#29:"心"の意味
本日の投稿、最後となる#29です!
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明日も、お付き合い、よろしくお願い致します!
【前話のあらすじ:アリスから三日の自由をもらうために、アリスの部屋を訪れたルーク。思いの外、すんなり認められ、ルークは少し戸惑いを覚えるのであった....】
アリスの部屋から出て、隣のシンシアの部屋に向かう。
シンシアはいなかった。
庭の方か.....??
ルークは庭に向かおうと、長い廊下を、物音一つ立てずに進んでいた。
高い天井には、豪華なシャンデリアが並び、まだ火の灯っていない冷たいガラスが朝光を反射していた。
豪華な絨毯が足音を完璧に吸い込み、壁に並ぶ肖像画が、無能を演じ続ける少年の背中を、薄笑いを浮かべて見つめているようだった。
彼らは皆、自らの力を誇示し、権威を嵩に生きた男たちだ。
(俺のような「隠伏する強者」など、貴様らの理解の範疇を超えているのだ....)
ルークは内心でせせら笑った。
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角を曲がったところに、シンシアの姿があった。
彼女は、音もなく彼の傍らに並んだ。
シンシアは、ルークが「無能」の仮面を被った真の”怪物”であることを知る数少ない証人であった。
ルークは、シンシアの実力を高く評価し、その揺るぎない忠誠を信じていた。
しかし、その信頼は、あくまで「主と従者」というものにおいてであり、それは、ルークとシンシアのそれぞれの”善意”により成り立っていた。
シンシアの想いは別として、そこに、ルークの想いは介在しない。
端的に言えば、ルークはシンシアに対して、信頼はすれど、信用はしていないということであった。
そして、それこそが、ルークが自身が実力を隠しているという秘密を共有し、リーシャのために動くという目的を共有しない理由でもあった。
隣を歩くシンシアはなんだかうれしそうに見えた。
肩が上下に小刻みに揺れ、なにやら、鼻歌交じりの言葉が次々と口からあふれ出ていた。
そんなシンシアを横目で見ながら、ルークは、一呼吸置いて、淡々と告げた。
「シンシア。俺は、アリス様から三日の”任務”をいただいた。アリス様のご満足するモノを探さなければならない.....」
「そうなんですかっ!……シンシアもっ....シンシアも一緒に行きますっ!!」
シンシアは、元気よく声を張り上げた。
シンシアは当然の如く、ついていくつもりであった。
それが、ルークの従者としての務めであり、それ以上に、ルークのそばにいることが楽しかったからだ。
ルークが何と言おうと、ルークが自分をどう思おうと、自分はルークのことが好きだったし、唯一の秘密を共有した者として、特別な存在だと信じていた。
しかし、ルークの返答は、彼女の期待を真っ向から否定するものであった。そしてそれは、ことさら、突き放すような冷たさを帯びていた。
「……いや。シンシア、お前は連れて行かない。この三日間、お前は俺の側を完全に離れろ」
シンシアの足が、凍りついたように止まる。
廊下の温度が、数度下がったかのような錯覚を覚えるほどの沈黙が流れる。
シンシアの瞳から、戸惑いと、拒絶されたことへの、微かな痛みが大粒の涙となってあふれ出ていた。
シンシアは涙をふくと、泣かないためか、ゆっくりと、一音一音確かめるように言った。
「……わ....私の......何が.....ダメ....でしたか....?……」
「ダメではない。お前の実力は、俺が一番よく知っている。……だが、俺は今回、グランジニアスの本邸に戻らなければならない.....アリス様の満足するモノはそこにある気がしてな......お前がいては、父や兄もお前の有能さに気づくだろう....それを避けたいだけだ....」
ルークの声は冷静に言った。
それは、半分は事実であり、半分は明白な「嘘」だった。
ルークがシンシアを遠ざける真の理由は、これから密会する人物—―ロゼリア・ラピスとの関係を、そして彼女と共有している「個人的な情熱」を、誰にも、例え最も信頼する従者にさえも知られたくないからだった。
ロゼリアとルークを繋ぐのは、「リーシャ」という、ルークの魂の核を構成する、最も純粋で、最も大切な秘密であった。
それはルークにとって、理性の外側にある、聖域であり呪いでもあった。
シンシアはルークの驚異的な実力は熟知していたが、彼の根源的な目的であり、狂気の原動力でもあるリーシャへの想いまでは、把握していなかった。
ルークにとって、シンシアは「秘密の共有者」ではあるが、自らの心の、最も柔らかく脆い部分を曝け出せる「信用」の対象ではなかったのだ。
「……お前も、たまには羽を伸ばすといい....そうだな、『ベリー・ナイス―・ストアー』のブルドグのところにでも顔を出してこい。ブルドグも寂しがっているだろうしな.....」
シンシアは、何も言えなかった。
それは、ルークが初めてシンシアに見せた壁だった。
シンシアは、ルークと過ごして、なんとなくわかっていた。
それは直感と言った方が正しいかもしれない。
ルーク様はきっと私に背を預けても、心は預けてくれないのではないか。
そう思ったことは何度もあった。それでも、それを口にすることはできなかった。
それを聞いてしまえば、ルーク様は、私に背を預けなくなるばかりか、背を向けるだろう、そんな予感がした。
それでも、今、この時は、聞かなければならないと思った。
きっと、ここで聞かなければ、私はルーク様の従者で終わってしまうから。
「ルーク様.....私のこと、どう思ってらっしゃいますか?」
ルーク様は、「どう」の意味について聞かなかった。あえて、聞かないようにしたのだと思う。
「俺はお前を最も信頼している」 そう言われた。
私は、軽く会釈して自分の部屋に戻った。
ルーク様を憎いとは思わないし、ひどいとも思わない。
自分で始めた恋が、勝手に終わっただけ....そう思っても、少し涙が出てきた。
恋が実らなかったからではない。ただ、ルーク様に質問したことを後悔していた。
いつもそうだった。いらないところでいらないことをして、必要な時に必要なことができない。
踏み込むべきじゃなかった。けれど、私がもっと頑張って、もっともっと頑張ったら、ルーク様がいつか、自分から話してくれるだろうか....
それを信じて頑張ろう。ずっとルーク様のそばにいよう。そう決めたのは、他でもない私自身だから。
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王都の華やかな中央通り。
そこには、宝石店や高級ブティックが軒を連ね、煌びやかな馬車が行き交う。
だが、そこから数ブロック離れ、迷路のように入り組んだ貧民街の先へ進むと、空気は一変する。
石畳が剥がれ、常に淀んだ水の臭いが漂う裏路地の突き当たりに、その店はあった。
建物の外壁は煤け、窓は厚いカーテンで閉ざされ、一見すればただの打ち捨てられた廃屋のように見える。
しかし、その重厚なオーク材の扉の奥には、王宮の広間をも凌駕するほどの贅を尽くした内装と、世界各地から取り寄せられた最高級の料理を提供する、知る人ぞ知る名店がある。
ここは、真の権力者たちが、その素性を隠して密談を交わすための場所であった。
ルークはその店の一番奥、分厚い壁に囲まれた個室で、芳醇なヴィンテージ・葡萄酒の香りに包まれながら、一人の少女と向かい合っていた。
卓上には、見事な銀器が並び、ランプの灯りが柔らかい影を壁に投げかけている。
そこには、既にロゼリアの姿があった。
「……すまない、ロゼリア...少し遅れた...」
「……別にいいわよ」
ロゼリアは、そう言うと、艶やかな微笑みを向けた。
「こっちよ」そう言って、ロゼリアはルークを奥へと誘った。
【お読みいただきありがとうございました!】
「ここをもっと詳しく知りたい!」「このキャラが好き!」などの感想、いただけると嬉しいです!
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今の二言:「ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!次話は、ついに、ロゼリアとの会合...!!」
一応、明日は6時くらいを目標に投稿を始めようかと思っております!!
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』
【戦×無双×成り上がり×領地経営×魔法】 → 成り上がり無双譚です!
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