波紋は広がる
見つけてくれてありがとう。
僕も君に出会いたかったよ
最近、修業がマンネリ気味だ。
勿論使う相手がいないのもそうだが、なにかこう異世界らしいことをしてみたい。
向こうの世界は丁度昼時のよう。
日光が恋しくなる時が来るなんて、思いもしなかった。
「なんかないかなあ……」
ずっと前から魔力を凝縮させるようなことをしてるけど、そうじゃなくてもっとボーン!としたことをしたいのだ。
もっと言えば、ハベルが来た時みたいに何かしら使う、いやアウトプット的なのがしたい。
そんな折、遠くから声がした。
「おーい!」
手を振りながら近づいてくる。
あのチャラついた感じは───
「トラヴァル!」
「久しぶりだね!」
そう、大体2年ぶりとかだ。
なんだか懐かしいようにも思える。
この感情……息子の帰省を待つ親に近いのかもしれない。
「まあそんなことはさておき、そういえば何か困ってるみたいだったけどどうしたの?」
「いやまあ……マンネリっていうか……」
「?」
───僕は今悩んでいることを話した。
「なるほどねえ……あっそうだ!じゃああれなんかはどうかな?魔力増幅」
「なんそれ?」
まあ名前からなんとなくはわかるけど、こういうのは一応ね。
「えっとね───」
───そこから長―い説明を受けた。
整理すると、人間には魔力保有量という、いわば限界値があってそれの底上げのこと。
イメージで言うと、伸縮性のある水の入った膜に、新たに水を入れると伸びるよね、みたいなことだろうきっと。
「ほーん……で、どうやんのそれ?僕一人でできんの?」
そう、本題はそこだ。
僕のイメージが正しければ新たに魔力を入れなければできないもののはず。
……もしやずっと一人で過ごしてる僕に、2人以上じゃないとできないものを持ってくるという嫌がらせなのか?
「本来なら、外から魔力をもらう必要があるし、普通の人はそもそも限界値までいかない。でも君はほら───」
僕の方を指さす。
「意識的に、それも馬鹿みたいに圧縮させてるでしょ?」
「まあ……馬鹿かどうかはわからんけどな」
「でしょ?なら、それを外に放つだけでできるんじゃないかな?」
つまりこれは、今までの甲斐あってのことか。
今まで何となくでやってたことがここで報われるとは……
「えっでもそれってさ、なんか体に影響あるんちゃう?」
「……まあ一気にやりすぎたら死んじゃうらしいよ、見たことないけど。あとそもそもチョー!痛いし」
そういうのは、期待させる前に言うべきなんじゃないのか。
まあ、痛いぐらいなら耐えればいいしなんとかなるだろう。
それに一回死んでるし。
「とりあえずやってみるわ」
「よし、じゃあやり方教えるから、魔力を感じやすい姿勢になって」
(魔力を感じやすい姿勢……?)
全然考えたこともないんだけれども。
とりあえず、イメージだけで言えばヨガのチャクラに近いんだろう。
そう決めつけた僕は、胡坐をかき、手を膝にのせて人差し指と薬指を合わせる。
そして、目をつぶって意識を何となく集中。
「いいねその感じ!じゃあそのまま、自分が広がってくイメージで開放して!」
少し離れたところから大きな声。
(広げる感じ……)
目の奥に広がる宇宙。
そこに自分が溶け出していく。
(?)
何か出ていってるような感覚。
まるでマッサージされてるような、少しだけ心地いい。
「そうそうできてるよ!」
褒められたら興が乗るってもんだ。
(なら一気に!)
この宇宙に自分を押し広げるように……
一気に流れるのを感じる。
1週間ぶりにお風呂に入ったような快感、心地よさ。
これは良い……そう悦に浸ってると───
「うおっ!」
耳元、嵐のような轟音。
トラヴァルの声が遠のいていく。
そして突然、感じたことのないような痛み。
「っ!」
目をつぶっていても感じるようなめまい。
だめだ、ここで負けてはダメな気がする。
もっと一気に───
「一回やめて!何かヒビ入ってるから!」
「え?」
一旦やめ、目を開けて上を見る。
果てしない天井には大きな亀裂、どこまでも続いている。
奥には、ゲームのすり抜けバグで見えるような黒い壁のようなものが見えている。
しかしそれは、すぐに閉じていった。
「なにこれ?」
「……わかんないけど、きっとここの許容量を超えたのかもね」
「はあ……」
「いや何言ってんの?みたいな顔されても、こっちが言いたいし」
許容量とかあったのか。
そうそう起りはしないとは思うけど、これから気を付けなければ。
「……もしかしたら、外に響いてるかもよ?」
「え?」
◇◇◇
兄さんが旅に出てから1か月経った朝。
俺は朝食のジャム塗りのパンを頬ばる。
モチモチと噛むのがちょうど楽しい感じ、大好きだ。
「“冒険者ゲータ”、か」
あの日から父さんと母さんが取り始めた新聞。
ちょっとの絵とたくさん文字が書いてるだけだけど、そんなに面白いのかな。
「なになに?見せてお父様!」
父さんから素早く取り上げる。
「あっ!」「あらあらぁ」
「これからはもっと多く取るか」
俺にも見えるよう大きく広げる。
たくさん書いてあるけど、どれから見ればいいんだろう。
「あっお父様が言ってたのこれじゃない?!」
指さした先は右端の小さい枠組み。
そこには大きい文字で
“冒険者ゲータ B級盗賊団を単独制圧”。
「あなた知り合い?」
「いや、聞いたこともないな。それに先週からずっと載っていてな、もしかしたら───」
「お兄様かな?!」
大声で遮った。
メイドさん達が段々とどよめき出す。
「(ほんとにアラム様なのかな)」
「(どっちにしろ、坊っちゃまならやれるわよ!)」
「(なんであなたがその感じなの?)」
「(でも、もし坊っちゃまならゲータって……何?)」
この人が兄さんかどうかわからないけど、そうだったらきっと兄さんは……
「それよりも、これが終わったら剣術の稽古だからな」
「「え~!」」
◇
1日で一番いやな時間も終わって、もうすぐ昼になるっていう時間。
俺はベッドに飛び込む。
「いたいー!」
体の全部痛い。
さすがに今日はやりすぎだと思う。
「お疲れ様です坊っちゃま」
「うん……」
最近、タエさんの顔を見てると変な感じになる。
なんだかドキドキするっていうか、なんというか。
「お疲れだと思いますが、お昼の準備ができましたので食堂にいらしてくださいね」
「うん」
「お勉強はそのあとにしましょう」
「やだー!」
そして、タエさんが扉に手をかけて出ようとした瞬間。
「うっうう……」
急に頭が痛くなりだした。
「坊っちゃま大丈夫ですか?」
心配そうな声と顔。
大丈夫って言おうと口を開ける。
しかし───
「あっあああぁぁ!!」
一気に痛みが大きくなる。
「坊っちゃま!坊っちゃま!」
わからない。怖い。
何か中から殴られてるような、中から何か飛び出ようとしてるみたいな。
体をゆすられる。
体温、感じようとしても痛みが蓋をする。
「そうだ、奥様!坊っちゃま、すぐ戻りますからね!」
勢いよく扉が開く。
閉まらず開きっぱなし。
目がチカチカしだした。
よく見えない、いや見たくても頭が大変でそれどころじゃない。
ぼんやりとした世界で、少しだけ人が見えた。
いや、これだけは見なきゃって思ったんだ。
お姉ちゃん、お母さん、お父さん、タエさん。
そこで僕は、僕を落とした。
◇◇◇
全く、お父様があんなに叩くなんて。
それに疲れたせいでとてもお腹が空いた。
私の目の前に置かれている、オムライスとポテトサラダ。
せっかくなら、ハベルと一緒に食べたい。
何なら食べさせあいたい。
呑気なことを考えていると、上から何か感じる。
これは……ハベルの魔力。
何か遊んでるのかも。
「ハベル遅いね」
「そうだな、きっと疲れてるんだろう」
「寝てるのかしら」
でもハベルは賢いから、今からご飯っていうときに遊ぶとは思えないけど、まあそういうときもあるのかもしれない。
そしたら、何か急いでるような足音。
勢いよく開いた。
タエちゃんだ。
「奥様!あ、坊っちゃまが……坊っちゃまが!」
血相を欠いたような顔。
嫌な予感。
私たちは階段を駆け上がってハベルの部屋に向かう。
扉が開いてる。それほど急いでたんだろう。
中を入ると───
「ハベル!」「「!!」」「坊っちゃま!」
頭を抱えてもだえ苦しむハベル。
お母様は手で口を抑え、お父様は呆然と立ち尽くす。
「ハベル!ハベル!」
肩を揺らしても、近くで名前を呼んでも変わらずに。
何よりも、ものすごい魔力を出し続けてる。
そして、疲れ切ったように静かになって目を閉じた。
「ハベル!」
変わらず名前を呼ぶ。
胸に耳。
揺れてる。
つまりまだ生きている。
「奥様、回復の魔法を!───」
「ダメよ」
メイド長が遮った。
「な、なんで!」
「これは怪我でも病気でもないからよ」
漏れ出る魔力、激しい痛み。
頭の中で勝手に結びついていく。
そんなの嫌だ。
嫌だ。
「“魔力暴走”。ハベル様は今、魔力の器が壊れようとしているの。だから魔法を使って魔力をつぎ込むようなことをしたら……」
「も、もしそのままこわれてしまったら」
「その時は、ハベル様はもう……」
冷静に淡々と語る。
その手は、口は吹雪の中にいるみたいに震えている。
「じゃあ……じゃあ私たちはどうしたら!」
「……神に祈るしかないわ」
呟くように言った。
膝から崩れ落ちるタエちゃん。
絨毯が濡れる。
シミは広がっていき、私の下のものと繋がった。
メイド長は、肩に優しく触れて───
「だから、みんなで一緒に祈りましょう」
「……はいっ」
私たちは手を合わせて、天を仰いだ。
だから、お願い。
ハベル……
◇◇◇
明るい日差し。
変わった匂いの風。
ここは……崖際みたいだ。
目の前には、何か立っている。
まるで墓みたいだけど……なんでこんなとこに。
“小僧”
頭に声がした。
「え?え?」
“聞こえておるようだな”
周りを見ても、誰もいない。
この声とは別に、上の方から何か聞こえるような気も……
“小僧、帰りたいか?”
(?)
何のことかはわからないけど、今は───
「みんなに、会いたい」
心のままに口にする。
“まるで答えになっていないではないか!”
どことなく、うれしそうな声。
“ならば、帰してやろう。旧友が迷惑をかけた。すまなかったな”
その言葉で、俺はまた眠りについた。
◇◇◇
目を開く。ベッドの上。
痛みは……すっかりない。
周りを見たら、皆が驚いたみたいにこっちを見てる。
「ハベルー!」
「うぶっ!」
衝撃。
お姉ちゃんが飛び掛かってきた。
痛いけど、ちょっと嬉しい。
「坊っちゃま、無事でよかった」
目元が腫れている。
「……うん!」
左。
お姉ちゃんが、涙を浮かべて───
「ほんどに…よがっだああ!」
俺を強く抱きしめた。
「え、えへへ」
◇◇◇
「っ!これは、師の気配……」
月夜の下、暗夜の霜が辺りを隠す中。
印を見つけた、強大な影。
「師よ、今行きます」
歩き出す。
一つの方へ向かって。
その足音は、光差す世ならば微笑みさえ感じることが出来たのだろう。
しかし暗夜の影は、それをも飲み込み喰らうのだった。
補足
魔力暴走:未だにその現象は謎深く、なる者の特徴はわからないが、魔力の飽和によるものだと言われている。共通していえることは、屈強な戦士でも耐え難いような激痛に見舞われること。
中にはそのまま死んでしまったり、保有魔力が莫大に増加したり、何も起こらなかったりと効果は様々。
ある国家は、これに目をつけて何やら動こうとしているという噂も。




