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相棒はカンフー童女  作者: ユーカリの木
Fake False Factory
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三章:消え失せよ、むなしき光 1

 コーヒーの香ばしい匂いが喫茶店内に緩やかに広がっていく。一口飲めば、食後で眠くなった脳を覚醒させる。これぞ最高の一杯であると、コーヒー党のハルキは自信をもって言える。


 窓から差し込む陽光がテーブルを照らし、天井扇の回る音と店内のBGMが絡み合って極上の雰囲気を作り上げていく。


「うまいなこれ」


 対面に座るオライオンがコーヒーを嚥下し、感嘆の声を出す。


「だろう? オライオンもコーヒーが分かる口だね」


「高級品の違いが分かるほど舌は良くないさ。だけど残念だな、フェンもペルテテーもこれを味わえないとは」


「仕方ないさ。フェンは昨日遊びすぎて爆睡中。ペルテテーは急な仕事の依頼。男同士で嗜好品を味わうのも悪くないよ」


「フェンにバレたら怒られるな」


「帰りにお菓子でも買ってくよ。これから行く店で散財されるよりはずっといい」


 オライオンの好青年な微笑。店内にいる女性客の視線が彼に集まりつつある。


「フェンのことになると腹黒いなハルキ」


「手綱を握っている、と言ってほしいな。それに、魔杖棍の経緯は昨日話したろう?」


「悪かった。ハルキが正しいな。うん」


 オライオンが空笑いを浮かべる。桁間違いでの散財は、大らかな彼でも驚愕な内容だったらしい。


 しばし男同士の雑談を続ける。たびたび女性客がやって来ては声を掛けられ、丁寧に対応しているところを見ると、オライオンはかなり人ができている。


「モテる男はつらいね」


「ん? 気づいてないのか? ハルキ目当てもいたぞ」


 はて、とハルキは首を傾げる。


「オライオン、君はなにか勘違いしている。僕に女性を落とす魅力はないよ」


「ハルキ、俺もお返ししておこう。ペルテテーへのあの対応が素でできるのは結構なたらしだぞ。あと、鏡はちゃんと見た方がいい」


「失礼な。鏡くらい見てるよ。寝ぐせはないだろう?」


「いや、あー……まあ、いっか」


 行くか、とオライオンが言って伝票を掴むと会計へ向かう。財布を出す間もなく会計を終わらされてしまった。女なら惚れてしまう。


 男二人で路地を歩く。ボン爺の店は大通りに出ればすぐだ。


「悪いね奢ってもらって」


「なに、昨日はフェンに出してもらったからな」


 金銭的な余裕は心の余裕を産むのだろうか。フェンに対する厳しさについて考え直す必要があるのかもしれない。いや、それはないな、とハルキは自己完結する。


「ん、なに笑ってるんだ?」


「いや、フェンに対する教育方針について悩んだんだけど、すぐに辞めたよ」


「竜に対する態度じゃないな……」


「まあ、フェンだからね」


 ああ、とオライオンが遠い目をした。


「竜に対する畏敬や恐怖の念が消えるな」


「フェンはフェンさ。それ以外の何でもないよ」


 まったくだ、とオライオンが明るく笑う。ふと、視線をちらりと後方に向けて言った。


「付けられてる」


「数は分かる?」


「ふたりだな」


「あいにくと心当たりはひとつしかない。オライオン、盗賊にもモテるね」


「どうする?」


「走ってそこを右に曲がって待ち伏せしよう。こういうのは都度撃退した方があと腐れがないからね」


「よし、行くぞ」


 オライオンの合図と共に、ハルキは走る。背後で慌てた声。路地を右に曲がり、ふたりして魔杖装を構える。


 男たちが右折してきた瞬間、オライオンの魔杖剣が閃く。黒服姿の男の首筋に刃が当てられる。


「何者だ……って、やっぱなあ……」


 固まった黒服たちを一瞥したオライオンが、頭をがっくしと落とした。黒服たちの胸には青地に白い剣を模したロゴのバッジ。


「スマホの電源切ったからって、わざわざ社員使って探さなくてもいいだろうに……」


 剣を下げたオライオンが鞘に納める。黒服の一人が申し訳なさそうに頭を下げた。


「ご無礼を申し訳ありません。しかし、CEOがお呼びです。アッシュ様、電話に出ていただけませんか?」


「分かった分かった。いまは忙しい。あとでこちらから掛け直すよ。だから通常業務に戻ってくれ」


「では、私たちはこれで。ご友人と一緒のところ、申し訳ありません」


 再度頭を下げる黒服にオライオンが慌てて言う。


「あー、親父にもしなにか言われたら、バカ息子が言うこと聞かなかったとかなんとか言っておいてくれ」


 黒服たちが去っていく。一度周囲を見やって首を傾げ、オライオンの重いため息。


「オライオン、社員にもモテるね」


「まったくだ、かといってモテすぎも困る」


「さ、ボン爺の店に行こう。今日の君のメインディッシュだ」


 ハルキは歩き出してオライオンを案内する。どうやら彼はフェンと魔杖装談義をするだけあってかなりの好き者らしい。腕のいい整備士と品数が豊富な魔杖装の店を紹介してほしいと言われれば、ボン爺の店一択だ。


 大通りに出てすぐの場所に店はあった。今日は店先に出ていた狸のベスティアが、愛らしい姿で客引きをしていた。


「お、ハルキじゃないか。また拳銃の交換か?」


 ハルキに気づいたボン爺がにこにこ笑顔で声を掛けてきた。相変わらず見た目だけは可愛い。


「僕は魔弾の補充。今日は客の紹介だよ。ボン爺次第で常連になってくれるかもね」


「ほう、ハルキが魔弾補充とは。まさかノーヴェンバーを倒したのは……。ぬ、ほうほうほう、クリスタルラインの嫡男ではないか! ニュースで拝見しておる! 歓迎するぞ! わしの店へようこそ! さあ、中に入りなさい。ご用件はなにかな? 武器の新調? それともカスタムか? このボンになんでも言うといい!」


 熱心な勧誘がいきなり始まった。ハルキとの対応の違いがあまりに露骨だ。これでも先日一千万の買い物をしたのだから、もう少し歓迎してほしいものだ。


 ふたりに付いてハルキも店の中に入る。店内は変わらず猥雑とした空気感だ。どこを見ても魔杖装や、関連の部品ばかりだ。値札に至ってはしばらくは見たくもない。


「ボン爺、魔弾を二箱頼むよ」


「いまVIP様を対応中だ。あとにせい」


 ひどすぎる扱いだ。


 オライオンは棚の品に目を輝かせ、ボン爺はひとつひとつ丁寧に説明をしている。さりげなく高いものを勧めているのはご愛嬌といったところか。


 残念ながら、しばし待ち時間が発生するようだ。

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