三章:消え失せよ、むなしき光 4
深夜でもオフィス街は不夜城だ。どこのビルも照明が付き、夜など知らないとばかりに街を鈍く照らしている。
T3本社の最上階、幹部用の一室。最高級のソファに座るエガリゼは、いましがた来た電話に嘆息し、スマホをテーブルに置いた。
「ルヴェインのご老人方も無理難題ばかりを言う。我々を便利な駒だと勘違いしているんでしょうかね」
エガリゼの眼前、客用ソファに足を組んで座っているペルテテーは無言のまま。
「失礼しました。まずはご苦労様です。クリスタルラインの景久殿が出てきたのは分が悪い。撤退の判断は流石ですよ」
フードを目深に被ったペルテテーの表情は伺い知れない。エガリゼが続ける。
「標的はしばらく地下に潜るでしょう。こうなると次の一手を打つのは難しい。さらに、ルヴェインからはクリスタルラインの嫡男まで殺せと言われる始末です。許可を得たと仰っていましたが、この意味が理解できていないのは正直困りますね」
「オライオン……アッシュ・クリスタルラインも殺せと?」
ペルテテーの反応にエガリゼが苦笑しつつ頷いた。
「絶縁したので好きにしろ、とのことです。この言葉をルヴェインは額面通り受け取ってしまった。愚かの極みですよ」
「あそこは血族経営の会社だよ。なによりも血筋を大事にしてる」
「ご明察。クリスタルラインは動き次第でルヴェインを切るつもりです」
顔を覆ったペルテテーの重い息。
「もう止めたら? ルヴェインに付き合って一緒に沈む気かい?」
「一応ルヴェインは、我々の人材派遣部門のフロント企業トライブリッジのお得意様ですよ。邪険にはできません。支払いも一方的にされてしまいましたからね」
エガリゼは両肘をテーブルに置き、組んだ指に顎を載せる。表情は困ったような微笑み。
「情報がほしいですね。我々だけではない、決定的な情報が。足切りの準備はできていますから」
「ルヴェインを裏切る気?」
「まさか。関係が続けるのが難しい状態になれば、我々としては幸運だということです」
「……今度は何させる気?」
「いくつか質問を。ノーヴェンバーを倒したあなた方にルヴェインを落とせるだけの情報はありますか?」
「あるわけないでしょ。現場の証拠だって持ってない。そもそも口外するつもりだってないんだから」
「それは残念。ですが、気になることがあるんですよ。あなたは狩人としても一流だ。そのあなたの襲撃が標的にバレた。それはなぜ?」
「……疑ってるのかい?」
「いいえ。あなたのスマホから情報が漏れていないことは確認済です」
エガリゼの瞳に気づきの光が宿った。
「しばらく泳がせましょうか。時間が我々を優位にするでしょう」
エガリゼが立ち上がり、窓から眼下を眺める。猥雑に交じり合うこの街は、彼にはとても美しく見えた。
「均等化、それこそが私が成すべきこと。価値がなければ与えればよい、価値を貶めるものは排除する。私はこの街を均等化する」




