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ハベルの披露宴、アラムの世話係の苦難

前回は、ハベルが怪我をして、なんか夢見た感じの話でしたね。

では4話、よろしくお願いします!

━━━あれから1週間と少しが過ぎ日曜日。


 今日も今日とて離乳食を頬張る。


「…!!」

 舌が焼けるような痛さで、頭がいっぱいになり━━━


「あぎゃあぁああ!!」

 口から離乳食を吐き出す。

 それでもまだ、じわじわと痛い。


「ああ!!すみません、今冷ましますからね!」

「ふふ、なんだか懐かしいわね」

 カナンが口を隠して笑う。


「坊っちゃま、お口あーしてください?」

 焦ったような言い方で、あんぐりと口を開ける。

 すらっと並ぶきれいな歯。


「あー」

 つい、俺も真似する。


 タエが覗き込むように顔を近づけてきた。

 やさしくて、ふんわりした匂い。


「もうタエちゃん、焦らなくても大丈夫よ!子供は泣くのが仕事なんだから!」

「ふふ、そんなのもあったわね」

自信たっぷりなダフネと、いつも通り柔らかい笑顔のカナン。


「今日はハベルのお披露目があるからな。なあ、ハベルの衣装はできてるか?」

 サルトが思いついたように口を開く。

 近くのメイドに聞いていたようだ。


「はい、完成しております」

「おお!見せてくれるか」

 輝いた目。

 それほど楽しみなのだろうか。


「はいもちろん構いませんが、食事の汁が飛んでシミができるとよくないので食後にでもいかがでしょう?」

「ああ……そうだなじゃあそうしてくれ」

 少ししょんぼりとしている。


「はいかしこまりました」


「ねえお父様、お披露目って何の話?」

 ダフネが机に身を乗り出す。

 ドンッとした感じが、机から手に伝わってきた。


「ああ、シャックは知ってるだろ?」

「ええ、あの優しい人でしょ?」


 サルトは口を紡ぎながら━━━


「ああ、まあ優しい…くはあるんだか、どうも顔が怖いからダフネもアラムもハベルぐらいの頃に会わせたら毎度泣いててな。だからハベルが生まれたことも言ってなかったんだが……」

 目があっちこっちに泳いでいる。


「ちょっとあなた、別にいいじゃない、シャックさんも悪気があるわけじゃないんだし」

 そのカナンの口調はそのシャックという人をなだめているようだ。


「それはそうなんだが…まあそれはさておき、ハベルのことを伝えるやいなや、その場で決めてしまってな。それで昨日、パパとママがいなかったのは出産祝いの宴会に行ってたからなんだ」

「ええ!私たちも行きたかった!」

 椅子の上でドタバタと。

 よく料理にあたらないものだ。


「ダフネ!多分お父様にも考えがあって呼べなかったんだ。理解してやれ、大人には色々とあるんだろ」

 ダフネを止めるような感じだが、どこかあきれているような。


「アラム……ほんとに6歳か?まあその通りで、もしかしたらアイツらが酔ってお前らに酒を飲ませようとするかもと思ってな。だから呼ばなかったんだ。話が逸れたな、えっと……あそうそう。明日のお披露目会はお前たちも来てもらうぞ」

「ええ!ほんと!?やったー!」


 ダフネが席を立ち小躍りしている。


「分かりましたお父様。ちなみに何時出発ですか?」


 アラムがナプキンで口を拭く。

 口周りのソースが取れたみたいだ。


「ええとそうだな…山の方のあの館でやるから……夜の6時半あたりか」

「分かりました。ダフネ、それまで魔法の特訓するぞ」

「ええー、今日はいいじゃない!」

 ダフネの顔は見るからにいやそうだ。


「継続は力なり、毎日やることに意味があるんだ!」

 アラムの言葉が力強く聞こえる。


「お兄様ほんと好きねそういう言葉。あの本、難しくて私には向かないわ」

「フッお前にはまだ早いな。だが面白いぞ?ワコク用語大全。お父様もどうですか?」

 いつになく、スラスラと。


 突然話を振られ驚き、そしてバツの悪そうな顔をするサルト。


「いや……俺はいいよ」

「ふふ、あなた昔から勉強苦手だものね?」

 からかうような言い方。


「ま…まあ……」


 サルトは目線を机下に移す。


「お父様、知恵は力にも教えにもなります!たまにはそういうのも取り入れてください」

「は…はい……」

「ふふっ」



━━━その後も会話が続き、昼食の時間もあっという間に感じた。

 俺が食べ終わってからもはなしていたからか、なんだか少し眠い。


「よし、じゃあ衣装を見せてもらおうか」

「はい、こちらです」

 そこには、いかにもぴちっと衣装が吊るされていた。


 カナンが頬に手を当て、首を傾げながら━━━


「私はもう少しヒラヒラしたものがいいと言ったんだけど……」

「んーなんだか、もっとかわいいのかと思ってた……」

 2人はこれじゃない、という顔だ。

 なんだか、すこしかわいそう。


「いえ、ストレア家男児たるもの、きっちりと着こなしてなんぼだと思いましたので」

 メイドの自信ありげな口調。


「おお、かっこいいじゃないか!」

「いいですね!やるじゃないかお前!」

 変わってこっちの二人は、とってもうれしそう。


 そんな2人は服をまさぐるように見回している。


「恐れ入ります、ただ、私ひとりで作ったものではございませんので」

「ああそうか、皆もありがとう」



━━━食堂の扉の先、廊下の階段の横で2人のメイドがヒソヒソ話している。


「ねえ、アラム坊っちゃま、すこし大人過ぎない?」

「ほんとね。あれはきっと立派な当主になるわ」

 ひそひそとしているが、抑えきれていない、そんなボリューム。


 そして、そこにタエが、食い入るように割り込んで━━━


「アラム様は、いつもストレア家の当主であろうと精進してらっしゃるから当然よ」

「タエも気に入ってるのね、アラム様のこと」


 そんな中、1人のメイドは小首を傾げている。


「でも、アラム坊っちゃまの世話係の身としては、ほんとにこれでいいのかしらって思う時があるのよね」

「というと?」

「何も問題ないと思うけど?」

 キョトンとしているタエともう1人。


「まあ、その、問題ないのが問題というか……私がなにかやろうとしても、もうアラム坊っちゃまが先にやっちゃってて、私がやってる事といえばアラム坊っちゃまの紅茶をいれるぐらいしかないのよ」

「じゃあ、やらせて欲しいっていえばいいんじゃないかしら?」

「もちろんそれも言ったわ。でも……」


━━━━━━当時、ハベルが生まれて1ヶ月のこと……


「アラム坊っちゃま、少しよろしいですか?」

「どうした?急に」

「いえ、その…」

 メイドは目が泳いでいて、言葉を探すように口を開いては閉じてを繰り返す様。


「なんだ、はっきり言っていいぞ」


 アラムに向き直り、拳を強く握って━━━


「はい、私に、アラム坊っちゃまの身の回りのお世話をさせていただけませんか!」

「しているじゃないか」

 素早く返すアラム。


 メイドは声を大にして━━━


「私紅茶いれるぐらいしかやってません!」


 紅茶の水面が、ゆらゆらと。


 アラムは手を顎に当て、斜め下を向く。


 少しの沈黙の後━━━


「……なるほど。つまり、このままでは俺の世話係としての立場がないからもっと仕事をよこせ、ということか?」

 横目でメイドを見る。

 その目は、どこか自信なさげ。


「ま、まあ…それもあるんですが……私はもっとアラム坊っちゃまのためになりたいんです」

 負けないよう、力強く。


「すまないが、俺はストレア家の次期当主として━━━」

「あなたまだ6歳でしょ!!はっ!す、すみません!」

 食い入るように言ったメイド。

 というより、言ってしまったが近いだろう。


「いやいいんだ。だがしかし、善は急げというしな……」

「ぜ、ぜんは…あ?え?」

 困惑の表情。

 頭が追いつかないような。


「まあとりあえず、俺はストレア家の次期当主としてこのくらいはできておくべきだと思っているからやっているだけだ。お前は心配しなくていい」

「で、ですが……」

「その気持ちは、お世辞であろうとうれしいぞ。そ、それに……」


 アラムが頬を掻く。


「?」

「お、お前のいれた紅茶が俺は好きだ。だから、こ、これからも期待してるぞ……」


 メイドの顔から笑みがこぼれる。


「!!はっはい!」


━━━「ってことがあったのよ」

 このメイドの、少しのにやつきが見えた二人。


「アラム様、ほんとに6歳かしら……」

 気まずそうな笑顔のタエ。


「ていうか、半分ぐらい惚気じゃないのよ」

「だ、誰が6歳で惚気けるか!」

 メイドが声を荒げる。


「しーっ!声がでかいわよ!」

 焦ったように、自分の口を指で押さえる。

 囁くようだが、声としてはアラムにたやすく聞こえるほど全くもって大きい。


「はっ!」


 アラムは全て聞こえていたのか顔を真っ赤にしている。

 そんな横で、ダフネは小さく笑っていた。


「や、やっちゃった…?私……」

 とても気まずそうな顔。


「いや、アラム様優しいから大丈夫でしょ」

 なだめるようにいうタエ。


「はあ…まったく。これから先、アラム様を好きになる子は苦労しそうね、鈍感だし」

 頬に手を当て、顔を預けるメイド。


「な、なによその言い方!私が向けてるのは恋じゃなくて好意だからね!」

「何上手いこと言おうとしちゃってんのよ」

「ふふ」

「何笑ってんのよタエ!」

 このメイドは、声の大きさなどもう気にしていないようだ。


「あらごめんなさい?でも、アラム様は鈍感と言うよりかは、自己肯定感が低いだけだと思うわ」

「あーたしかにそうかもね」



━━━そして俺たちは━━━


「もう下げていいぞ、ありがとう」

「では後ほど」

 メイドが俺の服がかけられたハンガーラックをカラカラと食堂の外へ出す。



━━━そして、俺は、タエと一緒に部屋に戻って寝ようとしていた。

 隣にはタエがこちらを見つめている。外からの声がここまで響いている。


「ファイアボール!」

 アラムの大きな声がする


「ウォーターボール!」

 ダフネの大きな声もする。


 少しうるさいが、俺が寝るには問題ないくらい。


 それよりも、今は眠い。



━━━━━━俺は、なにかに揺らされる感覚がして目を覚ました。


「あー、何食べようかな!」


 何か話しているような声がするが、まだ頭がはっきりせずよくわからない。


「おいダフネ!ハベルのお披露目会ってことを忘れるなよ!」

「分かってるわよお兄様…」


 ようやく言っていることがわかってきた。

 いつものやつだ。


「アラム、もう少しダフネに優しくしてやってもいいと思うぞ?」

「は、はい…善処します」

 俺は、お披露目のための準備中だったはずだ。

 なのに今、見たことの無い空間で、左にはよくわからない景色が広がっている。

 今まで部屋の中から見ていた外とはまるで違う。


「お、ハベル起きたみたいだな」

 右からサルトの声が聞こえる。


「ハベル、今乗ってるのは馬車と言って、あれは木というんだ、あ!特にあの木はキロムといってとても堅く、柱の材料として使われることが多い。

あ!あれは━━━」

 正面でアラムが少し早口で話している。

 早口でなんて言っているのかよくわからない。


「お兄様そんな難しい話はハベルにはまだはやいわよ、私でもよくわかんないのに……」

「勉学にはやいに越したことはない!」

「あらあら、ハベルはきっと賢い子になるわね〜」

 俺の上からカナンの声がする。

 いつもの優しいにおい。


「皆様、そろそろ到着時刻にございます」

 タエの声が外の方から聞こえてくる。

 どこにいるのだろうか。


「お、ハベル馬に興味があるのか?大きくなったら、パパが教えてやるからなー?」

 数刻後、馬車が止まった。そのあとタエが扉を開け、俺はカナンに抱えられながら外へ出た。

 ガタンと揺れて、少し楽しい。


 次々とみんなも降りる。


 俺は後ろからする強い光が気になって後ろを向く。

 ものすごく大きな建物が、周りの木に守られるようにそびえ立っている。


「あなた様方は……ストレア家の皆さんでしょうか?」

 スカスカの扉の目の前に立っている、見るからに硬そうな格好をしたサルトより二回りほど若そうな男がこちらに語りかける。


「ああそうだ」

 俺らの前に立って、答えるサルト。


「ではお進みください。よき披露宴となりますこと、心からお祈りいたします」

「あら、素敵ねぇ。ありがとう」

「い、いやぁ……へへっ」

 カナンを見て、照れくさそうなその男。


━━━そんなこともよそに、俺たちは中に入る。


 館内に入った俺は、目の前の光景にまだない言葉を失う。


 それは見たことの無いほど広い空間に、眩しいほどの装飾がされた照明、豪勢な食事やワイングラスが乗せられた真っ白なテーブルを囲む紳士淑女が騒がしくする光景だった。


今回もお読みいただきありがとうございます!

感想・ご指摘ございましたら、是非是非!

じゃっ!

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