第04話: 『異世界』
4話 異世界
「奥様、無事に産まれましたよ」
メイドの声が耳に届いた。どうやら俺は――本当に、転生したらしい。
視界はぼやけ、母とおぼしき女性の顔が霞んで見える。けれど、その優しい微笑みだけははっきりと感じ取れた。
「ガチャ」
遠くでドアの開く音がした。すぐに二人分の女性の声が耳に届く。おそらく他のメイドだろう。
そう考えていると、部屋に入ってきた二人がこちらを覗き込んできた。
すると、この世界での母が二人の女性に声をかけた。
「リリア、フィオナ。これが新しい家族のルイよ」
その言葉に、姉と思しき少女が明るく続ける。
「ルイ! お姉ちゃんのリリアよ。よろしくね」
「アウゥ……」
話そうとしても、幼い声しか出なかった。まだ声帯が未発達だからだ。
「お母様、今日はお兄様たちは?」
フィオナが小首をかしげながら問いかける。
「今は、お父様と町に出かけているわ」
そう母は答えた。声色は柔らかいが、どうやら俺には兄が二人以上いるらしい。――とんだ大家族に生まれたもんだ。
まだ視界はぼやけていて、輪郭しかわからない。それでも耳に届く声ははっきりしている。
そんなことを考えていると、不意に頭の奥に響く声があった。
『……様、貴方様。聞こえますか?』
――この声。どこかで……。
『私は天使エリシア。念話で貴方様に語りかけております。伝えたいことがあれば、心の中で強く念じてください』
思わず心の中で返す。
『なんで、天使様がここに?』
すると、声の主――エリシアは少しむくれたような口調で答えた。
『貴方様が、私の加護を選ばれたからです!』
――ああ、そういえば……。
転生のときに選んだ最後の加護。その存在を、新しい世界に浮かれてすっかり忘れていた。
だが、ずっと気になっていたことを、この機会に伝えることにした。
『ところでさ、“貴方様”って呼ばれると、なんだかむず痒いんだ。名前で呼んでくれないかな』
少しの沈黙のあと、エリシアの声が弾む。
『……かしこまりました。それでは、これからは“ルイ様”とお呼びしますね! それと、私からもお願いが。――どうか、私のことを“エリシア”と呼んでください』
俺は小さく首を縦に振り、心の中で強く念じた。
『……これから、よろしくな。エリシア』
『……はい。ルイ様』
ほんの一瞬、言葉の間に温もりのような余韻が漂った。
ここから俺の異世界生活が始まる――そう実感できた瞬間だった。




