村の外、馬車の旅、初めての町
今日もよろすく!
2週間。
兄さんと顔を合わせるのは、食事のとき以外ほとんどなかった。
どうやら、とても忙しいらしい。
だって、お部屋に行こうとしたら───
───「坊っちゃま!」
「なに?」
「今アラム様は受験勉強中ですよ!邪魔してはなりません!」
「ご、ごめんなさい」
───受験?っていうのは、それほどまでに大変らしい。
お勉強……前まで、ホントに嫌いだった。
でも最近は、ちょっとだけお勉強が楽しい。
だって……
「坊っちゃま!すごいですよ、全問正解です!」
「やったー!」
やったら、たくさん褒めてくれるし……
「中学3年生の範囲なのに、よくできましたね」
「えへへ……」
頭も撫でてくれる。
ちょっと恥ずかしいけど、それよりもずっとうれしくて、次も頑張ろうと思える。
タエさんの手は、いつも温かい。
包み込んでくれるみたいで、体の中まで染み渡る。
そんな時。
「ぁぁあハベルー!!」
勢いよく扉が開く。
俺だけじゃなく、タエさんも上に跳ねた。
「あ!イチャイチャしてる!」
その声で、後ろから顔だけ見せたのはライラさん。
「い、イチャイチャなんて!」
「勉強したから、褒めてもらってたんだよ~~」
椅子から立ち上がり、お姉ちゃんに走っていく。
お姉ちゃんも僕に駆け寄って、抱きかかえる。
ちょっと苦しいけど、すごく落ち着く。
「んー偉い!ハベルはお勉強なにしたの?」
「三角形の相似の証明だよ!」
「ん~ホントに偉いっ!」
腕の力が強くなる。
「そ、そうじ?」
「ライラ、気持ちはわかるわ」
「う、うん……」
(そうじって……?)
そういえば、剣術や魔法の稽古は一緒にするからわかるけど、お勉強ってなにやってるんだろう。
「お姉ちゃんはお勉強何やってるの?」
「私はね、数学だったらえっと……正規分布よ!」
「せ、せいきぶんぷ?」
お姉ちゃんはずっと先のことをやってるみたいだ。
やっぱりすごい。
というか、お姉ちゃんはなんで僕の部屋に来たんだろう。
いや、用事なくてもよく来るっけ。
「あっそうだ!」
思いついたように声を出す。
「ハベル、準備しなくっちゃ!」
「どうしたの?」
「家族みんなでっ王都に行くのよーー!!!」
満点の笑顔で拳を上げる。
たしかに、昨日そんなこと言ってた気がする。
「ハベルが馬車に乗るのって、いつ以来だっけ?あれ、生まれた時から?」
「ううん、おととしのパーティーの時に乗ったよ!」
「あ、そうだったわね!じゃあ、お兄様呼びに行くわよ!」
「うん!」
そう言って俺たちは、兄さんの部屋へ向かう。
ドアの前、謎の緊張感。
胸が高鳴るのも、なんだか楽しい。
「(いくわよ?)」
「(うん!)」
勢いよく扉を開ける。
「お兄様―!」「兄さん!」
肩をヒクつかせ、こっちを振り向く。
マメのできた人差し指と中指。
その2本で、ヨレた羽ペンを持っている。
「ど、どうした?」
「王都に行くわよー!ってお母様が行ってたから、王都に行くわよー!」
「おー!」
「わかった、すぐに行く。ありがとう」
なんだろう。
兄さん、ちょっと優しくなったような……
「待ってるわよ!行こうハベル!」
「うん!」
部屋を出る。
手を繋いだまま階段を下りていく。
片手を預けているのに、とても歩きやすい。
その下には、玄関で靴を履いている父さんと、いつになく奇麗な装いの母さん。
長い青髪がよく似合っている。
「お母様、呼んできたわよ!」
「ありがとうダフネ。フフッ2人はほんとに仲良しなのね」
「「うん!」」
お互い強く握りあう。
お姉ちゃんとはずっと一緒。
……でも、でもいつかは離れないといけない。
俺は、空いている手をほんの少し握った。
「すみません、遅れました」
階段から降りてきた兄さん。
「気にするな。さあ、外に馬車を用意している。早速行くぞ」
「旅行よー!」
「お母様、これは旅行ではなく───」
「「おー!」」
扉を開く。
庭には、たくましい筋肉を持った2頭の馬。
紐から繋がる様にある馬車と外付けの席。
王都は、ものすごい都会らしい。
きっと、いろんなお店があって、いろんな人がいて……
初めての村の外。
初めての都会。
俺の胸は、頭に浮かぶ景色と合わさる様に早く鳴り続けている。
◇◇◇
「……」
馬車に揺られること、数時間。
もうすっかり日も暮れてしまった。
辺りは何も見えない。
草原。草原。草原。
暗闇の草原って、ホントに黒いだけなんだな。
そう思ったら、明かりのついたこの馬車の中。
なんだか特別に思えてきた。
「あっ!」
嬉しそうに馬車から顔を出すお姉ちゃん。
「ハベル!見て!」
指さしたのは進んでいる方のずっと向こう。
丸い大きな壁で囲まれている。
「町が見えて来たわよ!」
「うわあぁ……」
父さんも同じく顔を出す。
「そうだな、今日はあの町に泊まろう!」
「かしこまりました」
外からタエさんの声。
よく見たら、隣にグリーナさんもいるみたいだ。
なら、ライラさんとメイド長は家でお留守番なのか。
あの中にきっと沢山人がいて、色んな店があって……
知らない料理とか、そこにしかないものとか。
見たい。
食べたい。
触りたい。
胸の鳴りが止まらない。
ありがちょ!
明日も投稿されるよ!




