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#20:過去の断罪

「……そうか。……ファビウス家は、そこまで踏み込んでいたか....」

(.....やはり、原作とは展開が変わっている......原作を上回る速さで、リーシャが壊されようとしている………俺が、この世界で唯一『救いたい』と思った光を……)

「ロゼリア。……俺は、今この場、この瞬間に、ファビウス家を潰すことを決めた.....」

「今すぐ!? ….そんなの無理よ……だいたい、どうやって……。彼らは王家とも繋がっているし、証拠も何もないわ……」

「確かに、一気には無理だが、ある程度、潰すことはできる.....それに証拠は俺が持っている。聖夜のオールデン家の刺客共は、俺の手の中にいるからな.....」

「なんですって!!そう.....リーシャの言ってた”影”は貴方なのね......」

「ああ、そうだ....リーシャには、このこと....」

「わかってるわよ。......でも、こういうことを言うのは変だけど、貴方がリーシャを救う理由がわからないわ....体目当てでもなさそうだし....利権目的も違う.....一体なんなのかしら....?」

ルークは微かに微笑んだ。

「俺にもよくわからない........俺は、自分の過去を超えたかった。自分の未来を変えたかった。それをきっと、リーシャで果たしたいだけだと思う....ふっ.......俺も結局は、利己主義だな....」

ルークが自嘲気味に呟く。

「そんなことないわ。私にはよくわからないけど、それって利己主義じゃないと思うわ。......過去や未来って、”利”に属するのかしら?....」

ロゼリアは、何かを悟ったような笑みを漏らした。

ルークは少し、目を閉じた。

色々なことが甦ってくる。

この世界に転生して、何のために生きてきたのか、そんなことを考える。

答えは出なかった。それは、きっと過去や未来がまだ、蓄積される余地があるからだろうと思う。


ルークは目を開けると、指を鳴らした。  

庭園の右隅に、漆黒のポータルが浮かび、その中から、数人の男たちの死体が無造作に投げ出された。

彼らは、聖夜にオールデン家を襲った刺客たちであった。


王宮の大広間では、いまだに大人たちが醜い言い争いを続けていた。  

「さあ、始めようか。……」

 ルークの声が、冷たい夜の闇に吸い込まれていった。


「—―っ! ああああああああああっ!! 誰か、誰か来てくださいっ!!」  

王宮の奥深く、静寂を守るはずの庭園の方向から、空気を引き裂くような、狂乱の叫び声が響き渡った。 

それは、夜の散策を楽しんでいたはずの、第二王女シャルロッテ・ルーファウスの声だった。  

会場の音楽が、音を立てて止まる。  

貴族たちは、顔を見合わせ、不安と好奇心に突き動かされて窓際やバルコニーへと顔を出した。

バラが咲き誇り、月明かりが美しく注いでいたはずの庭園の中央。  

そこには、天から降ってきたかのように、十体の「新鮮な死体」が、無造作に、そして積み重なるようにして転がっていた。

シャルロッテ王女は、腰を抜かし、自身の豪華なドレスが血に染まるのも構わず、震える指でその惨状を指差していた。

現王、ベルジット・ルーファウス王は、近衛騎士団を引き連れて、大広間から庭園へと足を運んだ。

王の顔は、かつてないほどの激憤に燃えていた。

それもそのはず、王宮の庭に刺客の死体があるということは、ベルジット王の首すらも獲ろうと思えばいつでも獲れることを示していたからだ。


「……!! 予の聖域を、このような穢れたもので汚す不届き者は誰だ!」

エルトランド・オールデンが一歩前に進み出る。

「陛下、この刺客共は、聖夜の日に我が家門に押し入った者どもです。ファビウス家の者だと名乗っておりました....」

エルトランドは、どうやら、グランジニアス家やシェイドラン家が関わりあることについては、確証がもてなかったからであろうか、口にしなかった。

ゲイルとムガルが、下卑た安堵の表情を浮かべている。


「……ファビウスだと……ダリオス・ファビウス! これを、どう説明するつもりだ!」  王の怒号が、夜の王宮を震わせた。

 

ダリオスは、顔を蒼白にさせ、ガタガタと膝を震わせながら、王の前へと這いつくばった。

「……へ、陛下! これは罠です! 陰謀です! 死体が、王家に突如現れるなど、ありえませぬ! しかも、これほど都合よく我が家の者だとわかるなど……! 我らは嵌められたのです! 誰かが、我が家門の名を貶めるために、あえてこのような真似を!」

「……黙れ!」  王の怒りは収まらなかった。彼は自身の首が獲られるという可能性を一刻も早く、目に見える形で否定したいようだった。

「ダリオス殿、往生際が悪いですよ」  ムガルが、冷徹な追撃を加えた。

「……刺客を送り込んだこと自体は、先ほど自ら認めていたではないか。……その刺客たちが、任務に失敗し、王宮の結界を抜けてここで果てた……。それとも何か? この数十の遺体を、誰かがどこかから運び込んだとでも? それこそ、お伽話の聞きすぎであろう....?」

ムガルが自身が追及を逃れたからか、嘲笑を浮かべている。


「陛下、我が家門ではありませぬ! グランジニアス家とシェイドラン家、貴様らぁっ! 貴様らがやったんだろぉ!」  

ダリオスが、泡を吹かんばかりの勢いで抗議する。

「……陛下! 刺客を我らが送ったにしても、その刺客をわざわざ、王家の庭に残す理由は何ですか!? 我らに何の得があるというのです! 殺した後に遺体を片付けず、わざわざ家紋を見せびらかすような真似、正気ならいたしませぬ! 断じて、ありえませぬ! 我らは、嵌められたのです!」

しかし、既に大勢は決まっていた。

「……そちらも併せて調査しよう」  

ベルジット王は、氷のような低い声で答えた。

「……だが、ダリオス。事実は事実だ。……騎士たちの中には、こやつらの姿をファビウス家の練兵場や、王都で見かけたことがある者も複数おる。……火のない所に煙は立たぬと言う。……王家の庭園を、あろうことか私兵の死体で汚した罪、そして他家を襲撃しようとした企て。……もはや、言い逃れはできん....」

「陛下! お聞きください!」

「黙れと言っている! —―沙汰を言い渡す! ファビウス家当主ダリオス、ならびにその一族! ……王宮汚損罪、不法武装蜂起の嫌疑、ならびに王家への不敬。……これらにより、ファビウス家に対し、向こう十年の納税額を三倍とする! ……さらに、王都からの一ヶ月の外出禁止、および一族全員の無期限の謹慎を命ずる。……反抗するようであれば、その首、今ここで予が刎ねてくれる!」

「……あ、ああ……」  ダリオスは、崩れ落ちた。

三倍の納税額。それは実質的な家門の財政破綻を意味していた。

無論、ファビウス家にそれを払い続ける力はあったが、それは同時に、自身の派閥の貴族への求心力を失うということでもあった。

そしてそれは、四大家門として、貴族として、その権威を失うということに他ならなかった。


ファビウス家が誇っていた、名誉も、力も、富も、そのすべてがこの夜、塵となって消えたのであった。

「……グランジニアス……シェイドラン……貴様らぁぁ! 地獄で待っていろ! この恨み、必ずや……!」  

衛兵たちに引きずられるようにして、ダリオスの叫び声は夜の闇に吸い込まれていった。

 

その光景を、ルークは物陰から眺めていた。

(あとは、ファビウス家を文字通り、滅するだけだろう....俺が手を下すまでもなく、他の四大家門がファビウス家を潰しに行くはずだ....弱みを握られている家門に刃を向けたのだからな....)


会場の貴族たちは、凄まじい「断罪劇」の興奮に酔いしれ、あるいは明日は我が身かと震えながら、ざわめき続けていた。  

だが、ベルジット王が再び壇上に立ち、静かに手を挙げると、会場は墓場のような静寂に包まれた。

「……今夜の宴は、これで終わりだ。……皆、自らの家門に戻り、自らの襟を正せ。……王家の目は、常に光っていることを忘れるな」

(まったく....巨悪の元凶は、ベルジット、お前であろうに....よくも、まあ、しゃあしゃあと.....)

ルークは、グランジニアス家の馬車へと向かう足取りの中で、冷たい風を頬に受けた。  

ルークは、暗黒の月光に照らされ、この世で最も冷酷な笑みを浮かべていた。


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