脱出、そして再会
前回は、ハイハイして親とメイドの会議でしたね。
多分4話はこれで合ってるはず!
では、よろしくお願いします!
━━━カナンとサルトとタエが会議をしている頃、アラムはダフネを部屋に呼んでいた。
部屋の空気がいつになく張り詰めている。
「急になに、お兄様?」
アラムに呼ばれてきたダフネはベッドに腰掛けた。
「今日何があったかはわかるな?」
座っている椅子をダフネの方に向け、腕を組む。
「ええ、ハベルがハイハイしてたわね」
不思議そうな顔。
まだ状況をつかめていないような。
「そのことについてだ。ハベルのハイハイは、明らかに速すぎる」
「たしかに、速くてビックリしたけど、ハベルがすごいってだけじゃないの?」
「ハベルがすごい…まあそういうことではあるんだが…」
アラムは腕を組みなおす。
口のどもりが腕に移ったようにゴソゴソと。
「なによお兄様、はっきり言ってよ」
「ああ、つまりはな……」
アラムが少しうつむく。
「つまりは?」
再びダフネを見つめて━━━
「……あれはおそらく、いや間違いなく魔法だ」
「ま、魔法!?ちょっえ、でも、そんなわけないわよ!誰も教えてないはずだもん!」
ダフネが勢いよく立ち上がった。
座っていたベッドは大きく軋んで、元の場所は少しへこんでいる。
「もちろん分かってる!おかしいのは…だが、そうじゃないと説明がつかない」
「じゃあ、誰が教えてるって言うのよ!」
座り直し、アラムの目を見つめる。
困惑の声をつたえるように、弱弱しく。
「いや、俺は教えてるんじゃないと思う」
座り直した時のきしむ音が声と重なる。
「どういうこと?」
「ああ、ハベルはもしかしたら、“魔法の申し子”なんじゃないかと思っている」
自信なさげな小さい声。
「え、ええ!!でもあれはおとぎ話じゃ!」
大きく開く瞳孔。
「火のないところに煙は立たない。だから俺は魔法の申し子は実在していたと思っている」
「ででも、産んだのは絶対にお母様よ!」
ダフネの声が部屋に響き渡る。
窓ガラスが小さく揺れるほどに。
「ああ、知ってる。だからこれは可能性の話だ。もし……もしたとえ、あの子がそうでも、俺たちの弟にかわりはない。俺はそう思う」
「もちろん!」
食い入るようにダフネが答える。
「だから…もし何かあの子に危険が降りかかろうとしていたら、兄である俺と、姉であるお前で一緒に守るんだ!」
「ええ!もちろん、あの子は私たちの弟で、家族よ!」
「ああ!」
2人の目が1つの方向を向いた。
━━━1日が経った夜。俺は夜ご飯を機にそこで寝て、気がついた時にはベッドの上だった。
部屋の中は俺一人。 眠気はとうになく、暗くて、怖くて、さみしい。
だから俺は、このベッドから出ることに決めた。
柵を精一杯握り、手を引く。
が、俺の体はびくともしない。
下から引っ張られてるみたいに。
それでも諦めず必死に力を込める。
すると、何か体からあふれ出るような感覚が。
ぷにぷにした歯茎を噛みしめ、また手を引く。
不思議と体はするすると持ち上がった。
今までのが嘘みたいに。
柵の上に足を乗せ、体をベッドから出す。
何とか上に来た。
だが、思ってた以上に細くて、グラグラする。
そして、バランスを崩した俺は、頭から床に落ちてしまった。
体中に嫌な感じと熱いのが走り回る。
目の前がぼわぼわして━━━
「あぎゃんああああ!あぎゃああ!」
誰もいない部屋で、俺の声は小さくなる気配すらない。
━━━俺の泣き声が聞こえた5人。 みんなそろって、俺の部屋に駆けつけてきた。
「ハベル!どうした!」
サルトが勢いよく扉を開ける。
「ああ、ベッドから落ちちゃったのね」
カナンがサルトを避け、部屋に入り、俺を抱え上げる。
さみしさはすっと消えて、ぬくもりで嫌な感じも減っていくような。
「ハベル坊っちゃま!ああ、もう少し柵を伸ばすべきでした……」
タエが焦った顔でこちらを見ている。
「ハベル!大丈夫!?」
ダフネが俺の頬を両手で包む。
少し小さいけど、カナンと同じく温かい。
「……」
アラムは手を顎に当て、下を向く。
(あの柵、まだ立てないハベルじゃ、柵の上すら掴めないはず……まさかよじ登った!?……いや、そんな力、あるか……?ということはハベルは…魔法が使える!?あの魔法の申し子がどうかは定かじゃない。しかし間違いなくハベルは、このストレア家の宝たる存在になる。次期当主たる俺が、この家、弟のため絶対に守る!)
━━━そうして俺は、ベッドに戻された。
しかし、タエがここに残ってくれるようだ。
そんなタエは、窓近くの椅子に座って、こっちを見てくれている。
「私がかわってもいいのよ、タエ?」
カナンがタエの方に向き、こちらに歩いてくる。
「いえ奥様。これはお世話係である私にお任せ下さい」
「そうねぇ……なら、交代制にしましょ?」
人差し指をピンと建てるカナン。
「それでは、奥様にも負担が……」
心配そうな顔。
カナンが問いかけるように言う。
「それを言うなら、あなたも同じでしょ?いいわね?」
「はい……承知しました。では、3時間毎にしましょう」
「ええ」
カナンが廊下に出ていき、扉が閉まった。
部屋にはタエと俺だけ。
暗闇の中で、俺はさっきのことの疲れと、タエがいることでの安心感のせいですぐに寝てしまった。
━━━気がつくとあの真っ白い部屋で、俺はベッドで寝ていた。
奥にはあの時見た白髪の人が驚いた顔でこっちを見ている。
「え、なんで来たの!?まあいいや、しばらくゆっくりしていきな」
あの人が俺に迫り、頭を撫でる。
後ろのあたりで、その手がピタッと止まった。
「あ、なんかできものできてるよ?頭に、これは…内出血かな?」
そういって、俺が床にぶつけた所をみる。
少し恥ずかしいような、変な感じ。
「あー……これは結構酷いな…首まできてるよ。この感じだと…ベッドから出ようとして、頭から落ちたね?」
見上げるとどこか誇らしげな彼の顔。
「んー……できるかな?ごめんちょっと光るよ」
彼は、俺の前に手をかざす。
光ってるぐらい、ツヤツヤの手。
それに少し膨らんでて、かわいくて不思議だ。
俺は思わず人差し指をつかんでしまった。
見た目どおりぷにぷにとした感触。
「え~ハハハ何ぃ?やっぱ赤ちゃんはかわいいねえ〜」
彼は優しく俺の手をのける。
「よし、おっけー!向こうに影響出てればだけど…一瞬ならできるんかな……んーよいしょ!!」
すると、何か後頭部に温かい感じが。
どこか落ち着くような。
「お!いけるじゃん!あ……」
彼は少しばつが悪そうな顔をする。
「んーどうしよ…まあ、大丈夫…なのかな?」
━━━その頃、それは見守りを交代するときに起きた。
「タエ~そろそろ交代のじか━━━」
俺の後頭部が光るのを見て、二人は啞然とする。
「「!!」」
「な、なにあれ!」
カナンが疑問と驚きが混じったような声を上げる。
「ハベル坊っちゃま!!」
2人が急いで駆け寄り、カナンが俺を抱き上げる。
そして、光る後頭部を見て━━━
「た、たんこぶが……」
「ひいていく……」
ポカンと開く二人の口。
「これは……もしかして」
タエがはっとした顔をする。
「ハベル坊っちゃまは、無意識に魔法が使える…?」
「……いや、それはどうなのかしら」
(これは……もしかして)
「はい?」
少しうつむき、顎をつまむカナン。
「……いえ、なんでもないわ。それより、タエ」
「はい、奥様」
「このことは、2人だけの秘密よ」
タエを強く見つめる。
その決意を、伝えるように。
「それは、ご主人様にもでしょうか?」
見つめ返すタエ。
「ええ。少しでもこれが外に漏れるのは避けたいの」
「はい、承知しました」
タエの顔には少しの罪悪感。
「ありがとう、タエ」
それでも、二人は固く決意する。
━━━「なんか……ちょっとまずいか……?」
俺が光る様子を見て、彼が眉をひそめる。
「まあ、大丈夫やろ!」
へらっとした笑顔。
「んー…これでまた僕の魔力が流れちゃったし……でも、さすがに濃すぎるかな……んー溢れちゃったらこの歳はちょっとやばいかもやけん……よし!じゃあまたちょっと貰うねーごめんね」
彼の両手が優しく僕の手を包む。
あたたかくて、包まれるような感覚。
それと、俺の中から何かが流れるような感じがした。
そして、なにか、彼と繋がるような、変な感じも。
「お、すご、結構馴染んでるね!これだと3歳ぐらいで呼んでも大丈夫かな。と言ってもわかんないか。じゃあ、またね」
光るような笑顔。
手を伸ばすけど、どんどんと遠のいていく。
━━━気がつくと、いつもの部屋だった。
外には太陽がこちらを見ている。
下を向くと、朝焼けが、椅子に座って寝ているタエを、まぶしく照らしていた。
4話、お読みいただきありがとうございました!
改稿して、少しは読みやすくなったと思います!
もしよければ、感想・ご指摘ございましたら、是非是非!
では!