田舎の祭囃子
今話もよろしく!
あれから一週間。
「ふんふんふ~んっお祭りお祭り~~」
俺を抱き枕みたいにして鼻歌を奏でる。
振り子のように揺れるお姉ちゃん。
抱えられてる俺も自然と揺れる。
毎年行われている梅雨祭り。
小さい頃から行ってたけど、その日は始まる前からずっと楽しい。
「今年も一緒にまわろうねハベル!」
「うんっ!」
毎年3人で回った屋台たち。
今年もあるといいけど。
「父さんお小遣いくれるかな?」
「きっと沢山くれるわよ!だって私たち剣術の稽古頑張ってるもん!」
そんな時、俺の部屋の扉が開く。
「坊っちゃまダフネ様、御昼食の準備が整いました」
タエさんだ。
「あれ?ダフネちゃん……」
向こうからライラさんの声もする。
そういえば、タエさんもライラさんもお祭りに行ってるのを見たことがない。
「ねね、タエさんも一緒に行かない?」
「え?あっ今日のお祭りですか?」
「うん」
「すみません、屋敷の仕事がありますので」
申し訳なさそうな顔。
「そうなんだ。わかった、じゃあお姉ちゃんと二人で行く!」
「はい、楽しんでいらしてくださいね」
ちょっと残念。
でもお姉ちゃんがいるしいいんだ。
これ以上欲しがったらダメなのかもしれない。
「ハベルー!」
向こうでお姉ちゃんが呼んでいる。
俺は、ついていくように食堂へ向かった。
◇
「その……梅雨祭りのことなんだがな」
バツが悪そうにゆっくりと話す父さん。
「お父様どうしたの?」
「実はな、これなんだが───」
そう言って渡してきたのは今朝の新聞。
「これがどうしたの?」
目がいくのは一番大きく書かれているところ
“月の牙狼、縄張りを移動か”。
「実は、各地でルーナ・フェンリリオンの目撃情報が多発している」
「ふーん」
何か昔、兄さんからそんな名前聞いた覚えがある。
たしか、“四獣”とかそんなの……
「でもリチア村には来ないんじゃないの?」
「それがな……3個先の町でも目撃例が出ているんだ。だからまあ中止なんてはしないが、梅雨祭りに行くなら注意してくれ」
「「はーい!」」
新聞から空いてる手で返事をする。
そういえば、兄さんは今何してるんだろう。
「ねえお姉ちゃん、今日も兄さんのってるかな」
「そういえば!えっとね……」
ぶつぶつと言いながら端から端に目を通すお姉ちゃん。
すごく一生懸命。
紙をめくる。
目が止まった。
「あった!」
“黒炎のゲータ、史上最速Aランクへ”
もう一枚の方に大きくそう書かれている。
「すごい!お兄様Aランクだって!」
「おお!」「まあ!」
関心したような父さんに、笑顔満開の母さん。
メイドさんたちも騒ぎ始める。
「(ねえねえ、Aランクでしかも最速だって!)」
「(そうね、やっぱりすごいわねあの方)」
「(……グリーナちゃんどうしたの?)」
中には───
「っしゃああぁあ!」
大きな声で叫ぶ人もいた。
急な大声に困った様子のお父さん。
「あらあら」
「グリーナちゃんはお世話係だったもんね!」
「す、すみません……」
耳を真っ赤にして下を向く。
別に恥ずかしがることもないと思うんだけど……
「(えへへ、仕方ないよグリーナちゃん)」
「(恥ずかしー!)」
───そんなこともあって、時間はすっかり夕方。
下の方に広がる村はいつになく賑わっている。
「ハベル、ダフネ」
書斎の椅子に座る父さんは、俺たちに巾着袋を一つずつ渡す。
中を開けると───
「え!いいのお父様?!」
大きい銅色が4枚。
「まあ、2人とも剣術の稽古をがんばってるからな。好きに遊んできなさい」
「「ありがとー!」」
俺たちは急いで靴を履いて外に出る。
ジグザグの道。
少し遠いけど、これからの楽しみがそのめんどくささをずっと追い越す。
「道には気をつけるんだぞー!」
後ろからやまびこみたいな声。
俺たちは走って村に行った。
◇◇
「「うわあぁぁ……」」
吊り下げられた提灯、たくさんの屋台、嬉しそうに手を繋ぐ男女・家族たち。
目に映るもの全部が、俺の胸に心にお祭りを与えてくれる。
「ねえハベル!どこから行く?」
僕の手を引いて歩くお姉ちゃん。
混じりっ気のないきれいな笑顔で。
「えとね……」
2つのヘラで麺を混ぜ混ぜしているところか、いろんな色の飴が置いてるところか、それともおもちゃの弓で当てるところか。
数えきれないほどの屋台が並ぶこの道。
迷った末、俺が選んだのは───
「あそこ行きたい!」
人差し指の先、大きく書かれた店の名前。
「らっしゃい!」
“ヤッキルグリル”
目の前には髭の生えたおじさんといい匂いのタレときれいなピンクのお肉たち。
「おっ嬢ちゃん久しぶりだな!今年も来たんだな?」
「ええ!弟と一緒に来たのよ!じゃあモモとカワのタレ2本ずつちょうだい!」
「あいよっどっちも大きくなったなあハハハ!」
「もう私も12歳だし、ハベルも8歳よ!ねー?」
「うん!」
「そうかいそうかい!」
奥からそれぞれ肉と皮の串を取り出し、熱を出してる網に乗せる。
こんがりとしたあの色を想像させる香ばしい音。
「つーか、あの兄ちゃんはどうしたんだ?」
不思議そうにこっちを見るおじさん。
「1年の旅に出たのよ」
答えようとする俺を遮るように素早く言った。
「そうか……貴族ってのも大変だねえ。いつか2人も行くのか?」
「「うん……」」
頭によぎる先の不安。
その先で、死ぬかもしれない。
誰にも見られず、独りで。
「まっよくわかんねえけどよ、忘れて食おうぜ!」
そうだ、考えなくたってじゃないか。
そう
「お待たせ!モモカワ2本ずつね!」
今くらい、いや今は───
「やったー!」「わー!」
「「いただきまーす!」」
ただ忘れて、この時間を楽しみたいんだ。
◇◇◇
「えへへ、いっぱい買っちゃったね」
足先がいつもより遅い。
来た時なんかに比べたら、ずっと遅いんだろう。
「そうね!」
背中を照らす祭囃子の光。
目に映るのは、いつもより寂しさに包まれている暗いジグザグの帰り道。
頭にかけた仮面の紐はすっかり伸びてしまった。
つないでいる手は、来た時よりずっと温かくて湿っている。
宙ぶらりんの俺のもう片手。
歩く度お姉ちゃんのもう片手に提げられた荷物たちが音を立てる。
「……ハベル、楽しかった?」
溜めるように放った一言。
言葉と一緒に吐かれた息はどこか詰まっていて、それが祭りを去る寂しさだけじゃないとわかるのは簡単だった。
じゃあ俺は、お姉ちゃんに何をすればいいんだろう。
「うん、楽しかったよ」
「そっか……」
足が止まった。
ずっと繋いでいた手も離されちゃった。
「ごめんハベル、この荷物持って先に帰っててくれない?」
「え?」
そういって、荷物を俺の手に渡す。
握ったそれは、ずしんとした重さ。
「私忘れ物しちゃったんだ。あと、冷めちゃうかもだから、早くお願いね?」
優しく問いかけるように向ける笑顔。
「それなら、一緒に───」「はやくして」
初めてだ。
こんなに冷たいお姉ちゃん。
「で、でも───」
その時。
空。
空じゃない、見えなくらいのずっとどこか。
まだ何も見えていないのに。
心が、焦っている。
「はやく!」
大きく叫んだ。
瞬き。
後ろに何かがいる。
横にそれを見るお姉ちゃん。
点になった黒目、食いしばった歯。
「ナンデ……」
ゆっくりと振り返る。
影のように暗いのに、何故かはっきりとわかる。
逆立った毛、吊り上がった目に大きく鋭い牙。
まるで狼のような見た目なのに、それよりずっと大きい。
足だけで俺たちと同じなくらいに。
初めての感覚。
絶対に逆らっちゃいけないような恐怖感。
寒気なんか、ずっと忘れてしまうほどの。
そして───
「ナンデオマエカラ、師ノ匂イガスル……」
獣の唸りのようなそれ、耳ではわかるはずもないのに頭は何故かはっきりとわかる。
いや、わからされてるんだ、この声を。
「グルァ……」
口元からよだれが垂れる。
その時、お姉ちゃんが一歩踏み出し、俺の前に立った。
「ナンダ小娘」
「私は、この子のお姉ちゃんよ!」
震えている。
声も、身体も。
「オマエニ用ハナイ」
「……ハベルを、どうするつもり?」
「コロス」
「!」
瞬間───お姉ちゃんの周りに3つの氷。
尖っていて、その先端が指すのはあの獣。
「何ノツモリダ」
「今すぐどこかに行って!そうじゃないと、このまま撃つわよ!」
すると、獣はいたずらに笑う。
「ウッテミロ」
指先を突き立てる。
素早く飛んでいく氷。
しかし───
「グアァァ!」
砕け散る。
宙に現れた牙にかみ砕かれた。
「な、なにが起きたの!?」
「イイダロウ、オマエモコロシテヤル」
獣、前足をゆっくりと上げ振り下ろす。
地面、3つのえぐれがこっちに近づく。
「!」
突然、目の前に現れる巨大な氷。
お姉ちゃんは僕の手を掴んで家の方へと走り出す。
「逃げるわよハベル!」
「うん!」
息を切らしながら足を回す。
目の前がおぼつかないのも無視して。
家の門、もうすぐだ。
「やっ───」
その時───目の前に霧が立ち込める。
それはどんどんと形になって、さっきの獣が現れた。
足が動かない。
俺は地面に座り込んだ。
どこにも、力が入らない。
「ハベル!」
こっちを見つめるお姉ちゃん。
「邪魔ダ」
そんなお姉ちゃんの体は、獣の右手にはじかれた。
「ぐあっ!」
鈍い音。
大きく吹っ飛んで2転、3転。
立ちふさがる化け物。
目の前の光を、黒い影が覆い隠しているような。
口が勝手に震える。
頭は助かろうと必死に回る。
なにも浮かばない。
どうしようもできない。
「師ヲ偽ッタ罪、死シテ償ウガイイ」
手が降りあがる。
爪の先が振り下ろされ、僕の頭にぶつかる、
その瞬間───
「だ……」
右から。
「だめぇぇぇ!!」
お姉ちゃんの叫び声。
寒気。
いや違う、寒いんだ。
そう思った時、白い風が辺りを包む。
「ナンダ……」
前足、ピタリと止まる。
そして大きく弾かれた。
足には大きな氷の槍が刺さっている。
「ハベルから、離れて」
こっちに近づいてくるお姉ちゃんは、粒のような風に包まれている。
「冷徹な槍!」
氷の槍、目の前に立ちふさがる獣ほどの。
飛んだかと思うと既に獣に当たっていた。
「小癪ナ……!」
しかし、貫くことはなく立ち止まっている。
剣と剣のつばぜり合いのような圧。
しかし───
「氷破!」
氷、砕け散り獣に突き刺さる。
「グルゥッ!」
悲鳴のような唸り声。
そして、お姉ちゃん目がけて踏み込む。
その時。
「やああぁぁ!」
手を大きく振り下ろすお姉ちゃん。
轟音。
耳をおさえたいほど。
「グルァァ……」
大きな氷の槍に貫かれていた。
離れたところにいるのに、冷たくなるような冷気。
「や、やった……」
ふらつきながら僕へと歩いて、そっと抱きしめる。
そして獣は風が吹いた霧のように散り、消えた。
「マサカ……」
「「!」」
遠くから声。
「マサカ分身ガヤラレルトハ」
踏みしめるような足音。
奥から現れたのは、さっき倒したはずの獣。
「な、なんで……」
絶望した顔のお姉ちゃん。
「ダガ、モウ終ワリダ」
前足に踏み込む。
地面がその形にへこんでいる。
「シネ」
体が跳ね上がり、こっちに飛びつこうとした
その時───轟音。
右の木々が吹っ飛んでいる。
「グルゥ!!」
いつになく苦しそうな声。
近くの壁に大きくぶつかった。
土煙。
その中から現れたのは───
「いやはや、同胞が迷惑をかけたようですね」
鳥。
さっきのとは比べ物にならないくらい小さな……白いフクロウ。
でも、小さく揺らいでいる。
まるで、燃えているような。
「この度は何と謝罪を申したらよいか……」
頭に入る流暢な言葉。
その奥で、土煙の中がうごめく。
獣、狼が立ち上がった。
「ナ、ナゼ……」
「全く……帰りますよ、ルーナ」
ずっと小さいフクロウに、飛び掛かるでもなく威圧するでもなく。
かしこまる様に話す狼。
今何が起きてるんだ。
「シ、シカシ!」
「それが持ち場を離れて良い理由になるのですか?」
「……」
黙りこくる。
その姿勢が、どこか拗ねた子供みたいな雰囲気を出している。
「帰りますよ」
しかりつけるような言い方。
狼は、村へのジグザグ道を進んでどこかへ消えていった。
「そこの方々」
そして僕らの方を向くと、小さい片羽を広げて───
「この度は、誠に申し訳ございませんでした。身内の身勝手を、どうかお許しください」
体を隠すように折り畳む。
「「は、はい……」」
「では、私もこれにて」
そう言って、フクロウもどこか遠くへ飛んでいった。
夜。
そういえば、静かな夜だったな。
あんなことがあっても、祭りはまだ終わってないみたいだ。
2人で土にまみれた顔を見合う。
「ふふ」「ぷふっ」
「「あはははは!!」」
何かわからないけど、可笑しくて笑い込み上げてきた。
「じゃあ、帰ろっか」
お姉ちゃんが俺に手を差し出す。
「うん!」
その手を握って立ち上がる。
お祭りの荷物が鳴った時、お姉ちゃんが門を開けていた。
「「ただいまー!」」
色々あったけど───楽しかったからいいや。
これからまた投稿ちょっと空きます!
3月中はまた更新あるかもだけど、下旬になるかも!




