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一章:奈落よ奈落よ何故躍る、人の心が分かって恐ろしいのか 7

 街のネオンがケイオス市の北セクターの高層マンションを舐めていく。その上層階の一室、ガラス張りの壁に背を向ける形で男がソファにゆったりと腰かけていた。紺色に白のストライプが入った最高級の背広。胸ポケットには白のスカーフ。絨毯の上に置かれた革靴が、室内灯に照らされ輝いていた。


 若社長といった姿をした男は、腕を肘置きにおいて頬杖をついていた。枝毛のない手入れされた金髪から丸い耳が覗いている。彼はネズミの亜人だった。


 男の青い瞳が向けられているのは液晶テレビだった。画面上では、報道レポーターが奈落上で新たな小奈落が発見されたことを話している。専門家気取りのタレントが、安全なスタジオ上で昨今の小奈落の数について苦言と持論を述べていた。


 男が視線を動かす。テーブルに置かれたスマホが振動を始めた。画面に記された名前を見た男が、一度瞑目してから手に取って耳に押し当てる。昼から度々掛けてきた人物だった。


「何用でしょうか」


「緊急事案だ。あれがバレた」


 電話口から聞こえたのは、狼狽した男の声だ。


 金髪の男は興味がないのか、もう片方の手をかざして爪の表面を眺めはじめる。


「抽象表現では分かりかねます。あれ、とは?」


 電話口の男が焦れたように声を荒げる。


「T3社幹部の君ならば分かるだろう。ルヴェイン社としてはあれが世間に表面化する訳にはいかない」


「いつもの言い訳を考えればよいのでは? あるいは弁護団に金を積めば良いでしょう」


「ユニオンのクリスタルライン系序列二位の我々にはこれ以上企業の顔に傷をつけるわけにはいかない。最悪の場合、ユニオンから切り離される」


「ケイオス市最大の企業連合体ユニオンですか。表向きクリーンな会社は苦労なさっていますね」


 ルヴェイン社の男の語気が上がる。


「我々は君らの会社から多くの人材の派遣を受けている。これは君らにとっても死活問題だと考えてもらいたい」


「だから、何用かと申しているのです。御社と直接取引のあるトライブリッジ社ではなく、私に連絡をしてきた理由を問うているのです」


「本来の君たち向きの仕事依頼だ。あれの発見者を見つけ出し、静かにさせろ」


「もう無駄では? 市が先遣隊を出すでしょう。そのあれとやらはすぐに気づかれるのでは?」


「特別個体の討伐も依頼したい」


「ご冗談を。マフィアは人相手の商売です。アヴェスターは範疇ではありませんね」


 ルヴェイン社の男が黙る。金髪の男は飽きてきたのか、ソファーから立ち上がりケイオス市を眺め始める。


「しばらく泳がせてはいかがです? もしかしたら、その発見者とやらが特別個体を討伐してくれるかもしれません。あるいは……もう。その時はまたご依頼を」


「先遣隊は既に黙らせたが、発見者と特別個体が問題だ」


「おや、お得意の賄賂ですね。ですが、これだけでは我々は動けません。お互いの利益に叶うようになれば教えて下さい。ではまた、ご機嫌よう」


 金髪の男は電話を切ってスマホをスラックスのポケットにしまった。


「相変わらず腐った街ですね。傾いた天秤を正すのはそう遠くはなさそうでしょう。ああ、処分の準備もしなくては」


 くつくつと笑う男の眼下では、人々が蟻のように動いていた。



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