#11:影の殲滅
投稿が遅くなってすみません....更新頻度上げて参ります....!
末永くお付き合いいただければ、幸いです~~
他作品も、更新頻度・投稿速度上げて参りますので、そちらもよろしければ....
ルークは、冬の澄み切った大気を切り裂き、王都郊外に広大な敷地を構えるオールデン伯爵邸へと降り立った。
聖夜というのは、いわゆる”クリスマス”と同じである。
国中が、讃美歌を流し、”ツリー”を出し、(雷魔法の威力を下げた光りで)”ライトアップ”を施している。
この”利己主義国家”でも、この日だけは、ここぞとばかりに、民衆の機嫌を取りにいく。
やはり、王族と言えど、神の祟りが怖いのであろうか?とにかく、この日だけは、ひもじい思いをしていた民衆も自由を獲得し、歌い、踊り、遊ぶのであった。
しかし、このオールデン家には、”ツリー”が出され、”ライトアップ”が施されているものの、人っ子一人、見当たらなかった。
誰の声も、何の音も聞こえてこなかった。
凍てつく夜風が、彼の頬を容赦なく叩き続ける。
(まさか....間に合わなかったのか....)
ルークは、瞬時に鑑定(極級)を発動させる。
【鑑定結果:刺客・人質の位置は大広間。刺客の人数は十名。オールデン伯爵夫妻は無事】
(ふぅ....)
ルークは安堵する。
しかし、その一方で、刺客の到着がルークの想定よりも早かった。
魔族の仕業に見せかけて、リーシャの両親を殺害したというのが、原作での設定だった。
それゆえに、ルークはてっきり、魔族が市井に出た後で、リーシャの両親が殺害されるものと思い込んでいた。
魔族が市井に出る前、集合していた教会で討伐したため、余裕で間に合うと高をくくっていたのだ。
(慢心した....!!....すぐに、行動しなければ.....)
とはいえ、今回は、先の魔族殲滅とは違い、姿を隠す必要があった。
人質が刺客と共にいるためであった。
ルークは隠蔽(極級)『暗影化身』を発動する。
彼の肉体は、瞬時に影のように消え失せ、代わりに、影がより濃く、はっきり表れる。
まるで、質量が霧散し、そこに在るはずの肉体が平面的な漆黒へと溶けていくかのようだった。
すなわち、実体としてのルークはこの場から消失し、地面に影だけが浮かび上がったわけである。
さて、なぜ、これほどまでに回りくどい偽装を施したのか。
それは、この国に伝わる古い、しかし極めて強力な「信仰」を利用するためであった。
この王国には、建国王アルキス・ルーファウスの『自叙伝』やら『英雄譚』などに登場する、『七聖剣』の伝承が存在する。
その中の一つ、影の聖剣『虚影終焉剣』の伝承。
「災厄は光を喰らい、影を恐れる。影は光より多く喰らわん。影を司る聖剣、虚影終焉剣なり。影の濃き者にその資格あり。虚影終焉剣、影なる者を好み、姿ある者に応えず。災厄を討ちし時、姿現すは影武者のみ」
ここで、少し、『七聖剣の伝承』について説明しておこう。
まず、その伝承は、すべて、捏造された英雄譚である。
言い換えれば、歴代の王たちが権威を誇示するために書き連ねた虚飾の歴史とも言える。
とはいえ、実際のところ、虚影終焉剣を含む、『七聖剣の伝承』を信じ、七聖剣を手に入れるために、冒険者になる者もいるくらいであるが、そのような冒険者も、いつしか、権力と名声に染まっていき、『伝承』の存在を追い求めた”初心”さえ、忘れていく。
それはなぜか。 理由は単純である。
実際には、そんな伝承は、先に書き連ねた通り、”虚飾”であるため、聖剣なんぞ見つかるはずがないからである。
そしていつしか、見つからない物を探すことをやめ、権力や名声といった、甘美なものに情熱を注いでいくのである。
さて、もう一つ、『聖剣があったら』、という仮定の話をしておこう。
異世界系?小説や異世界系?ゲームにおいて、聖剣というのは、選ばれし勇者が持ち、魔王を唯一、倒せる武器であるなどという設定があったりする。
しかし、この世界においては、”ルーク”にとっては、”これでしか倒せない”などという魔物や魔族は存在しない。
無論、種族によって、武術や魔法スキルに適正の差や相性の差があるように、魔物や魔族によって、相性の良い武術や魔法スキルは存在する。
例えば、”死霊系”の魔物。
彼ら?は最も聖魔法への耐性が低く、他魔法や他武術に対してはとても高い耐性を持つ。
ゆえに、この世界では、一般的に、”死霊系”の魔物は、聖魔法でのみ、討伐可能であるという”常識”が存在する。
それゆえに、”教会”という組織が、信仰の対象となり、”死霊系”の魔物が現れるたびに、教会の聖職者が出張っていき、討伐するのである。
とはいえ、“死霊系”の魔物にも、魔力核が存在する。
ゆえに、他魔法や他武術でも、極めれば、魔力核の破壊は可能であった。
しかし、この世界では、”常識”というものが信じられているし、それ以上に、スキルが比類なき”才能”と飽くなき”努力”によってなされると信じる、この世界では、”極める”という概念や”悟る”という概念が存在しないため、ルークの”常識”は”非常識”ではあった。
さて、話を戻して、『七聖剣の伝承』というのは、各国、すなわち、このルーファウス王国だけでなく、他の四国にも存在する。
そして、なぜか、各国の王の祖は、皆、魔王を倒すために、聖剣を振るったと伝えられているが、魔王が四体も現れては、流石にその信憑性を疑ってしまうのがルークの”常識”なのだが、この世界の民衆は、ルークにとっては”非常識”であった。
とにもかくにも、民衆は、各国の王の祖の時代を「激動の時代」などともてはやし、魔王が四体も同時期にいたと信じている。
しかし、その眉唾物の『聖剣の伝承』が、今回に限っては、ルークにとって、プラスにはたらくわけである。
すなわち、この聖剣の伝承、特に、『虚影終焉剣』を利用することで、自身の姿を隠したうえで、刺客を殲滅でき、かつ、その結果を、人質の方々が都合よく解釈してくれると考えたわけである。
そう、誰も聖剣の姿を見た者はいない。
ゆえに、今宵、その「嘘」に実体を与え、伝説を演じきればいいのだ。
(さて、死神の出番だ....)
ルーク(影)は、床を滑る黒い染みと化し、屋敷の隙間を潜り抜けて大広間へと至った。
ルークは、隠蔽(極級)『虚蔽陣』を発動させる。
(失敗するわけにはいかない.....慎重に慎重を期さなければ.....)
というのも、原作ゲームにおいても、オールデン伯爵夫妻の死は、ファビウス家の陰謀まで含めて、すべて”字幕”で語られる。
ゆえに、その詳細は、ルークも知らなかったのである。
大広間の中央。
豪華なシャンデリアの光の下、オールデン伯爵夫妻ら数十名が縄で縛られていた。
彼らを取り囲む刺客たちは、いずれも熟練の手練れのようだった。
オールデン伯爵夫妻らを捕えた後も、足音一つ立てず、その立ち姿に一分の隙も見えなかった。
ルークは、中央のリーダーと思しき男を対象に鑑定(極級)を発動させた。
男は、鑑定されたことに気づいていないようだった。
【鑑定結果:対象名「カジャス」。ファビウス家直属 暗殺組織『影の鴉』の第三位。暗殺技能、火魔法に精通。残忍性は極めて高い】
(やはり、ファビウス家か....)
それにしても、『影の鴉』という暗殺集団は原作にも存在しなかった。
原作でのルークと行動が違うことを確かめる術がないので、何が原因で変わったのか、あるいは、ルークが知らなかっただけで、変わっていないのかはわからなかった。
カジャスが、悦に入ったような声で喋りだす。
「いやぁ、かわいそうに……こんな聖夜の日に、一家、皆様、焼身自殺されるだなんて……」
「貴様……! よくもこのような暴挙を……!」
オールデン伯爵の叫びが広間に虚しく響く。
「そう、怒りなさるなぁ! これは、何もファビウス家の独断ってわけじゃぁないんだぜぇ! グランジニアス家にシェイドラン家も認めてるんだぜぇ!」
「な……なんだと!!....そんなことをして....貴様ら....ただで済むとでも思っているのか...!!」
それは、ルークにとっても、「なんだと!!」であった。
(初耳だ……。家門全体が認めているだと? 嘘か、それとも俺の知らない裏取引があったのか.....どちらにせよ、面倒だな.....)
もし、これが事実なら、リーシャの両親を救ったとしても、グランジニアス家—―ひいてはルークへの憎悪は決定的なものになる。
すなわち、リーシャに初めて会った時の、第一印象は”詰み”から始まるのだ。
(ちっ...!やるしかないな...!)
ルークは瞬時に「情報の書き換え」を決意した。
隠蔽(極級)『声無封印』
自身の声が瞬く間に無音と化す。
錬金(極級)『声質抽魂』
カジャスの声の周波数、特徴的な抑揚、特有の掠れ—―その情報を概念レベルで抽出し、ルークの魔力と融合させる。
付与魔法(極級)『声質具現』
融合させたものを、ルークに「声」として付与する。
ルークは、少し息を吐くと、音もなくカジャスの背後に近づき、カジャスの「影」に同化する。
カジャスは、いきなり、声が出なくなったようで、驚愕しながら、口をパクパクさせている。
ルークは、素早く、カジャスの声で、高らかに嘲笑を響かせる。
「ただで済む? ギャッハッハ! ただで済んじゃうんだなぁ、それが! 冥途の土産に教えてやるよ! 俺らは四大家門の人間でもなければ、四大家門の命令を受けたわけでもないからなぁ! 隣国のヴィレッタ王国からの刺客だからなぁ!」
刺客たちの間に、戦慄を伴う困惑が走った。
何を作戦にないことを口走っているのか。隣国に逃亡するなど、聞いていないぞ。
刺客共は、そんなことを言いたそうな表情を浮かべていた。
かくいう、カジャス自身は必死に首を振り、口をパクパクさせて「違う」と叫ぼうとしている。
しかし、周囲にはその滑稽な姿が、悦楽に酔いしれて饒舌に語りたそうな狂人の姿にしか見えなかった。
ルークは、刺客共がこれ以上余計なことを言わぬようにさっさとケリをつけることにした。
隠蔽(極級)『虚蔽陣』を解く。
カジャスの影が一段と濃くなる。そして、その影は、背格好が高く、筋骨隆々たる巨漢のそれであった。
無論、影の形を変えたのは、”保険”である。
ルークとは似ても似つかない影を見せることで、影から人物像を特定させる、いわゆる”身バレ”を防ぐことができるのだ。
「カジャス.....影が.....」 刺客の一人が恐怖に顔を引きつらせているようだった。
「あ....なにをそんなに震えてんだ....?」
ルークは、闇魔法(極級)と鍛冶(極級)、錬金(極級)を活用して、影に潜む漆黒の剣を創り出すと、剣術『影縫滅牙』を発動させる。
物理的な衝突音はなかった。
ただ、カジャスの胸は、黒い靄のようなものに貫かれていた。
「……ッ、がはぁっ!!」
カジャスが、血反吐を吐きながら崩れ落ちた。
カジャスはなにが起きたのかもわからず、絶命した。
「どうなっている....!」
残った刺客は、混乱と驚愕に吞み込まれていったようだった。
ルークは、すばやく、カジャスの影の中で、剣を振るう。
剣術(極級)『黒靄裂牙』。
カジャスの胸を貫いた黒い靄は、瞬時に無数の細い刃となり、刺客たちに向かって飛散していく。
「ゴフッ...」「ギャッ...」「ガハッ...」 刺客たちは、そんな声を漏らしながら、次々と地に伏していく。
ルークは、続いて、闇魔法(極級)『漆黒瞬遷』を発動させる。
刺客たちは、絶命したそばから、次々と、黒い靄に包まれて消えていく。
ルークは刺客を片付けると、影の姿のまま、大広間を後にした。
人質の方々には、もう少し、動かないでもらいたかったからであった。
というのも、ファビウス家は、刺客が失敗したときに備えて、何らかの形で、オールデン伯爵夫妻を殺害する手段を持っているように、思えたからである。
いわゆる、「念には念を....」というやつである。
ルークは鑑定(極級)を発動する。
【鑑定結果:火魔法の召喚陣がオールデン家の玄関を出た庭の左手に存在】
(やはりな....オールデン家は、刺客を信用していないわけではないだろうが....あの、”陰湿一族”が第二の手を残していないはずがないからな....)




