父 サルト・ストレア
前話は、ハベルの誕生日会でしたね!
今回は9話前編となりますが、よろしくお願いします!
━━━「よし、じゃあ片づけは頼む」
「お任せ下さい、ご主人様」
サルトの指示にメイド長が応える。
メイドたちの片付けの音が響く中カナンが動き出す。
「よいしょっと」
カナンが掛け声とともにハベルを抱きかかえる。
「じゃあ、お風呂入る人――?」
「はあい!!」
「俺は後で入ります」
「あらあら、まだ6才なんだから遠慮しなくてもいいのよ?」
「そうよお兄様!一緒に入ろうよー」
ダフネがアラムの腕を引き、風呂に連れていこうとする。
「わかった!わかったから!」
アラムはダフネの押しに負け、渋々風呂に向かう。
「ふっ」
そんな光景にサルトは小さな笑みを浮かべる。
そして部屋を出て階段をゆっくりと上り、2階の自室に入る。
サルトは自室の椅子に腰を下ろすと、持ってきた晩酌用のウイスキーとグラスを近くのテーブルに置く。
静けさが漂う夜には、グラスにウイスキーを注ぐ音ですらひときわ耳に残る。
窓から差し込む月光が琥珀色の液体とサルトを照らす。
(装備の手入れ用に買ったこの机も、書類仕事で忙しくなって━━━)
「今じゃもう、酒置き場だな……」
スモーキーな香りが鼻腔をくすぐり、鋭いアルコールが舌先を焼く。
「はあ……」
「ああ、昔はもっと自由にできたんだがなあ……」
サルトは思い出す。まだ何も背負うものがなく、ただただ依頼をこなす冒険者だった若き日の自分を━━━━━━
━━━━━━「いいか、いいくぞ……」
「シャック、初めてじゃないんだからはやくしろよ」
「う、うるせえ!!」
シャックがいつになくゆっくりと扉を押し開ける。
ギィ……という音とともに酒場に光が差し込むとともに、いつもの喧騒が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者ギルドへ!ご依頼なら張り紙からお願いします!」
受付嬢の声とともに何人かの男がこちらを向く。
「おおサルトにシャックじゃねえか!今日も無茶な依頼受けに来たのか、ハハハ!」
「今日は少し違うぞ」
「?」
サルトが話している間に、シャックが受付のカウンターに歩を進める。
「いらっしゃいませ!ご用件は何でしょうか?」
「パーティーの昇格試験を受けたいのですが」
カウンターを握るシャックの手は、少し震えている。
「はい!昇格試験ですね!シャック様方のパーティーは……」
ギルド内が少しざわつく。
「Aランクへの昇格試験ですね!試験内容を確認するので少々お待ちください」
受付嬢が裏の方に消えると、周りの冒険者たちがサルトとシャックに群がってくる。
「おいお前らAランクになるのかよ!」
「いやまだ決まったわけじゃないからな!?」
シャックが焦ったように返す。
「先月Bランクになったところだろ!?」
「まあな」
サルトが誇らしそうに返す。
サルトたちが質問攻めを受けている間に、受付嬢が戻ってくる。
「お待たせして申し訳ありません、ただいま確認いたしましたところ、キリングベアーを3体、デスファング・バジリスクを2体……そして、グリフォンを1体この中から1つお選びいただく形になります」
「ううん……おーい!サル━━━」
「グリフォンにする」
シャックの声を遮って答えた。
「おい!勝手に決めんなよ!すみません、もう少し話━━━」
「はい、では馬車を手配いたしますので、明日南門のほうまでお越し下さい。……まあ祈りはしておきますよ」
「俺の意見はぁぁああ!?」
シャックがサルトに詰め寄る。
「おい俺らパーティーだよな?!パーティーだよなあ?!」
「いやいいだろ一番近いんだし。南の森だろ?」
ギルドの喧騒が勢いを増す。
「シャック諦めろ、骨ぐらいは拾いに行ってやるダハハハ!」
「縁起の悪いこというんじゃねえ!!」
(あれそういえば、あの受付嬢何か言ってたような……)
━━━翌日、サルトとシャックは南門に来ていた。
正面には馬車が止まっていて、前には中年の男が座っている。
男がサルトたちに顔を向ける。
「お、あんたさん方かい、わざわざグリフォン選んだっつー受験者たちは?」
「はい、今日はよろしくお願いします」
「おうよろしくな!」
サルトは素早く馬車に乗る。
「お、おう……」
シャックは馬車の方へ歩を進める。
その足は鉛のように重い。
二人が乗ると、馬車が動き出した。
「サルト、今ならまだ━━━━━━」
「大丈夫だ」
サルトは力強くシャックを見つめる。
「……ああ、そうだな」
シャックは拳を強く握りしめる。
その手にはもう、微塵の震えもない。
「なあサルト、帰ったら祝い酒だ!頼んだぜ、相棒!」
「ああ」
サルトたちの馬車は、向かう地とは裏腹に観光道中のような盛り上がりをみせていた。
今回もご愛読いただきありがとうございます!!
これからも月一で行こうと思いますのでよろしくお願いします!