表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/32

#28:令嬢の想い

評価・ブックマーク等、ありがとうございます!執筆の励みになります!

引き続き、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

【前話のあらすじ:ついに、グレイとリードを討ち、ファビウス家を滅亡させたルーク。しかし、ルークの胸中には、複雑な心境が渦巻いていた...】

東の空が白み始め、夜の重たい沈黙が徐々に朝の冷ややかな空気へと溶け出していく。  

ルークは闇魔法(極級)『漆黒瞬遷(ヴォイド・シフト)』を発動させる。

亜空間魔法を使ってもよかったが、食糧やアイテムを入れている場所に、死体を入れるのはなんだか気味が悪かった。

ルークのそばの円陣から黒い靄が溢れ出し、生き物のような律動を刻みながらリードの遺体を足先から飲み込んでいく。

ルークは、リードが吸い込まれると、自身の魔力や血痕を隠蔽(極級)で隠蔽した。

グレイ、ディラン、プルーも同じように処理した。

ルークは、処理が完了すると、一人、彷徨いの森へと向かった。

無論、死体をそこに捨てるためである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

結局、ルークがルーファウス邸に帰ってきたのは、明朝3時頃になっていた。

――「迷い続けてこそ人なのだ」。  

その言葉は、ルークがこれまで積み上げてきた合理性と氷のような冷徹な計算を、根底から揺さぶるような響きを持っていた。

もし、迷うことが人間であることの証左なのだとしたら、今、この瞬間に胸を去来する説明のつかない焦燥感や、指先に残る微かな震えこそが、自分に残されたわずかな「人間性」だというのだろうか。

「下らない.....そんなもののために、俺はここまで歩んできたわけではない。迷いは弱さだ。そして弱さは、護るべきものを失う要因となる。俺に迷う権利など、最初から与えられていないのだ」  

ルークはフッと、夜の残滓を払うような自嘲の笑みをこぼした。

心の底ではわかっていた。迷いは時に弱さとなるのは事実。されど、時に強さとなるのもまた事実。

迷って選択を焦るくらいなら、迷いながら進めばいい。後先を考えずに、今をどうするか、それだけを考えてはどうか?

そう、グレイは言ったのだ。

そして、今、考えるべきは、如何にしてアリスから自由を得るかということだった。

ロゼリアに会うためだった。

ロゼリアはラピス家の次女であり、家督争いに巻き込まれていることをルークは知っていた。

そのロゼリアから「今日」とだけ伝言が来たのだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ルークはアリスの部屋の前まで来ると、軽く戸を叩く。

「入っていいわよ」アリスの淡々とした声が響く。

ルークがアリスの寝所へと足を踏み入れたとき、そこに昨日までのアリスの姿はなかった。 部屋にはまだ、夜の帳を惜しむような薄暗さが漂っていたが、アリスは、机に向かっていた。  

背筋を凛と伸ばして、何かを呟いている。魔法書を読んでいるようだった。

豪奢な天蓋付きベッドは、そのままになっていた。

アリスは一睡もしていないようだった。

窓から差し込む、微かな朝の光が、彼女の銀色の髪を鈍く輝かせていた。


「……何用かしら、ルーク。私は見ての通り、忙しいの。要件は手短に済ませて頂戴」

アリスの態度にルークは少し驚いていた。落ち込んでいると思っていたわけではないが、それでも、随分、冷たい物言いをしたと思っていたからだ。

アリスが黙っているルークを一瞥すると、挑発するように言った。

「夜風は、貴方の心を少しは冷やしてくれたかしら? それとも、さらに激しく、その奥にある『何か』を燃え上がらせてしまったかしら?」  

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

彼女は一晩中、ルークが語った「おとぎ話」の意味を反芻していた。

ルークは言わなかったが、アリスにはわかっていた。

おとぎ話の騎士は、実力を隠していると。

きっと、実力を隠しているのは、今まで彼が多くのものを奪われてきた結果なのだと思った。

昔からそうだった。皆、本当の私を見ないうえに、本当の自分を見せてこなかった。

偽りの者同士の馴れ合い。

きっと、ルークもその(たち)なのだと、昨晩、思った。


なぜ、ルーク・グランジニアスという男が、実力を隠し、嘲笑の対象たる「無能の四男」を演じてまで自分の側にいるのか。

彼が何を恐れ、何を護ろうとしているのか。

その答えはわからなかった。

それを判断するには、あまりにも自分はルークを突き放しすぎたし、自分の心を偽り過ぎた。

だから、昨晩、ルークのたとえ話を聞いて、はっきりと自覚させられた。

私はこの人が好きなんだ。ルークのことが好きなんだ。

それが痛いほどわかった。

ルークのたとえ話は、自分の心を破壊するのに十分すぎる威力を持っていた。

泣きそうになった。叫びそうになった。

自分は、ルークとは結ばれない。それが真実であり、変わりようのない運命だとわかった。

きっと、私は利用されているだけ。

ルークは私自身を求めているのではなく、私の価値を求めている、それが身に染みて理解できた。

でも、それでも、諦められなかった。

期待しすぎたからかもしれない。ルークは今までの人たちとは違うと。

ルークに認められたかった。ルークに自分を好きでいてほしかった。

部屋に籠って、ただ机に突っ伏した。

何もかも忘れたかった。

鳥が夜空を飛んでいた。

優雅でもなかったし、速いわけでもなかった。けれど、懸命に羽をはばたかせているように見えた。

なんだか、自分がクヨクヨしていたのが情けなくなった。

(私はアリス・ルーファウスよ........!ルークを国相手に護れない程度の力で、ルークの心を掴もうなんて、図々しいにも程があるわ.....。私は強くなる.....!彼が、彼であることを許される世界を、私の手で創ってみせるわ.....!それを手に入れるまでは、私は告白しないわ....!それは甘えに過ぎないもの.......ルーク、見てなさい!その時は、きっと、貴方も貴方の背負っているものも、すべて、手に入れて見せるわ!)


彼女はいわば「天才」だった。

彼女は生まれた時から、なんでもできた。才能があった。

周囲は、自分の才能の前に、匙を投げた。

「お嬢様は勉強する必要はありません」皆が口を揃えて言った。

でも、それでは、目的を達することはできないと悟った。

まずは魔法ね。誰も教えてくれないのだもの。自分でやり遂げてみせるわ....!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ルークは魔法書に目を走らせるアリスにおずおずと言った。

「……アリス様。実は、三日の休暇を頂きたいのですが……」  

ルークは、いつもの「怯える四男」としての仮面を半分被り、卑屈な微笑を浮かべながら様子を伺うように切り出した。

身体をわずかに丸め、視線を泳がせ、無害な存在であることを全身で演出する。  

アリスはその言葉を、春の陽だまりのような、それでいて冬の氷原のような静謐さを湛えた微笑みで遮った。

「ええ、分かっているわ、ルーク。それと、私の前では、無理に演技をしなくてもいいわ。…勿論、したいなら、してもいいわ…上下関係は崩さないでほしいものだけど....まあ...貴方の望む三日間の自由は認めるわ……ちゃんと戻ってくれば、文句はないわ....監視の者も手を引かせるわ....」  

そう言うと、アリスは机の上に置かれた、王家の紋章が刻まれた数枚の羊皮紙を指し示した。

「父上を通じて、陛下に、貴方を私の個人的な特使として、王都の外へ緊急の使いに出すと伝えてあるわ。内容については『私の個人的な趣味に関する秘密の蒐集』。父上は私の我儘には慣れていらっしゃるから、深く追及はしてこないわ。公的な書状も、私の印章をもって既に作成済みよ。グランジニアス家の方にも、私から正式な伝令を送らせたわ。休暇ではなく、王女の命による公務としてね」  

アリスの声には、迷いがなかった。

彼女は自らの手で、ルークが自由に動くための完璧な舞台を構築したのだ。

「だから、今後三日間、誰も貴方の不在を不審には思わないし、王国の騎士も、公爵家の密偵も、貴方を追うことは決してないわ。貴方は、完璧な『透明な存在』として、望む場所へ行き、望むことを成し遂げられるはずよ、これで満足かしら?」

ルークは、わずかに眉を動かした。

アリスの善意の裏に隠された真意が掴めなかった。

「アリス様の差配に感謝いたします……そ...その....これほどまでにしていただく理由が、私には分かりかねるのですが.....」

「理由? ……ふふ、そうね。……私から貴方への先行投資だと思っておきなさい。貴方が戦うように、私はここで、私自身との戦いを始めるわ。私はもう、今までの私じゃないわ」

アリスは少し、間を開けると、ルークに告げた。

「他意はないわ……貴方は、貴方の信じる道を行きなさい。……私の中では、貴方は永遠に「無能」よ.....」

ルークは、言葉を失い、ただ深々と頭を下げた。

部屋を出ようとするルークに、アリスが短く、言葉をかけた。

「自由だからといって、あまり調子に乗らないでほしいものね.....それと....そう、一応、女と会うときは私に報告してくれるかしら?」

「あ...あの...アリス様、それはどういう意味で...??」

ルークがそう言い終わるか終わらないかのうちに、アリスが風魔法を飛ばしてくる。

「どわっぁぁぁ...!」ルークは扉を突き破って、壁に激突する。 

扉は、ルークの特別仕様のせいか、すぐに修復された。

「貴方は私の護衛よ!立場を弁えなさい!命令できるのも質問できるのも私だけなのよ!」

アリスの声が扉の向こうから聞こえた。

(ったく...意味が分からん....ま、元のアリスに戻ったってことだな....)

ルークは立ち上がると、シンシアの部屋へゆっくりと歩き出した。


【お読みいただきありがとうございます!】

次話は、あの令嬢と....!

~高評価やブックマーク、感想等いただけるとありがたいです!~ 

「今の二言:アリス様のメンタルの強さを尊敬しながら、執筆をしていました。筆者にそこまでのメンタルはない気がします(笑)......原作から変えすぎて、もはや、原作知識が役に立っていないのではないか...と思われるルークですが、原作を知っているがゆえに、点と点が線になることも実は....それにしても、壁に激突させるのは、新手(荒手)の壁ドンなんでしょうか....??と筆者は一人で執筆しながら、爆笑してました.....粗末なネタで申し訳ない.....」

――――――――【他作品も全力執筆中!】

更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!

・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』

【戦×無双×成り上がり×領地経営×魔法】 → 成り上がり無双譚です!

・『【武の極致】と【フェンリル】の力を以て、三つの世界で覇者となった俺』

【戦×無双×成長】 →天下を争う軍記モノです!※後々、魔法や異世界系に変わっていきます!

・『頑張らない「俺」と頑張り過ぎた「君」の「影」の契約』

【現代×恋愛×成長】 → 世の息苦しさを抱える高校生の現代恋愛モノです!

・『自分』と『推し』のために暗躍する無能(偽)な護衛

【無双×悪役令嬢×暗躍×チート×恋愛】 → 悪役令嬢の護衛でありながら、別の「推し令嬢」を救うために裏で無双する暗躍劇です!

⇧※本作です。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ