12.吸血鬼に聖水を飲ませちゃダメ
"「その程度の飾り、タダで持ってけば?」
誇りだ栄誉だと言われても、泥棒に栄光なんてあるわけない。
震えていたフード男は鎖を握りしめたまま、魂抜けたみたいにふらついて退店。
「今のやつ、どうした? 魂でも置き忘れた顔だったぞ」
裏口からウィルが現れる。どうやら一部始終を聞いていたらしい。
「昨夜、教会ネズミが2匹侵入」
「は!? 無事か!」
壁越しの慌て声が少しこもる。
「問題なし」
「いや問題だろ、あいつら洒落にならねぇんだぞ!」
それより通りが静かすぎる。客も来ない。
まあ、話を片付けるには好都合だ。札を「休業」に返し、裏へまわった。
*
ウィルと入れ替わるように村長の家へ。
蝙蝠翼の彼女は床を転げ回り、ウィルは書類を必死に救出中。
『やつら、あちこちの町から兵を集めて私を討つ気らしい。ペットも何匹か殺されたし――』
あの翼の出所、ますます怪しい。
『それで“悪魔の情報”を聞きに来るとか。むしろ好機じゃない?』
机に乗るな、と言う間もなく書類に足跡ベッタリ。
ウィルは無言で絶望。
『血族にしちゃえば手駒大量♪』
うさんくさい笑顔。経験上、ろくな結果にならない。
「却下」
『ええー! なんで!?』
過去の“ろくな結果”を思い出し、ため息。
せめて穏便に追い返してほしいところで――
コンコン。運の悪いタイミングでノック。
「魔女サン、隠れよう!」
ウィルが私をひょいと抱え上げ、納戸へダイブ。大猫、狭いんだけど。
*
鍵穴から様子を伺う。案の定、例のフード男が聖職者一行を連れて来た。
村長は取り繕った声で応対。
『異常? ありませんね』
「本当に? 失踪や窃盗でも――」
『平和そのものですわ。今朝あなた方が囚人を処刑した以外は』
痛烈。フード男は苦笑いで土産を置く。……聖水。最悪のチョイス。
『ど、どうも……』
さらに修士が小瓶をコップに注ぎ、乾杯を強要。
ウィルが扉に体当たりしそうなのを手で制す。
「大丈夫」
村長は聖水でダメージは受けるけど、致命傷はない。酔っぱらいみたいになるだけ。
ゴクッ――直後、室内に薄紅の霧。
『ふふふ……ふふふふ……』
護衛たちは霧に絡め取られ硬直。フード男に至っては首根っこを掴まれ空中遊泳。
「……これで酔ってる程度?」
「ウィルが飲んだ時と同じかな」
「俺そんなヤバい!?」
『雑草ども、肥料になれぇ♪』
翼が巨大化し、隔音結界が貼られる。外には悲鳴一つ漏れない。
ドスッ、ガシャン、ひたすら断末魔。私はウィルの耳を塞いで待機。
*
静寂。扉を開けると、村長がフード男を踏み台に、真っ赤な液体をティーカップで優雅に啜っていた。
――間違いなく紅茶じゃない。
『げぷっ……おや魔女。』
空きカップをポイ。汚れ放題なので関係ない。
「これ村長? 雰囲気ぜんっぜん違うんだけど」
『にゃーぁ♪ウィル~お耳貸して~』
背後に回り、爪で耳かき。ウィル絶叫。
床は血飛沫アート。臓物なし、液体多め。素材としては新鮮。
うん、後で瓶詰めしておこう。"




