌だった。
「それでは、これから下界にお送りしますね」
「あ、できればでいいんだけどあいつらがいない場所に送れない?」
「もちろん大丈夫です!なるべく良い所に送りますね!クソみたいな人間がいない場所に!」
「あはは…」
どうやら異世界の神様は性格の悪い人間が嫌いらしい。
そして、ツバキは再び光に包まれてーー




